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各地で行われた制作者フォーラムの模様を、参加者の声を交えて伝えます。

2017年3月21日

全国制作者フォーラム2017~参加者の声~

寄稿

 2017年2月18日(土)、東京で「全国制作者フォーラム2017」を開催しました。開催内容はこちら

 2016年秋に開催した全国4地区での制作者フォーラムのミニ番組コンテスト入賞者を招き、ベテラン制作者をゲストに迎え、ミニ番組12作品の上映会、「家、ついて行ってイイですか?」(テレビ東京)の上映とトークセッション、パネルディスカッション「テレビの極意~私の番組制作術~」を行いました。全国から制作者や放送関係者、放送に関心のある学生の皆さんなど約90人が集まり、活発な意見交換が行われ、交流を深めました。
 ゲスト出演者、司会者、上映したミニ番組12作品のうち、審査員特別賞を受賞した4作品の制作者、その他参加された方々にフォーラムに参加しての感想をお寄せいただきました。

ゲスト出演者・司会者の声
ミニ番組特別賞受賞者の声
参加者の声
ゲスト
励まされたのは誰か
阿武野 勝彦(東海テレビ放送 プロデューサー)

  フォーラムは、終始いい雰囲気だった。丹羽先生と高橋プロデューサーとのやりとりは抜群だった。みんな楽しく奥へ奥へと入って行けたのではないだろうか。自戒を込めて言うのだが、硬派のドキュメンタリーは、とかくユーモアに欠ける。社会問題にユーモアなど不要だという人もいるが、そもそも熱中し、没入し、必死になっている人間の姿は、どこかキュートでユーモラスだと思う。だから、クスッと笑ってしまうようなシーンを番組に挿し込める作り手に出会うと、それだけで「まいったぁー」と脱帽だ。すべての笑いは批評でもある…。根っ子がしっかりしていて、柔らかな発想と取り組み。現場で差配する高橋さんの姿が見えるような対談だった。
 しかし、9000人にインタビューして出演者は14人になるという話、番組予算のほとんどを現場のディレクターに配分するという話。それは、素晴らしい番組には時間と労力が埋まっていること、そして一番大事にすべきことは何か、テレビマンの持つべき哲学をさりげなく広げてくれていたのだと思う。
 吉崎さんがいらしてよかった。熊本という一地方に張り付くことで見えてくるものをひたすら実践しているテレビの鉄人だからだ。誰もが東京へ行きたがる中で、地方からこの国を凝視することの凄みを吉崎さんは持っている。打席に立ち続ける吉崎さんの世界に、地方の制作者は勇気づけられたに違いない。
 私は、鼎談でドキュメンタリーはメインカルチャーではなく、サブカルチャーだと言った。現状認識を厳しくしないと道を間違うから、表現としてドキュメンタリーが力を失った時代だと強めに言ったのだ。酒の入った懇親会で、放送評論家の鈴木嘉一さんが優しく話しかけてくれた。「サブは補完ですよ。カウンターカルチャーと位置付けた方がいい」と。なかなか広がらない我が営みに、私は苛立っていたのかも知れない。今年のフォーラム。一番励まされたのは私だったのかもしれない。
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ゲスト
放送文化の「多様性」
高橋 弘樹(テレビ東京 制作局 プロデューサー・ディレクター)

 今回の全国制作者フォーラムに参加させていただいて、改めて思ったのは、「多様性」がいかに重要かということだった。
 一つ目には、ミニ番組コンテストに出品された番組について。北日本3局の作品は、3本全てが東日本大震災に関するものであった。九州は熊本地震に関するものが2本。しかし、その他の地域は、震災に関するものは0本。当たり前のことであるが、いかに全国的な影響があった災害でも、地域によって立ち直りのスピードや、傷跡の深さは違う。キー局だけではカバーしきれない、地域の関心事が、事細かに描かれる、ローカル局のドキュメンタリーやバラエティーの“多様性”がとても興味深かった。
 二つ目には、パネルディスカッションについて。東海テレビの阿武野さん、NHK の吉崎さん、そしてテレビ東京の筆者では、おそらく、演出論や、テレビの意義に対する考え方がまったく違うのだろうな、という瞬間が多くあってとても面白かった。
 例えば、日常ではない「イベント」の撮影について議論した時も、筆者はむしろ、イベントをしかけていく位の意気込みで撮影に臨むこともあるが、阿武野さんは反対だった。しかし、思えばそれも当然だ。
 阿武野さんは、1〜2年単位でドキュメンタリーを作り上げていく。筆者からすれば、それはかなり長い期間だ。NHKの吉崎さんは、さらに一生のライフワークとも言える「水俣病」というテーマを何十年という単位で追いかけている。さらに長期だ。そして、筆者は長くて2週間。「家、ついて行ってイイですか?」ではわずか数時間、という時間軸で即興のドキュメンタリーを描こうとする。手法が自ずと異なってくることは当たり前だ。そうした差異に気づいてパネルディスカッションを振り返るととても興味深いものだった。
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ゲスト
ドキュメンタリーの希望を感じた全国制作者フォーラム
吉崎 健(NHK熊本放送局 チーフディレクター)

