放送文化基金賞

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第52回

【第52回放送文化基金賞】放送文化部門 選考記

第52回放送文化基金賞放送文化部門の選考委員6名(委員長/山根基世、委員/井上由美子、音好宏、澤田隆三、鈴木嘉一、村上圭子)による選考記を公開します。

放送文化部門 受賞者

山根基世(アナウンサー)

今、求められるテレビの役割

あらゆる情報がネットで速報され、即断即決が求められる時代。私たちは玉石混淆の情報をうのみにして浅慮愚考に陥りがちだ。そんな今、テレビに求められる役割はなんだろう。ネット情報の真逆、ひとつのテーマの取材を継続し、深め、蓄積することによって信頼を獲得することではないか。こうした情報によって視聴者に熟慮熟考の機会や素材を提供することが、テレビの大切な役割になっているように感じる。今年度、放送文化部門に推薦されたのは33件。オワコンといわれるテレビが生き残る道はこれしかないとばかり、まさにそのような推薦が多いことを心強く思った。

放送文化部門の委員は、それぞれの立場から活発な議論を交わし、結果的にはこの4件が選ばれた。だが、選に漏れたものを熱心に支持し、「もう一本選べるならこれ!」と残念がる委員もいた。つまり秀作揃い、選考には悩んだということ。ただ、この部門としては、単に作品として優れているというだけでなく、今の日本人のものの見方、考え方に何らかの揺さぶりをかけ、熟考を促すような力のあるものを選びたいという思いは共通していたように思う。選考の間に語られた委員たちの強い推しの言葉、ひとり言のように滑り落ちた囁きのような言葉……そんな言葉の数々を聞けるのが、選考委員会の醍醐味であり、聞いた言葉が腐葉土となり、やがて来年度以降の選考をする上の熟慮の素になるだろう。

井上由美子(脚本家)

テレビの胆力

視聴者の生活習慣が変わって来た今、テレビの役割とは何かを考えながら選考に臨みました。

17年にわたって死刑当事者の肉声を記録し伝え続けた西村匡史さん、10年にわたってアイヌ民族への差別問題を取材し行政に届けたアイヌ差別取材班——継続的かつ対象に深く迫ったドキュメンタリー2件が選ばれて、今後のドキュメンタリー制作に対する追い風になったと考えます。どちらも想像以上に勇気の必要な取材であり、その勇気を緩むことなく持ち続けた姿勢に敬意を表します。

この2件に加えて、深海の科学と神秘を記録し国際的な評価も期待されるNHK「ディープオーシャン」シリーズ制作チームと、沖縄の郷土芸能を伝え続けて来た沖縄テレビ放送『郷土劇場 芸能の広場』が選ばれました。こちらも長年にわたる真摯な番組制作が評価を受けました。とくに『郷土劇場 芸能の広場』の放送開始は1960年、実に65年もの間、「ウチナー芝居」を伝え、郷土文化の継承に力を注いで来たことには、同じテレビ制作者として頭が下がります。

題材こそ異なりますが、選ばれた4件はいずれも長期にわたってクオリティの高い番組制作を続けて来ました。長く続く番組には、開拓者の精神があり、テレビに対する使命感を保ち続ける胆力があります。

テレビの観方が変わって来た今だからこそ、その胆力にエールを送ります。

音好宏(上智大学教授)

放送文化部門の審査を終えて

今回受賞した4件について、短くコメントしたい。

TBS西村匡史さんは、当事者に丁寧に向き合う取材で知られている。今回、受賞対象となった死刑囚取材のみならず、安楽死を選択する人たちやグリーフケアを取材し、「死」をテーマにしたドキュメンタリーを発表し続けている。その問題提起力を評価したい。

アイヌへの差別・偏見は、長い歴史を持つ問題である。北海道放送・アイヌ差別取材班は、特に近年活発化している国会議員・学者を含む保守系勢力や、歴史修正主義的な団体などの言動を勇気を持って継続取材。及び腰だった自治体の姿勢を変えるきっかけを作った。報道機関としての矜持を評価したい。

沖縄は郷土文化の需要が高い土地柄であるとはいえ、沖縄テレビ放送が65年にわたりウチナー芝居の中継番組『郷土劇場 芸能の広場』を放送し続けてきたことに、地元の文化創造に対する同局の強い意志を感ずる。その姿勢を評価したい。

大自然を扱う映像作品は、多額の制作費を要する。篤志家などの支援や国際共同制作などの手法で資金繰りの工夫が行われているが、制作環境は厳しい。その中にあって、NHK「ディープオーシャン」シリーズは、10年以上にわたって深海を探る作品を継続的に世に送り続けてきたことを高く評価したい。

澤田隆三(大阪芸術大学教授)

