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お金をかけたのは脚本家と監修者|韓国EBSのAIドラマ『よみがえりの授業』

第24回日韓中テレビ制作者フォーラム(韓国・水原)レポート

編集部 大園百合子

ドキュメンタリーのセッションで上映された『よみがえりの授業』ソクラテス編(主催者提供)
ドキュメンタリーのセッションで上映された『よみがえりの授業』ソクラテス編(主催者提供)

2026年9月8日から11日まで、韓国・水原で第24回日韓中テレビ制作者フォーラムが開かれた。テーマは「AI時代、東アジアコンテンツの未来」。AI技術が急速に進化するいま、3か国の制作環境はどのような変化を迎え、作り手たちは何を考え、どう向き合っているのか。生の声を聞けるのではないかと期待を膨らませ参加した。そこで、とりわけ目を引いたのが、2日目のドキュメンタリーのセッションに登場した韓国の教育公共放送であるEBSの番組と、その作り手の言葉だった。

登壇したミン・ソンウォンPD(以下ミンPD)の名前には、見覚えがあった。昨年12月、北九州で開かれた第23回日韓中テレビ制作者フォーラムのピッチングセッションで、彼は『不滅の授業-SPIRIT OF ASIA』という企画について語っていた。AIでよみがえった偉人たちが現代の人々に講義をする番組で、日本・中国・韓国から10人ずつ、あわせて30人の思想家や偉人を登場させ、アジアの知と精神を世界に届けたい、という内容だった。聖徳太子、孔子、丁若鏞(チョン・ヤギョン)が例に挙がっていた。丁若鏞は、実学を大成した朝鮮王朝後期の学者で、今回のフォーラムが行われた水原・華城建設に使われた起重機(クレーン)の設計者としても知られる。

昨年12月の第23回フォーラム。ピッチングセッションで『不滅の授業-SPIRIT OF ASIA』を説明するミンPD(筆者撮影)
昨年12月の第23回フォーラム。ピッチングセッションで『不滅の授業-SPIRIT OF ASIA』を説明するミンPD(筆者撮影)

そして、その企画が『よみがえりの授業』という番組になり、今年の4月から韓国の地上波のEBS1で毎週放送されている。そのミンPDが、再び壇上に立ち、この番組を紹介した。

スクリーンに映った老人

会場のスクリーンで上映が始まると、まず黒い画面に、白い文字のクレジットが出る。

この番組は歴史的事実を基に、専門家の考証を経て制作した創作物です。
コンテンツの制作にはAI映像および音響生成技術を活用しました。

続いて、録画中を示す赤い点と、バッテリーの残量表示。深いしわを刻んだ白髪交じりの髭の老人が、こちらをのぞき込みながらカメラを調節している。ルーブル美術館にある大理石の頭像が、そのまま動き出したような顔だ。紀元前399年6月。牢獄で椅子に腰かけた老人が、ギリシャ語で語りはじめる。

「私は石工ソプロニスコスの息子、アテネのソクラテスだ」

画面右下には「AI映像・音響」の表示が出続ける(筆者撮影)

『よみがえりの授業』は、毎週日曜の夜11時に放送されている。1本10分弱。ソクラテス編は、死刑執行の前日に彼が自らカメラを据えて記録する、ビデオ日記のような形をとる。番組の紹介文には「最も冷たい技術で、最も熱い人間の物語を」とある。

冒頭映像を見ているあいだ、これがAIで作られた映像だということを、ほとんど意識しなかった。

「みなさんは気になっているでしょう。民主主義を愛するこの都市が、なぜこの老いぼれを殺そうとしたのか」

ソクラテスは、ギリシャ語で淡々と語る。字幕で追うその言葉の一つひとつが、胸に突き刺さった。彼はなぜ裁判に負けたのか。その答えを、早く聞きたくなった。大変なものを見たのではないかと思ったのは、作り手の話を聞いてからだ。

上映が終わると、ミンPDは自分の番組をこう紹介した。

「死者が、生きている私たちのために講演をする番組だと考えてください。そして、100%AIで制作する、ちょっと挑発的なレギュラー番組だと思っていただければ」

「死者が、生きている私たちのために講演をする番組」。スライドには「100% Full AI Contents」の文字(主催者提供)
「死者が、生きている私たちのために講演をする番組」。スライドには「100% Full AI Contents」の文字(主催者提供)

亡くなった人は講義ができない

EBSは、地上波とケーブル、ラジオに複数のチャンネルを持つ教育公共放送だ。財源の6割超は出版や広告など自主事業の収益で、公的資金への依存度は4割に満たない(2025年度)。ドキュメンタリーと講義番組に力を入れ、ノーベル賞受賞者や世界の知識人を招く『偉大な授業(Great Minds)』は局を代表する番組だという。ミンPD自身は、この3年ほどAIを使った制作で試行錯誤を重ねてきた。

『よみがえりの授業』の出発点は、その『偉大な授業』だ。映画『アバター』のジェームズ・キャメロン監督も講義をしたことがある。キャメロンが貴重な時間を割き、スタッフが交渉に奔走して実現した回だ。だが、このコンテンツが可能だった核心は別にある、とミンPDは言う。

「この方が生きている、ということです。存命だからこそ、講演ができる。逆に言えば、亡くなった方は講演ができません。それをAIで解決できるのではないかと考えたのが、この企画です」

ルーブル美術館にあるソクラテスの大理石頭像。没年の紀元前399年が示された(主催者提供)
ルーブル美術館にあるソクラテスの大理石頭像。没年の紀元前399年が示された(主催者提供)

