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読む・楽しむ もっと制作者フォーラム
各地で行われた制作者フォーラムの模様を、参加者の声を交えて伝えます。

2022年1月18日

もっと  制作者フォーラム in なごや

レポート+寄稿

 2021年12月17日(金)、CBCホールにて、愛知・岐阜・三重制作者フォーラムが開催されました。コロナ禍により昨年は中止になったフォーラムでしたが、今年は2年ぶりに参加人数を制限して、約80名が参加しました。

 ミニ番組コンテストでは10作品の力作の中から優秀賞3作品が選ばれました。その中から『5時スタ 深掘りタイムズ 介護タクシー患者搬送275日』を制作した東惇さんから番組についての思いを寄せていただきました。

「介護タクシードライバー 患者搬送の日々を追って」
東 惇(テレビ愛知)

 名古屋市から委託を受け、コロナ患者の搬送を行う、介護タクシードライバー・迫田塁さんの275日を追いました。
 感染のリスクを考え、家族と離れて暮らし、コロナ患者を搬送していた迫田さん。業務でコロナに罹患し、命を失いかけたにも関わらず再び搬送現場へと戻っていきました。
 その後、感染者の減少に伴いコロナ患者の搬送業務はひとまず終了しましたが、迫田さんは「第六波が来た時に備えて、一人暮らし用のアパートの契約は残している」と仰っています。
 今回の企画は、迫田さんとご家族、関係者の皆様のご理解とご協力がなければ、放送する事はできませんでした。迫田さんのような民間のドライバーが、コロナ患者の搬送を担っている事実、そして、民間のドライバーがコロナ患者を搬送しなければならない実情がある事を一人でも多くの方に知ってほしいとの思いから制作しました。

 ミニ番組コンテストの後、審査員の西田二郎さん(読売テレビ ビジネスプロデュース局 チーフエキスパート)、五百旗頭幸男さん(ドキュメンタリー映画監督・石川テレビ放送記者)、上出遼平さん(テレビ東京 制作局 プロデューサー・ディレクター)の3名によるトークセッションが行われました。若手制作者からの質問に熱心に応えていただきました。
 そんな3人の方々から再び、若手制作者のみなさんへアドバイス、エールをいただきました。

ミニ番組コンテスト審査員
「映像という言葉」
西田 二郎(読売テレビ ビジネスプロデュース局 チーフエキスパート)

 映像という言語の伝え方には正解はない。自身が番組を作るときにずっと思ってきたことだ。いわば映像の言語は各々「個人という国」の中で育まれるようなもので、今回の名古屋でのフォーラムでは様々な国から集まった言語の使い方について熱い時間を過ごし、その意味で大切な環境なんだと実感した。
 ドキュメントの視点から「五百旗頭国」の言語、「上出国」の言語は切れ味よく制作者に刺さっていく。お手本のような言葉の使い方だけが正解ではないことを実感していく制作者たち。映像言語の使い方は、どんな伝える手段よりも自由で制約がない。正解を求めるだけに終始しないで自分の感覚に直截に、オリジナルに自分の言語を開発していくことこそが放送の文化を育む大切なことだと理解して、これから「自分の国」の言語を発していく制作者に育っていくよう期待したい。

ミニ番組コンテスト審査員
「ちっぽけなプライド」
五百旗頭 幸男(ドキュメンタリー映画監督・石川テレビ放送記者)

 32歳の時、北信越制作者フォーラムに参加した。報道記者になって5年。ニュース特集はもちろん、1時間番組も自ら編集して作れるようになっていた。社内の若手では、誰よりも取材と編集ができる。自信満々。意気揚々。颯爽と乗り込んだ新潟。

「こんな短いファーストカットはありえない」
「ストーブのカットの意味がわからない」
「主人公の必死さが全く伝わらない」
「ナレーションがあっていない」

 審査員から浴びせられた「ないない」尽くし。晴れの舞台が公開裁判に変わった。天狗の鼻はすっかり垂れ下がった。絶対に賞を獲れる。勘違いしていた自分が恥ずかしくてたまらなかった。嫌なことは重なる。表彰式後の懇親会。受賞したライバル局の部長がにやけ顔で寄ってきた。

「俺が教えてあげようか」

 放心状態のなか勇気を振り絞る。自分を酷評した審査員のもとへ向かった。正直行きたくなかったが、行かなければならないと思った。この時言われたことは何も覚えていない。それでも、はっきりと言える。この経験がなかったら今の自分はいない。制作者としての自分を疑い、一から見つめ直す機会になった。

 11年後、審査員を務めるとは思わなかった。褒めた人もいる。厳しい言葉を投げかけた人もいる。過信が築き上げるプライドは簡単には気づけないし、捨て去れない。厄介な代物だ。でも振り払えたときには、新しい世界が開けている。若い制作者に知ってほしい。

ミニ番組コンテスト審査員
「海原雄山と申します」
上出 遼平(テレビ東京 制作局 プロデューサー・ディレクター)

 東海地方が題材の宝庫であることを強く感じました。まだ調理されていない、手付かずの素材がそこらじゅうに散らばっているようです。ここから必要なのは材料を発見して、掘り起こし、見極める嗅覚。その素材を一番美味しく食べられるように調理する技術。あとはお客さんにそれを提供する場所。
 みなさんがまだ持ち合わせていないのは調理の技術でしょう。素材を美味しく安全に加工するには、最低限の手続きが必要です。それは例えば鶏肉は火を通すとか、ゴボウは灰汁を抜くとかそういうことで、ここにはセンスもクソも必要ありません。ただの手順です。しかしながら、この手順を軽視して「やってはいけないこと」をやったり、「やらなければならないこと」をやらなかったりすると、その先にどれだけのセンスが爆発していても食べられるものにはなりません。その手順は簡単にマニュアル化することもできますが、面倒臭いのでやりません。
 あと、みなさんがモタモタしてると僕が片っ端から東海地方の素材を撮って出しちゃうので急いだ方がいいですよ。