テレビって凄い!ーー制作者たちの「志」に打たれた

テレビ受像機が初めて稼働した時に技術者が発した言葉が「見えた!」だったという。

NHK「ディープオーシャン」は、テレビの原点を思わせる。シリーズ最新作は「シーラカンス」の群れを200メートルの深海でカメラに収めた。生きた化石といわれる古代魚が画面に姿を現したときの感動は、「見えた!」だった。テレビの可能性はまだまだ広がると思い知らせてくれた。

テレビ放送が始まって73年。65年も続いている長寿番組がある。沖縄テレビ放送『郷土劇場 芸能の広場』。方言で演じる大衆演劇に字幕をのせて放送している。味のある泣き笑い。地方局が郷土文化の継承に貢献し続ける姿に元民放局員として頭が下がる思いだ。

放送ジャーナリストたちの継続的な活動も目をひく。TBS西村匡史記者は17年にわたって「死刑」というテーマに向き合い、当事者たちの肉声を丹念に記録する。最新作では、殺人事件の遺族や記者が立ち会う中で刑が執行されたアメリカの事例を取材、日本の視聴者に重い問題を提起した。

一方、北海道放送は報道局総がかりともいえる態勢で「アイヌ差別」を煽る団体を追い続ける。「アイヌ民族は存在しない」という事実の歪曲だけでなく、団体に展示スペースを提供する札幌市の姿勢も追及。間違っているものは間違っていると、繰り返し報道する。この姿勢こそ、現在のメディアに求められるジャーナリズム魂だと感心させられた。

鈴木嘉一(放送評論家 / ジャーナリスト)

多様なメディア展開も評価

放送文化部門では個々の番組の出来だけではなく、番組作りを中心にした一連の活動の総体を評価するのは言うまでもない。TBSテレビの西村匡史記者は、選ばれた市民が死刑判決の判断を問われるかもしれない裁判員制度が始まって以来17年にわたり、「死刑」をめぐる取材を息長く続けてきた。この報道活動が高く評価され、4件のうちの一つに入った。

相模原の障害者施設殺傷事件の植松聖死刑囚ら5人の死刑囚との面会を実現したのをはじめ、その家族や遺族、裁判員といった当事者の肉声を原則として「実名・顔出し」で記録してきた。さらに目を引くのは、『報道特集』での報告やドキュメンタリーの制作にとどまらず、長期間の取材成果を多様なメディアで発信してきたことだ。ドキュメンタリー映画『”死刑囚”に会い続ける男』の監督を務め、「家族が死刑囚になった」と題した記事などもTBSのニュースサイトで配信した。

一方、RKB毎日放送の大村由紀子チーフエキスパートは戦後史の闇に埋もれていたBC級戦犯の実相に迫ってきた。惜しくも選に漏れたが、この多様なメディア展開も目を見張らされた。BC級戦犯を「日本の被害と加害の交錯」ととらえ、テレビとラジオでドキュメンタリーを制作したのに続いて、映画化と映像の配信を手がけた。また、取材成果や公文書などの資料を基にして毎週、TBS系のニュースサイトで連載記事をアップし続ける姿勢も素晴らしい。これは出版化を勧めたい。

村上圭子(メディア研究者)

リスクを取る

「リスクを取る」。放送文化部門で受賞した4件に共通するものとして、思い浮かぶのはこの言葉である。1言ずつコメントしたい。

北海道放送のアイヌ差別取材班。差別を受ける側に立って報道する、そんな当たり前のことが局にとってリスクとなりかねない時代に、果敢に報道を続け、行政も動かした。こうした制作者や局が存在していることを、放送関係者の末席の者として誇らしく思う。

TBSテレビの西村匡史氏。17年にわたり、死刑の当事者やその家族の肉声を通じて、死刑制度を世に問い続けてきた。加害者の側に立って報道し続けることには勇気が必要だ。しかし、そこからしか見えない矛盾や課題もある。日本が、死刑制度という難問に向き合うことを諦めないためにも、是非、継続してほしい。

沖縄テレビ放送の『郷土劇場 芸能の広場』は、65年にわたって続けてきた、郷土芸能文化を継承する番組だ。YouTube配信では世界各地の沖縄出身者が視聴している。ローカル局の経営が厳しくなる中、継続は容易なことではないだろう。地域メディアのアイデンティティを貫く覚悟を学ばせてもらった。

最後にNHKの「ディープオーシャン」シリーズ制作チーム。”撮れ高”が読めないリスクを抱えながら、深海で未知の映像を追い続けた、NHKにしかできない取り組みである。OTTが隆盛な中、NHKには、日本のコンテンツ制作の底力を世界に発信し続ける役割を引き続き担って欲しい。

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