HBF CROSS
なぜ私たちは「モンスター」に惹かれるのか|Netflixドラマが映すトゥルークライムの現在地
長谷川朋子▶▶▶いま、気になるコンテンツ “その先”を読む #16

実在した殺人犯や凶悪事件を描く「トゥルークライム」人気は世界的に根強い。なかでも、その人気を象徴する作品のひとつが、Netflixの『モンスター』シリーズだ。ジェフリー・ダーマーからメネンデス兄弟、エド・ゲイン、リジー・ボーデンへと題材を変えながら、4作すべてがNetflixのグローバルTOP10で1位を獲得した。なぜ私たちは、実際に起きた犯罪をこれほど見たくなるのか。そして、誰かの身に本当に起きた悲劇を、エンターテインメントはどこまで描いていいのか。
いきなり告白するようだが、実在の犯罪を扱った作品が好きである。なかでも裁判シーンが出てくると、俄然、前のめりになる。検察と弁護側が同じ事件をまったく違う角度から語り、ひとつの証言によって、それまで見えていた景色が変わる。犯罪そのものより、司法や社会、人間が何を信じるのかが露わになっていくところに惹かれる。
どうやら犯罪を描く物語が好きなのは、私だけではない。今年3月、フランス・リールで開催された欧州最大級のドラマ祭「シリーズマニア2026」で英調査会社Ampere Analysisが示したデータによると、2025年に世界のインターネットユーザーが「好きなジャンル」として最も多く選んだのは「クライム&スリラー」の11%。コメディ、アクション&アドベンチャーの各10%をわずかながら上回る。
作り手にも選ばれている。ここのところ、短期間で完成する作品が好まれる傾向にあり、それを受けた調査では、2023~25年に発注から公開までが2年未満だったドラマ作品の中で、「クライム&スリラー」が28%と最も高かった。いずれもトゥルークライムに限らず、クライム作品全般の数字だが、犯罪をめぐる物語への関心の高さがうかがえる。
同じシリーズマニアで、もうひとつ目を引いたものがあった。「MÊME PAS PEUR!(怖くなんかない!)」と題した、一般のドラマファンも楽しめる企画展である。テレビシリーズの「悪役への偏愛」をテーマにした展示で、1950年代から2020年代まで、「怖い」シリーズの変遷を年代別にたどる年表もあった。

1950年代の「ラジオからテレビへ」に始まり、1970年代を「モンスター」、1990年代を「ティーンの波」、2000年代を「血まみれの潮流」、2010年代を「大作競争」、そして2020年代を「文化の交差」と、それぞれの時代を象徴するキーワードと作品で振り返っていた。時代によって「怖いもの」は変わっても、テレビは長く人間の恐怖心を物語にしてきたことが見えてくる。

興味深かったのは、そこに並んでいた顔ぶれである。『スクービー・ドゥー』に登場するモンスター、『バフィー ~恋する十字架~』の吸血鬼スパイク、『ストレンジャー・シングス』の怪物ヴェクナ。さらに、連続殺人犯を主人公にした『デクスター』、人食い殺人鬼ハンニバル・レクターを描く『ハンニバル』、そしてジェフリー・ダーマーら実在の連続殺人犯まで並ぶ。架空の怪物であれ、実在した犯罪者であれ、恐怖とともに記憶にこびりつき、なぜか目を離せない。実在の連続殺人犯たちの眼鏡を模した展示には、思わずゾクッとさせられた。
4作連続で世界1位になった『モンスター』
いま、実在の犯罪者を描くドラマとして世界的なヒットを連発しているのが、Netflixの『モンスター』シリーズである。ライアン・マーフィーとイアン・ブレナンが手がけるアンソロジーで、第1作『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』から、メネンデス兄弟、エド・ゲイン、2026年9月配信のリジー・ボーデンまで、これまで4作が制作されている。第1作『ダーマー』は配信開始から60日で視聴時間10億時間を突破。4作すべてがNetflixのグローバルTOP10(英語TV部門)で1位を獲得し、シリーズ累計の視聴数は3億2000万ビューを超えた。
4作を通して見ると、猟奇的な事件そのもの以上に気になってくることがある。「モンスター」とは、いったい誰なのかということだ。
17人の男性や少年を殺害したジェフリー・ダーマーを描く第1作では、犯行だけでなく、それを長年見逃した警察や人種差別、同性愛への偏見にも目を向けた。第3作のエド・ゲインでは、後のホラー作品に影響を与えた犯罪者が、大衆文化の中でいかに「怪物」として語られてきたかにまで踏み込む。
最新作では、シリーズで初めて女性を主人公に据え、父親と継母の殺人罪に問われながら無罪となったリジー・ボーデンに焦点を当てた。さらにサラ・ポールソン演じる女性連続殺人犯アイリーン・ウォーノスも登場させ、約100年を隔てて女性の「モンスター」がどう語られてきたかにも視線を広げた。