 正直にいうと、朝から夕方まで、一日大変だなあと思っていました。しかし、実際は、時間が過ぎるのが早く感じられ、とても充実した一日となりました。
 ミニ番組は、どれも意欲的で、全国各地でみんな頑張っているんだと思うと嬉しくなりました。吉崎賞は、『DIVE!さよならの夏』を選ばせてもらいました。歴史ある「飛び込み台」の存在感と、それぞれの時代に関わった人達の思いが強く感じられて、飛び込み台が、人々の思いがこもった特別なものに見えました。
 常々、映像と音で、時間と空間を切り取って表現する「テレビ」は、感情を伝えるのに優れたメディアだと思っています。理論や理屈を説明するなら論文の方がいい。テレビでこそ伝えられるのは人間の喜怒哀楽ではないか。理想は両方兼ね備えた番組ですが、理詰めで納得させるより、泣いたり笑ったり怒ったりした番組の方が心に残ると思うのです。
 高橋さんの番組『家、ついて行ってイイですか?』は、最初、笑いで引き込み、やがて悲しみまで、人生の深みを感じさせてくれる、まさに「感情のメディア」として、多くの人の心をつかんでいるのでないかと思いました。そして、最近、現場に足を運ぶことより、机上で考えた理屈を優先する番組作りが増えていると感じていたので、徹底的に現場ロケにこだわり、取材相手を大事にするという点で、とても共感しました。
 フォーラムの翌日、阿武野さんのドキュメンタリーが上映されている映画館に行きました。そして、驚きました。チケットは売り切れ、人が溢れていたのです。ドキュメンタリーの上映でこんな状況は見たことがありません。いい番組は人の心に届く。ドキュメンタリーの希望を感じた2日間でした。
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ゲスト
ローカルテレビのミニ番組に学ぶ
丹羽 美之(東京大学 准教授)

 このフォーラムで、全国各地の若手ディレクターや記者が作ったミニ番組を見るのを毎回楽しみにしている。平日午後のレギュラーワイド枠でオンエアされる5分程度のミニリポートや生中継には、年に一度のコンクールに出品される「よそ行き」の作品とはまた違った、「普段着」のローカルテレビの姿、制作者の日常の息づかいが感じられるからだ。
 今回はその中でも、依田倫博さん(信越放送)が制作した『ラジオパーソナリティがアポなし生中継 ずくだせlive』が面白かった。午前中のラジオ放送でリスナーから取り上げてほしい内容を募り、午後のテレビ放送でアポなし生中継を敢行するという無謀とも言える企画。「孫の七五三の晴れ姿を取材してほしい」と応募してきた昔ヤンママの女性を事前連絡もなしに訪ねるが、そう簡単に出会えるはずもなく…。抱腹絶倒のすれ違いやハプニングが、近隣住民も巻き込んで次から次に沸き起こる。
 毎回こんな作り方をしていたら、大失敗する放送回もあるだろう。それをものともしない作り手の自由なチャレンジ精神が何より素晴らしい。またそれを笑って受け入れる視聴者や地域住民の寛容さも羨ましい。テレビが地域の人々を育て、また地域の人々がテレビを育てる。そんな信頼関係を日常の放送の中で毎日コツコツ作り上げているからこそ、こんな奇跡のような瞬間が成立するのだろう。
 「失敗を何度も繰り返し、もがいていると、あるときテレビの神様が舞い降りる瞬間がある」。ゲストの阿武野勝彦さんはフォーラムのパネル討論でこう語っていた。いまテレビの制作者も視聴者も、失敗を極端に恐れているように思われる。企画書通り、構成表通り、予想通りの番組作りがテレビをダメにする。いかにテレビの予定調和を打ち破るか。案外そのヒントは『アポなし生中継 ずくだせlive』のようなローカルテレビのミニ番組の中にこそあると思うのだ。
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司会
もっと工夫したい!味わい深い番組を作りたい!
佐々木 永恵(テレビユー山形 アナウンサー)

