放送文化基金賞

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第52回

【第52回放送文化基金賞】放送技術部門 選考記

第52回放送文化基金賞放送技術部門の選考委員5名(委員長/本間康文、委員/相澤清晴、岩崎裕江、岡野直樹、春口篤)による選考記を公開します。

放送技術部門 受賞者

本間康文(元TBSテレビメディア戦略室担当局長)

AI時代の今、放送技術の未来はどこに行くのだろうか

今回は、特にAI活用案件が多かった。AI中継番組制作、AI翻訳手話CG、AIナレーション生成、AI自動文字起こし、生成AI記事作成、生成AI誤字脱字チェックなど応募案件の半数がAIを利用していた。確かに誤字脱字チェック等は、効率的で有効性はかなり高い。ただ、開発者におけるオリジナリティはどこなのか、ハルシネーション(AIが誤った結果を出すこと)の課題は積み残しでよいのか、悩ましい。やはりAIの有無ではなく、明確な開発目的を持ってそのスコープを実現した案件が、受賞に至ったと思う。

受賞案件を振り返ると、「シーラカンス8K撮影」は、その鮮明で迫力のある映像で、質の高い娯楽性に加えて学術的にも価値があり放送文化に大きく貢献した。「手話CGシステム」は、従来、定型文だけだった手話CGを任意文にも対応できるCGアバターへと進化させた。これにより災害時における手話CG放送が可能になり、放送のアクセシビリティ向上に大きく貢献した。「1万人の第九EXPO2025」は、万博開幕初日に大屋根リングから合唱音声を会場のオーケストラと同期させ、その信号を低遅延IOWNで本社と結びIP制作も実現した挑戦的な取り組みであった。「アドレッサブルTV」は、現行の地デジにターゲティングCMや放送素材の地域差し替え機能を追加し、CMの真正性も確認できる放送方式の開発であり、放送技術の発展に大きく貢献した。

相澤清晴(東京大学名誉教授)

審査を終えて雑感

今回、初めて審査に加わった。応募は12件にのぼり、丸一日をかけて各プレゼンテーションを拝聴した。いずれも「放送技術」では共通しているものの、取り組む課題や方法は実に多様であり、発表ごとにまったく異なる内容であった。どの応募も目的が明確で、実際に放送現場で活用された技術ならではの迫力があった。いずれも興味深く、また楽しさを感じさせるものであり、大変感心しながら拝聴した。

技術開発の進め方も多様であった。チームで作り上げた大規模な取り組みもあれば、個人で構築したシステムもあり、それぞれに異なる工夫と魅力があった。その中から4件しか選べないことは誠に残念でならない。また、昨今のAIの浸透を強く実感する機会にもなった。複数の応募でAIが取り入れられ、コンテンツ制作の過程にAIを利活用する新しい試みが提示された。人手がかかりすぎて現場の負担となっていた作業を大幅に効率化するものや、人手の制約からこれまで実現が難しかったコンテンツを自動的に制作するものなど、放送現場にはこのような課題があったのかと改めて気づかされる内容であった。そして、それらがAIの活用によって解決されつつあることに、大きな可能性を感じた。

放送現場において自ら新しい課題を見いだし、それを技術によって解決するこれらの試みは、ぜひ学会等でも発表され、より広くコミュニティで共有されると素晴らしいと感じた。

岩崎裕江(東京農工大学教授)

技術が拓く新たな映像表現

本年の選考に携わり、改めて放送・映像技術の進展がもたらす可能性の大きさを実感しました。応募いただいた提案は、いずれも独創性と実現性を兼ね備え、すべてが非常に魅力ある技術提案でした。選考の過程で披露された各担当者のプレゼンテーションは、将来の新たな映像表現への期待を抱かせるものばかりで、一日中聞いていても飽きない、充実した時間となりました。

なかでも特に印象的だったのは、8Kによるシーラカンス撮影に向けたカメラの改良に関する提案でした。深海という極限環境において、高い解像度と感度を両立させながら、貴重な生命の姿を克明に記録しようとする試みは、技術的な挑戦であると同時に、映像が果たすべき文化的・学術的な使命を体現するものでした。撮影対象の希少性と技術開発の緻密さが見事に結びつき、完成した映像への期待を強く抱かせる内容でした。

また、手話アニメーションに対する地道な取り組みも心に残りました。情報保障という重要な課題に着実な技術の積み重ねで応えようとする姿勢は、放送文化が担うべき公共性の本質に根ざすものであり、敬意を覚えました。

新たな映像表現には、新たな技術が必要です。これらの技術が今後の放送文化の発展に寄与することを、心より願っています。また、今後も、新しい技術による新たな映像表現が発展していくことに期待しています。

岡野直樹(一般社団法人電波産業会専務理事)

違うは強い

バラエティに富んだ応募でした。

現場でのニーズやヒントがきっかけとなっているので、適用する現場が異なっているのは当然ですが、課題解決のためのアプローチに創意工夫がみられました。

はやりの生成AIを活用したもの、先輩が築いてきた技術を進展させたもの、他の分野で用いられている技術を放送の現場に持ち込んだもの、など多種多様なアプローチがありました。

また、自らの目標として、複数の課題を同時に解決しようとする総合的なアプローチがあり、逆に一つの課題を高いレベルで実現するために多少他の点は目をつぶる一点豪華主義的なアプローチもありました。これなど、どちらが良いということは言えず、状況が異なれば選考結果も異なったのではないかと思うものもありました。

そして、いずれも現場で役立っているという自負があるからこそだと思いますが、応募者の方々が情熱をもって説明される姿が印象的でした。個人もしくは少人数の方の応募が多かったことも印象的でした。

これからも、多くの方が新しい試みに挑戦され、その成果が普及することで放送が進展し続けることを期待しています。

春口篤(元NHK技術局長)

デジタルが変える放送の世界

今年の放送技術部門の応募は12件、高度な技術を背景とする優れたコンテンツに関するもの、AIを活用したもの、DXへの取り組みなどが主なテーマとなっていた。

コンテンツに関するものとしては、学術的にも極めて貴重なシーラカンスの8K撮影、万博会場での1万人の第九のリモートプロダクションなど、新たな技術をベースとするレベルの高いコンテンツが目を引いた。また、放送現場の作業の効率化を目指すいわゆるDXの自社開発の取り組みも目立っていた。これまでの放送現場の労働集約型業務をAIの力も借りながら、より効率的な業務への変革を目指す力を強く感じた。AIに関するものは、すでに数年前よりさまざまな分野への適用が散見されているが、すでにAIの業務への活用は当たり前になった感があり、AIをどのような業務に、どのように使って業務の効率化につなげるのか、また、どう広く展開するのかをテーマとしており、放送現場へのAIの適用が着実に進んでいることが感じられた。

一方、NHKの手話CGの開発、フジテレビのアドレッサブルテレビは、現在、放送業界が直面する課題に果敢にチャレンジする骨太の提案であり、今後もこうした放送の変革につながる提案に期待したい。

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