放送文化基金賞
岡山天音さん「多くの方に『ひらやすみ』の世界が届いて嬉しく思います」|第52回放送文化基金賞 贈呈式 開催リポート
文:鈴木祥吾(編集部)

第52回放送文化基金賞 贈呈式を7月8日に都内で開催しました。各部門で選ばれた受賞者をお招きし、盾・トロフィーを贈呈、受賞スピーチをしていただきました。今年の全体の応募件数は、例年を上回る317件。応募作は、戦後80年という節目の年を踏まえた作品や、現在各地で頻発する戦争に焦点を当てた作品が多く応募されました。最前線で取材する制作者、毎日を彩るドラマの俳優陣、そして日々の放送を支える技術者。彼らの渾身のスピーチを中心に、贈呈式の模様をお届けします。
戦後80年、どう向き合うか。
1945年の終戦から80年。「戦争」をテーマに選んだ作品が多く受賞しました。
ドラマ部門では、奨励賞を受賞した『八月の声を運ぶ男』(NHK、WOWOW)。長崎に暮らし、日本全国を渡り歩いて被爆者の声を集め続けたジャーナリスト、伊藤明彦さんの実話に基づいた物語。当日来られなかった主演の本木雅弘さんのビデオメッセージでは、「語り継ぐことの大切さとその難しさ、その両面に向き合った」と撮影を振り返りました。
ラジオ部門は、『沖縄戦後80年 父はアメリカ兵だった』(NHK)が「沖縄の「ミックスルーツ(ハーフ)」の現状という独自の視点から、戦後80年を検証した優れた番組」と評価され、最優秀賞に選ばれました。番組を代表して安里恭幸さんが壇上に立ち、スピーチしました。

「審査員のコメントを読んで、伝えたいことが伝わったと思い安心しました。沖縄の人たちにとって大切なのは、平和を願う思いとともに、祖先から受け継いだ豊かな精神文化、そして伝統芸能です。それを伝え続けてきた沖縄テレビさんの『郷土劇場』と同じ表彰台に立つことができて嬉しく思います。これからも沖縄に心を寄せてくださることを願っております」
ドキュメンタリー部門からは、ロシアが軍事侵攻によって占領したウクライナの領土で何が行われているかを取材した『臨界世界 戦慄の占領地 “ロシア化”の実態』(NHK)が奨励賞に選ばれました。この番組で企画・制作賞を受賞した木村和穂さんは、「占領地の暮らしがどんな日々なのか。それが企画の出発点でした」「先月、取材でお世話になったウクライナ人のスタッフが2名徴兵されました。今、彼らは前線にいます。彼らの無事を本当に心から祈っています」と、今も戦争が起きていることを訴えかけました。

同じく奨励賞『僕の日本人助産師を探して』(テムジン、NHK、NHKエデュケーショナル)は、中国人ジャーナリストの寇愛哲さんが自身を取り上げた助産師・浦山あき子さんの消息を探すドキュメンタリー。日中関係が悪化する中で、人と人のつながりに焦点を当て、企画・制作賞を受賞した房満満さんは、寇さんからのメッセージを読み上げました。

「どんな時代であっても、私たち中国人と日本人は、交流を諦めてはいけない。人と人がつながっていけば、どんな高い壁でも乗り越えられると信じています」
房さん自身もスピーチし、「私たちは、人の痛みを自分の痛みかのように痛むことはできないけれど、そうなるように努力を惜しんではいけない」と早稲田大学時代の恩師からもらった言葉をモットーに制作してきたことを明かしました。最後に「世の中がよりよくなることを信じて、これからも番組を作り続けたい」と抱負を語りました。
岡山天音さん、森七菜さんらが『ひらやすみ』について語る
一方、ドラマ部門では、多くの俳優陣が登壇しました。
最優秀賞に輝いたのは、『ひらやすみ』(NHKエンタープライズ、NHK)。主演を務めた岡山天音さん(生田ヒロト役)、森七菜さん(小林なつみ役)には演技賞が贈られました。同じ作品から複数の演技賞が選ばれるのは、第39回基金賞(2013年)で番組賞を受賞した『最高の離婚』(フジテレビジョン)の瑛太さん(現:永山瑛太)、尾野真千子さん以来、13年ぶり4度目のことでした。
さらに、ヒロトの親友・野口ヒデキを演じた吉村界人さん、なつみの友人・横山あかり役の光嶌なづなさん、ヒロトに阿佐ヶ谷の一戸建ての平屋を譲ったおばあちゃん、和田はなえ役の根岸季衣さんらも駆けつけました。

