
カブールは秋から冬へ駆け足で走り始めた。11月21日、私がカブールに着いてから16日目に雨が降った。草木は喜びを一杯にして風になびき、大地はお湿りを受けて豊かに微笑んでいる。翌日の朝、太陽が昇ると、暖かい日差しを受けた地面からは水分が蒸発し、濃霧が発生し始めた。広いカブール盆地が次第に濃霧の中に消えていく。この素晴らしい自然のドラマを幸運にも見ることが出来た。
これまでの研修は座学を中心とした講座形式が主だったが、今回は、私が子ども番組部の部屋に常駐し、日本から支給されたカメラ4台も常備して、ロケーション、スタジオ収録、編集、番組構成などにすぐ対応できるよう配慮した。
さっそく、「明日ロケをします」と、27歳の若手男性ディレクター、Mohammad Iqbal が声をあげた。私も同行することにし、何を撮るのかを聞くと、家庭生活の中の子どもを撮るという。これはなかなか大変なことである。アフガンでは家庭内の撮影は難しい。今まで、幼稚園、保育所などで子どもの保育状況を撮影してきたが、今回のロケは画期的な出来事だった。なにしろテーマが子供同士のチャンネル争いである。過去の日本を振り返ってみても、テレビ放送の創成期、各家庭でチャンネル争いが行われていた。この過程を経て、番組を見る目が養われ、自然とルールが作られ、各人のテレビとの付き合いが始まった。今のアフガンではテレビが4チャンネル、各家庭の子ども数は10人ぐらいである。この状況の中で、子どもたちがどう新しい文化を取り入れ成長していくか、それに対応するテレビ番組はどのようにあるべきか、RTAが抱える大きなテーマでもある。
出来上がった作品は構成的には未熟であるが、映像の撮り方が優れており、清楚さの中に品格を感じる。短期の制作日程にもかかわらず、良い作品に仕上がった。将来が楽しみなディレクターである。今後、研修を通して、多くの新しい芽を発見し、育てていく――そのことがRTAを成長させるものであると考える。
こうして、今回は来年のABU子ども番組セミナーに向けた番組を作るスタートを切るという具体的な成果を得られた。3年計画の研修も半ばを迎え、ようやくお互いの理解も深まり、信じあう心が生まれた結果、この実地研修を成し遂げたのだと感慨深かった。