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すっとぼけたい俳優、中島歩|『人生最高レストラン』

桧山珠美 ▶▶▶『日日是てれび日和』 気になる番組を読み解く週一コラム 

【第55回】 『人生最高レストラン』(TBS 2026年8月29日23時30分~)

三度の飯より食べることが好き。なので、食まわりの番組にはつい食いついてしまう。この『人生最高レストラン』も、タイトルに“レストラン”とあるので、てっきり美味しい店や隠れた名店を紹介してくれるのかと思いきや、そうではない。食まわりには違いないのだが、食を入り口として、ゲストの人生を味わうトーク番組なのだ。それはそれで面白く、いまではすっかり常連客として、毎週楽しみにしている。

8月29日のゲストは、俳優・中島歩。今期、話題のドラマ『Tシャツが乾くまで』に出演している。整ったビジュアルで、昭和の正統派イケメンという見た目に反し、飄々とした雰囲気と独特の台詞まわし。フワフワとしてどこか掴みどころがない。まるで、鵺(ぬえ)のような不思議な存在感があり、そこがまた大きな魅力でもある。

このところは、その『T乾』の番宣でバラエティ番組にもひっぱりだこ。そこで見せるお茶目な素顔とのギャップに心を掴まれるファンも急増中だ。別の番組に出演した際には、あの上沼恵美子が中島の大ファンだと公言していた。

ここ数年の活躍は目覚ましく、『不適切にもほどがある!』の安森先生、朝ドラ『あんぱん』でのヒロイン・のぶ(今田美桜)の最初の夫、『豊臣兄弟!』の浅井長政を演じたのも記憶に新しい。

今回の『T乾』では、バス事故で亡くなった妻に不倫の疑いを抱く夫を演じている。そのお相手(松山ケンイチ)の妻(蒼井優)と同じ痛みを抱える者同士として、次第に距離を縮めていく。その関係性が徐々に変わっていくところも、ドラマの見どころのひとつで、その仕草や、目線、台詞の間合いなど、中島の演技から目が離せない。

その中島、登場前に、常連客のYOUがそのおだやかなイメージから「草を食べてそう」と言うと、それを受けて「前世は牛ですからね」と返した。これに、MCの加藤浩次が、「そんなことも言う人なんですね」と意外そうに訊くと、「バラエティなんで。すっとぼけなきゃ…」と。無理にしなくても、と加藤に本心を訊かれ、あらためて「すっとぼけたい」と。そんなふうに和やかな雰囲気で番組がスタートした。

中島といえば、あの明治の文豪・国木田独歩の玄孫(やしゃご)というのは有名な話で、歩の名は独歩からつけられたという。番組でもその話になったが、「だからと言って莫大な遺産があるとか、そういうことも全然ないから」と笑う。それもあって、日大芸術学部(日芸)の文芸学科に入り、「小説にもトライしたが、ぜんぜん向かねえなと思って…。なんにも書きたくない!書くことなんてない!」と思ったという。

小学5年以来の友人が語ったのは、中島が中2で生徒会長に立候補した時のこと。昔から三枚目に突っ走っていて、目立ちたがり屋だった、とか。そのVTRが終わると、MCの加藤浩次に向かって、「そうだ彼、清掃員やってるんですけど、世田谷のほうの。加藤さん家のペットボトル、彼が収集しています」と驚きの発言。「置く位置をもう少し玄関寄りにして欲しいって言ってました」と。これにはみんな大爆笑だったが、「違うのよ、中島くん、そういうのテレビで言っちゃダメなのよ」と忠告され、謝るのかと思いきや、「いや、でも、加藤さんほど家族をテレビに出してきた人、いないですよね?」と応酬。

そこから、『めちゃイケ』をめっちゃ見ていたとか、ナイナイの『オールナイトニッポン』をめちゃくちゃ聴いていたとか、そんな話に。そもそも爆笑問題のラジオ『JUNK 爆笑問題カーボーイ』で日芸を知って受験したという。テレビっ子であり、ラジオっ子でもあった、そんな一面を知れたのも、ちょっとした収穫だった。

話は戻って、日芸在学中は落語研究会に所属。高座名は大家主水(だいや・もんど)。先輩に無理やりつけられたもので、「ぜんぜん気に入ってなかったですけど」と中島。

日芸の落研は、高田文夫や立川志らく、春風亭一之輔を輩出した名門。中島も4年間やりきったが、落語家にはならなかった。落語はひとりで頑張らなくてはならないから無理。でも俳優だったら相手がいるやらないと迷惑がかかるから頑張れるかなと、そちらの道を志したというのも、いかにも中島らしい。

食の話に戻ると、最初に、“安くて旨い一品”として紹介したのが、「初給料で食べたバイト先のパスタ」。さらに、もう一品「下積み時代、ワークショップのあとで呑みに行った代田橋の焼鳥屋」、そして、“人生最高の一品”として「長野・蓼科の『オーベルジュ・エスポワール』で食べた、きのこのソテー」、計3品を紹介。

そして、最後、「中島歩さんにとってのおいしいものとは?」の問いに、「小さな幸せ。日々、お腹が空くから、毎日摂取できる小さな幸せ」と語り、最後に「大きな時もあるよ」と言ってまた爆笑をとっていた。

 初めて出演した朝ドラ『花子とアン』の頃は、棒読みと酷評されていた。それは、いまもあまり変わっていないような…。が、今ではそれが俳優・中島歩の大きな魅力になっている。

笠智衆や大滝秀治といった名優たちも、若い頃には、棒読みだとか演技が下手だとか、言われていたと回想録にあった。それが、歳月を重ねるうちに、いつしか「味」に変わり、なんともいえない滋味になる。

そういえば、中島は9月7日深夜『オールナイトニッポン0』のパーソナリティを務める。本人は「安眠をお約束します」とコメントしていたが、ラジオっ子だった中島の本領がどんな形で発揮されるのか。これは必聴だ。

今回の『人生最高レストラン』もたっぷり楽しませてもらった。料理の話の向こう側に、その人のこれまでの人生が垣間見えるのもいい。

今回も美味しくいただきました。

「ごちそうさま」。

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プロフィール

桧山珠美

桧山珠美(ひやまたまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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