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各地で行われた制作者フォーラムの模様を、参加者の声を交えて伝えます。

2023年12月14日

もっと  制作者フォーラム in やまがた

レポート+寄稿

 2023年11月17日(金)、山形テルサにて北日本制作者フォーラム実行委員会と放送文化基金が主催する「北日本制作者フォーラム in やまがた」が開催されました。コロナ禍により、オンラインでの開催が続いたため、番組を出品した制作者が現地に集まるのは実に4年ぶりとなりました。開催にあたり、東北6県と北海道にある全民放テレビ局とNHK、計34の放送局が協力し、会場には制作者を含め約40名が参加しました。
 初めに行われたミニ番組コンテストでは、全91作品の中から、各地区の予選を通過した21作品が上映されました。一番組ごとにゲスト審査員の野中章弘さん(早稲田大学教授、ジャーナリスト、アジアプレス・インターナショナル代表)、金川雄策さん(Yahoo!ニュース エキスパート ドキュメンタリー チーフ・プロデューサー)、高橋弘樹さん(映像ディレクター)が、講評を行いました。ゲスト審査員は、制作者との質疑応答も交えながら、ナレーションの入れ方や構成、視点をどこに置いて制作するかといった具体的なアドバイスを送りました。
 引き続き、「進むべきローカル局の未来は? SNS時代の生き残り策」と題したトークイベントが行われました。高橋さんは今回上映されたミニ番組を踏まえ、「2、3年前なら低く評価した番組でも、YouTubeで配信したら再生回数が伸びそうな番組があった。自分の内面や価値観を表現したコンテンツの方が視聴者に深く刺さり、口コミで広がっていく。時に客観性から離れてみることも必要なのではないか」と語りました。金川さんは「取材対象者の外面的、内面的な変化をしっかり追えていた。地方局でもまだまだ予算や時間をかけて制作する力がある。より“強い”番組にしていくために、若手制作者の個性を活かした番組作りの土壌をつくっていくべき」と提言しました。最後に野中さんは、今後のテレビの役割について「多くの情報が溢れる社会の中で、テレビは信頼できる情報をこれからも発信していくことだ。視聴者に寄り添うだけでなく、私たちが知らなければならない情報を伝えていってほしい」と締めくくりました。
 その後、会場を移して表彰式、懇親会が開催されました。懇親会が開催されるのは、大雨警報発令による中止(2019年)やコロナ禍を経て、実に5年ぶりとなりました。制作者同士の局の垣根を越えた交流や制作者がゲスト審査員に熱心に質問をする様子が印象的でした。最優秀賞、優秀賞を受賞した制作者たちは来年2月17日の「全国制作者フォーラム2024」に招待されます。

 ミニ番組コンテストで最優秀賞を受賞した松原一裕さん(NHK盛岡放送局)、審査員の金川雄策さん(Yahoo!ニュース エキスパート ドキュメンタリー チーフ・プロデューサー)、山形世話人会幹事社の山本哲さん(山形放送)に、フォーラムの感想をお寄せいただきました。

最優秀賞受賞者
「モヤモヤを抱えたままで」
松原一裕さん(NHK盛岡放送局)

 「...で、その人は誰を亡くされたの?」。
 デスクは私を見ずに、企画の提案内容が書かれた紙にことばを落とした。3月11日の前になると、ごく普通に交わされる会話だ。ひどいことばだと思うかもしれない。誤解が生まれないよう説明を加えると(説明したところで、誤解しか生まないのだけど)そのデスクも、決して、亡くなった人がいるかどうかで提案を見ているわけではない。
 ただ、ずっとモヤモヤがあった。私は悲惨な人探しをしたいわけじゃない。
 報道カメラマンとして災害現場を見てきた私は、デスクが却下しそうな「地味な話」の提案を出した。前もって書くが、この企画の中の登場人物は、だれも死んだりしない。自分より他人のことを優先して、被災地を支えてきた人たちの話。災害現場にはいつも多くの災害現場にはいつも多くの「名も無きヒーロー」がいる。そして、ヒーローものにはいつも「続き」がある。

ミニ番組コンテスト審査員
「未来を明るく照らすディレクターの熱意」
金川雄策さん(Yahoo!ニュース エキスパート ドキュメンタリー チーフ・プロデューサー)

 「ここはドキュメンタリーの宝の山だ」。北日本制作者フォーラムに参加し、北日本各地に眠るストーリーの多さと、それを届ける若手ディレクターたちのエネルギーに圧倒された。ルーティンとも言えるひたすら繰り返す忙しい仕事の合間に、制作者はきっと額に汗をかき、寒さに凍えながら取材先に通ったのだろうと想像しながら映像を拝見した。足繁く通って培った被写体からの信頼と関係性、地域に根付いているからこそできる継続性を映像から強く感じ取った。
 ドキュメンタリーの面白さは、人(被写体)と人(取材者)の関係性によって紡がれる。ただ、赤の他人と繋がることには、仕事といえどもとても力がいる。それでも、このストーリーを伝えたい、伝えるべきだと、あらゆるハードルを越えて形にし、ようやく放送される映像たち。ときに被災地のいまを、声なき声を、人間の力強さを伝えてくれる。これらの映像は、私たち社会がもっともっと大切にしなければならない宝物だと私は思う。ドキュメンタリーが社会により必要とされる世界を作る一助になりたい、私自身また明日から頑張ろうと制作者からエネルギーをもらった。

山形世話人会幹事社
「準備は整った」
山本 哲さん(山形放送 報道制作局報道部 次長)

 コロナ禍となって以降、今年は初めてリアル開催とし、懇親会も開きました。ご尽力していただいたすべての皆様に感謝を申し上げます。
 1次審査通過は21作品。事務局の役得で最初に全作品を鑑賞して、衝撃でした。作品をより多くの人たちに観てもらいたい!自分も若くはないけど、もう1度、映像作品を作ってみたい!そんな思いに駆られながら、日常のデスク業務をほったらかし、準備にまい進しました。至らない点も多々ありましたが、当日、ゲスト審査員3名の厳しくも温かい言葉を真剣に聞く制作者の姿をみて、幹事を担当できたことを誇りに感じています。
 いま思うのはこのフォーラムは晴れの舞台でもあると同時にこれからの準備でもあるということです。フォーラムが成功と言えるかどうか、参加した制作者1人1人の今後の活躍を強く願っています。