全国から集まった同じ志を持った仲間に刺激をもらい、心躍る感覚を感じています。

私は、夕方のニュースキャスターを担当する傍ら、企画制作にも携わっています。
今回のフォーラムは、皆さんと同じ思いを持ち、ヒントを探るつもりで参加しました。
全国の若いディレクターの作品12作品は、どれもこれも力作ぞろい。瑞々しい感性やユニークな切り口、テロップの出し方、ナレーションの当て方に至るまで、たくさんの気づきをもらいました。
毎回の放送に追われ、出すだけで精いっぱいになっていた私ですが「もっと工夫の余地がある!」と新たな意欲が湧いてきました。

ゲストの方々からは、宝物のような言葉をいただきました。特に心に響いたのは「相手から言葉を聞き出すのではなく、心に耳を傾ける」欲しいコメントを引き出そうと躍起にならず、その人の気持ちを表しているならば無言でも多くを語っているのではないか・・・番組制作する上で、心に留めておきたいと思います。

このフォーラムで共に学び熱い思いを持った仲間たちが、全国で活躍していると思うと心強いです。
それぞれがそれぞれの場所で力を発揮し、大きく成長して再会できることを期待しています。私も頑張りますね。

★阿武野賞 受賞
テレビの異種格闘技戦
本村 博(テレビ西日本)

 私の本来業務はニュースカメラマンで、常日ごろ先輩から「ストレートニュースでも必ず50秒のなかにひとつ、自分らしい視点の画をいれろ」と言われるのですが、「自分らしい視点」というものは画作りのうえだけの言葉でないことをまざまざと思い知らされた2時間余りでした。
 今回のミニ番組コンテスト、テレビのひと言で括っても番組に企画VTRに中継にとなかなかの異種格闘技戦。自分以外の11本を見るにつけ「くそ!」「負けた!」「こんな手があるのか!」と終始凹みまくりました。全国の同業の仲間から「作り方はひとつだけじゃないんダゼ」と、その背中で諭された気持ちです。
 全体上映の終了後は心地よい敗北感と、でもやっぱりテレビ面白いじゃんという気持ちで心が満たされました。ここで得たさまざまな刺激やヒントを自分のモノづくりにどう活かしていこうか、どう活かしていけるのか、これからの私の課題にしていきたいと思います。

★高橋賞 受賞
改めて気づいた番組づくりの極意
坂元 伸一(宮崎放送)

 この度は、全国制作者フォーラムに参加させて頂き、ありがとうございました。
 また、高橋弘樹プロデューサー特別賞まで頂き、大変感激致しました。私は、視聴者の心に突き刺さる番組を目指し、日々、試行錯誤しながら番組制作にあたっております。今回、パネラーの皆様の「テレビの極意~私の番組制作術~」のお話しを伺い、「視聴者に常に疑問を持たせるしかけが大切」「弱者に寄り添う番組」「斜めから物事を見ることも大切」そして、「番組作りに特別な手品や魔法はない。努力を積み重ねていると必ずドキュメンタリーの神様が降りてくる」という言葉が心に留まりました。改めて番組作りに大切な心構えを気づかせて頂きました。また、全国のディレクターの方々と番組作りの想いを語り合えたことも貴重な経験となりました。今回のフォーラムで学んだことを生かし、これからもこだわりを持って、自分にしか作れない心に突き刺さる作品をとことん追求していきたいと思います。

★吉崎賞 受賞
「声」を聞く仕事
岡 大樹(NHK金沢放送局)

「人の話に耳を傾けるのは難しいなあ」とつくづく思います。
ディレクターという仕事に就いて1年。
最近の悩みです。

すごい技能を持った人、過去に壮絶な経験をした人、
自分の何倍もの時間を生きてきた人・・・。
誰かの「声」を受け止め、番組として誰かに伝える。
とても難しく、楽しい仕事だと思います。

この番組では、
「日本で一番古い飛び込み台」の声に耳を傾けました。
金沢郊外の住宅街の中にすっくと立ち、
「飛び込み石川」とまで言われた黄金時代を見つめてきた飛び込み台。
一目惚れでした。
「その『声』を聞いて、番組にして、誰かに伝えたい」
そんな想いが通じた結果として頂けた賞だとしたら、
制作者としてこんなに嬉しいことはありません。