そして4作のなかでも、私が特に引っかかったのがメネンデス兄弟である。問いがさらに複雑になるからだ。両親を殺害した二人は明らかに加害者である。その一方で、父親から長年にわたる性的、身体的、精神的虐待を受けていたと訴えている。検察、弁護側、家族、メディアそれぞれが違う「兄弟像」を語り、加害者と被害者という単純な二項対立では捉えきれない事件として描かれている。

このドラマ版の後、Netflixのドキュメンタリー『メネンデス兄弟』も見た。ドラマでは俳優によって再構築されていた兄弟が、ドキュメンタリーでは本人たちの声で事件や虐待について語る。
ドキュメンタリーが改めて見せるのは、事件や裁判に至る時代背景である。1989年に事件が起きた当時、男性も性的虐待の被害者になり得るという認識は現在ほど広がっていなかった。兄弟による虐待の訴えが、裁判やメディア、社会でどのように受け止められたのかをたどることで、同じ証言であっても、それを見る側の価値観や時代によって受け止め方が変わることを明らかにしていた。

私が実在の犯罪もの、とりわけ裁判シーンに惹かれるのは、当時の社会の目まで見えてくるからかもしれない。同じ事件でも、社会の価値観が変われば、「モンスター」の見え方まで変わることがある。
「消費されない」トゥルークライムは作れるか
一方で、トゥルークライムには避けて通れない問題がある。画面の向こうで起きたことは、作り話ではない。実際に命を奪われた人がいて、その家族や関係者がいる。それを私たちはドラマやドキュメンタリーとして見て、「面白かった」「怖かった」と語る。実在した犯罪者が繰り返し映像化され、ときにはスターのように消費される危うさもある。
だからこそ、いまのトゥルークライムには、犯罪者の異常性を見せて終わらせない描き方が必要なのではないか。事件を刺激的な物語として再現するだけではなく、実在した犯罪をいま改めて描くことに、どんな意味を持たせるのか。話題を生み出しやすいことと引き換えに、作り手に重く突きつけられる問いでもある。
では、日本では実在の犯罪を、どのようにフィクションへと取り込んでいるのだろうか。記憶に新しいのが、2024年に配信されたNetflixの『地面師たち』である。日本の週間TOP10(シリーズ部門)で6週連続1位を記録し、「もうええでしょう」というセリフはその年の新語・流行語大賞のトップテンに入るほどのヒットとなった。実在の不動産詐欺事件に着想を得た小説を原作に、大胆なクライム・サスペンスへと作り変えた作品である。実際の事件と距離を置き、エンターテインメント性を高めたことが成功の理由のひとつだろう。

ただ、日本の犯罪ドラマには、まだ別の可能性もあるのではないかと思う。実在の事件を人間ドラマとしてひとつの物語に収めるだけでなく、正義や善悪に答えを求めすぎず、簡単には答えの出ないものとして差し出すやり方もあるはずだ。『モンスター』のような、見る側の判断まで揺さぶるトゥルークライムを日本でもまだ開拓できるのではないだろうか。
「モンスター」と呼ばれる人間を生んだ環境や社会、犯罪をセンセーショナルに伝えるメディア、そして安全な場所から実在した誰かの悲劇を見続ける私たちまで視野に入れることで、単なる犯罪者の物語では終わらない引っかかりを作れる。世界的な人気ジャンルとなったからこそ、トゥルークライムには、事件を「消費して終わらせない」ための描き方が、これまで以上に求められている。
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多様化する映像コンテンツの世界で、いま本当に注目すべき作品とは?本連載コラムでは、国内外の番組制作やコンテンツの動向に精通するジャーナリスト・長谷川朋子さんが、テレビ・配信を問わず心を動かす作品を取り上げ、その背景にある社会の変化や制作の現場から見えるトレンドを読み解いていきます。単なる作品紹介にとどまらない、深い洞察に満ちたコンテンツガイドです。
著者・プロフィール

長谷川朋子 (はせがわともこ)
ジャーナリスト/コラムニスト。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに独自の視点で解説した執筆記事多数。「朝日新聞」「東洋経済オンライン」などで連載中。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約15年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはコンテンツ・ビジネス分野のオーソリティとして活動中。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)など。
“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。
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