最初に登壇した森さんは、「贈呈式を見ていて、本当にいろんな作品が世界にあって、その分、いろんな歴史とか情勢もあって。でも、その中で『ひらやすみ』のような作品が輝き続けられる世界がずっと続くことを祈りながら、真面目にこれからもお芝居したいなって思いました」と式に出席した感想も交えながら、抱負を語りました。

撮影前に、原作が好きですでに読んでいた岡山さんは、演じた生田ヒロトについて「自分の声に準じて生きている人」と話しました。「生きているとまとわりついてくる『これに価値がある』『これには価値がない』『この人が勝った』『負けた』とか、そういうものとは違う美意識を持っているヒロトが好きで、共感して、同時に憧れでもあって。そんな役を任せていただけて、今日、このような日を迎えられたことをとってもうれしく思います」と喜びを語りました。
続いて登壇した吉村さんは、「エレガントな作品もかっこいいんですけど、僕はこの作品を通して、地道に演じていく作品も豊かな道なのかなと感じました。天音くん、森さん、松本監督、おめでとうございます」と受賞を祝福しました。

光嶌さんは「この作品は、去年撮影してから今までずっと心の中にある作品です。ふと落ち込んだときに、ヒロ兄の『大丈夫だよ』という声が聞こえてきたり、なっちゃんの『あかりん!』という声が聞こえてきたりするような気がして、ずっと自分の心の支えになっています」と明かしました。

根岸さんは「放送後にいろんな方から『ひらやすみロスです』などと声をかけられた」と明かし、「そんな経験があまりなかったので、みなさんが愛してくださったのだな」と感謝の思いを伝えました。「SNSで、“『ふぞろいの林檎たち』では姑さんとそりが合わず苦労してたのに、老後が幸せでよかった”というコメントもありました」と語るなど会場の笑いを誘いました。

主演・水上恒司さん「『シナントロープ』は宝」
奨励賞『シナントロープ』(テレビ東京)では、主演の水上恒司さん(都成剣之介役)が登壇。「準備段階から、撮影・放送期間まで宝のような日々になった」と述懐しました。受賞したドキュメンタリー制作者の受賞スピーチなども聞き、「僕らの作品は娯楽にすぎないのだな、と痛感しました。ですが、娯楽を作る者としての役目をしっかり果たしていけるように、これからも頑張っていきたい」と抱負を語りました。

ラジオドラマで6年ぶりの演技賞、毎田暖乃さんが語る声の演技
ラジオドラマ『大きな湖の小さな島で』(NHK大津放送局)は、ラジオ部門で優秀賞を受賞。この番組で主演を務めた毎田暖乃さん(理沙役)には演技賞が贈られました。ラジオ部門から演技賞が選ばれるのは、6年ぶり。お祝いに、共演した竹澤咲子さんも花束を持って駆けつけました。
これまで朝ドラなどのテレビドラマで活躍してきた毎田さんは、ラジオドラマならでの演技について聞かれ、「映像がない分、声だけで表現しないといけなくて。息遣い、距離感、そういうものをマイク1本で演じるのが難しかった」と振り返りました。竹澤さんは、主人公・理沙に呼びかけるシーンで「2人で目を合わせて演技することを大事にしていました」と名場面の裏側を明かしてくれました。

放送技術部門で4件受賞
放送技術部門からは、放送の未来に貢献した4件が受賞。
テレビ広告費が年々減少する中、ネットと連携することで活路を見出した伊藤正史さん(フジテレビジョン)は、個人に最適化されたCMの真正性も担保する技術も盛り込み、「安心してメディアに触れられる環境を放送が牽引するんだという思いを込めた」と語りました。

さらに、シーラカンスを群れで撮影することに成功したシーラカンス8K撮影チーム(NHK)、誰も取りこぼさない放送に貢献した手話CG研究開発チーム(NHK、NHK財団)、1983年から続く老舗番組『サントリー1万人の第九』を関西・大阪万博の大屋根リングの上で成功させた1万人の第九EXPO2025 技術チーム(毎日放送)らが受賞しました。
ご紹介できなかったスピーチの内容は、今後、放送文化基金公式XやYouTubeで紹介していきます。
他の受賞作品や選考理由の結果は下記のリンクよりご確認できます。
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