兜の緒を締めて、
また魅力的な「声」に出会えるように精進いたします。
制作者フォーラムが今後もますます発展し、
私のような若い制作者の励みであり続けますことをお祈りいたします。
ありがとうございました。

★丹羽賞 受賞
テレビの極意、教えてもらってイイですか?
依田 倫博(信越放送)

 「どうしたらこんなことできるんですか?」「うまくいかないことってあるんですか?」懇親会の席で多くの方にご質問いただき、私も「教えてもらってイイですか?」と質問しました。現場でがむしゃらに働く者同士、知りたいことは一緒。情報交換ができる貴重な場でした。
 テレビの極意について、様々な切り口でヒントをいただいたパネルディスカッション。 「地方局の宝は人にあり!」「取材先の家に行ったらまずは棚に並ぶ本や装飾品を観察すべし!」「神様が降りてくる時まで耐えてもがけ!」など、制作者としての意識の持ち方など核心を教えていただき、極意を言葉にして伝えるすごさを改めて感じました。
 私も極意を言葉にして伝えられる日を目指し、今は「教えてもらってイイですか?」と学ぶ姿勢で臨みます。

参加者
全国制作者フォーラム2017に参加して
鵜飼 俊介(NHK和歌山放送局 チーフ・プロデューサー)

 新米プロデューサーとして日々、若手の育成に悩む中、ヒントを求めてフォーラムに参加しました。「家、ついて行ってイイですか?」の高橋プロデューサーは、かねがね会ってみたかったテレビマンであり、特に大きな刺激を受けました。行き当たりばったり、ノーナレ、スタジオも一般人のお宅で収録、とテレビの常識をことごとく覆し、ゲラゲラ笑わせておいて、突如、深い人間ドラマを展開。どうやったらこんな番組ができるのか。9000人に声をかけて14人オンエアという「打率」や、酩酊した取材対象を相手にしたリスク管理など、知りたかった手の内を惜しみなく聞かせてもらいました。
 フォーラム全体を通して感じたのは、やや先行きが不安な放送界、民放、NHK、みんなが「テレビの新たな可能性」の模索を続けていることです。地方同士だとなかなか情報が入ってきませんが、こうした場を通じて互いの取り組みを知ることで、よりよい番組が生まれるのではないか。そんな希望を感じました。

参加者
なぜ、もっと多くのテレビマンが参加しないんだ?
佐々木 健一(NHKエデュケーショナル 主任プロデューサー)

 「なぜ、もっと多くのテレビマンが参加しないんだ?」
 これが、懇親会、二次会まで参加した偽らざる感想です。かく言う私も、家を出るまでは「なんとなく面倒くさい…」と感じていました。数年前から注目していたテレ東の高橋弘樹さん、讃仰している東海テレビの阿武野勝彦さんが来られると聞き、喜び勇んで参加申し込みをしたにもかかわらず…です。矛盾しています(笑)。
 言うまでもなく、テレビという受動メディアは〝偶然の出会い〟を届けるところに大きな強みや魅力を持っています。たまたま見た番組によって、世界の見方が変わる、人生が変わる。
 そうしたメディアに関わる住人なら尚更、こうした集いに〝なんとなく〟参加することが大切だと思いました。なぜなら、当日、本当に心を許せる愉快なテレビマンたちとあんなにも語らうことができたのですから。一歩を踏み出さない方が、実は知らぬ間に“出会い”の機会を失うことに改めて気づかされました。

参加者
アンテナ
本道 陽果(福井テレビジョン放送 制作部)

 全国の番組制作者同士で話をする機会は私自身なかったため、それぞれの現場がかかえる番組作りにおいての課題や問題などを共有、意見交換することができ、貴重な機会となりました。こういうネタもいけるんだ!こんな中継もありなんだ!など、今まで自分の中にはなかった手法や内容の番組を拝見させていただき、非常に刺激を受けました。また、自分に足りない視点が多くある事に気づかされ、まだまだ可能性はある、成長できる!と自信にもつながりました。テレビマンたるもの日ごろからアンテナを広く色々な方向に張り巡らせておかなければなりません。取り上げるネタは“正面から”と、あえて“斜め”から見てみて新たな発見がないか、これはちょっと難しいかなと思っても、別の切り口でできないか考える。みなさまとお話させていただき、自分の視野が広がり、常にアンテナを張って探求心を持たなければ新しいもの・面白いものには出会えない、と改めて強く感じました。ありがとうございました。