シーズン1では、ソクラテス、ヴァージニア・ウルフ、ゴッホ、孟子ら22人がよみがえった。発表の途中には、韓国・中国・日本を代表して誰が講義するとよいかをAIに尋ねて挙がったという3人の名前が映った。丁若鏞、孔子、聖徳太子。1年前の企画書と同じ顔ぶれで、丁若鏞の回はシーズン1ですでに作ったそうだ。

いちばんお金をかけているのは

AIで作った番組と聞けば、多くの人はまず、制作費がどれだけ抑えられるかを考えるだろう。だが、ミンPDの話を聞いていると、問いの立て方が違っていた。

台本を書くのは人間の脚本家だ。各人物を専門とする教授陣の監修を徹底して受けながら、脚本家が台本を組み立てる。物語にするとはいえ、その人物の原典や実際に残した言葉を土台にするので、脚本家の力量が何より大事なのだと、ミンPDは強調した。

台本を元に1本の映像を作るのは、PDとAD(助演出)の2人だという。

韓国の放送界でいうPDは、幅の広い言葉だ。企画や予算を預かるプロデューサーの役割と、現場で演出するディレクターの役割を、韓国ではひとりが兼ねることが多かったため、どちらもPDと呼ばれてきた。ミンPDはこの番組の企画を立て、演出も担うPDで、日本の感覚でいえばディレクターに近い。

PDとADが1人ずつ組むという形は既存の番組でも同じだが、制作過程は異なる。PDは台本を元に、AIで場面ごとの画像を一枚一枚作り込んでいく。一通り作り終えると、今度はADがその画像をAIで動かし、映像にしていく。

「ある意味で、PDはイメージクリエイターに、ADは動画クリエイターに変わったと考えてください」

その後の仕上げは、音楽、MA、色調整、本編集、局内の審議(日本でいう考査)と、従来の工程のとおりだ。

音楽も、すべてAIで作ってしまうことはできる。せりふに口の動きを合わせるリップシンクには、実際にAIを使っている。それでも音楽を音楽監督に任せている理由を、ミンPDは二つ挙げた。PDが音楽までAIで作るとなると、すべてを抱え込み、負担が重くなる。そしてもう一つ。

「音楽監督がAIを使って作るほうが、私のように音楽をまったく知らない人間がAIで作るより、いいものになるはずですよね。いまは音楽監督の感覚とノウハウを信じて進めています」

毎週の放送に間に合わせるため、PDは3人、ADは2人が交代で受け持っている。局の編集機はインターネットから遮断されていてAIが使えないため、編集作業用のパソコンはすべてレンタルだ。

制作費について問われると、ミンPDは、金額は明かせないと断りながらも、最小限の予算で作っていることはなんとか伝えようとしていた。人件費でいえば、自分以外はみなフリーランス。諸経費まで含めても、かなり低く抑えているそうだ。

ただ、抑えるばかりではない。AIを使えば撮影料も録音料もスタジオ使用料もかからない。その分をほぼすべて脚本家に回しているといっても過言ではなく、局が迎えられる最高の脚本家に書いてもらっているという。もうひとつお金をかけているのが、監修にあたる教授たちだ。

「この二つが、ツートップでいちばんお金がかかっています」

これに対して、モデレーターを務めたSBSのペク・シウォンPDが返した。

「なんとなく、AI映像を作るのにいちばんお金がかかるのかと思っていましたが、違うんですね」

私も大きく頷いた。

モデレーターを務めたSBSのペク・シウォンPD(主催者提供)
モデレーターを務めたSBSのペク・シウォンPD(主催者提供)

削れる工程を削り、限られたお金を、人間にしかできない仕事に注ぎ込む。AIで制作費は減っても、言葉を書く人と、それを確かめる人にかけるお金は減らさなかった。

叩かれないために、どうするか

企画案が社内で採用されてから放送開始までの準備に、1年3か月かかった。AIの映像を社会が受け入れる空気が育つのを待つ必要があったと話す。加えて、もうひとつ理由があったという。

「私たちは地上波の教育放送ですから、使い方を間違えれば叩かれます。叩かれないためにはどうすればいいか、ずいぶん悩みました」

この慎重さは、ひとりのPDの性格だけから来ているわけではないだろう。キム・ユヨル社長は2026年の年頭所感で「EBSのAX(AI Transformation)」を掲げ、昨年がベータテストなら今年は実戦だと語っている。年初のインタビューでは、昨年下半期に月1本だったAIコンテンツを、今年は週11本ほどに増やす計画を示していた。

EBSは今年の春の改編までにAI制作ガイドラインを整えた。それでも、費用削減を前面に掲げてAI番組を一気に増やしたことには、韓国のメディアから品質や視聴者への影響の検証が足りないという指摘も出た。そして6月には、放送局として韓国で初めて、外部の専門家によるAIコンテンツ諮問委員会を立ち上げている。何のためにAIを使ったのかという意図を明らかにすること、そしてAIで制作したと表示することが、第一の原則だという。

あらためて番組を見返すと、その原則が言葉だけではないことがわかる。ソクラテスが語る場面では、画面右下に「AI映像・音響」の文字が出続けている。一方で、デルフォイの神殿を訪れる観光客の映像や、ソクラテスの監獄とされる場所の写真が差し込まれる場面では、表示が「AI音響」だけになったり、消えたりする。音楽にも、AIで作ったものと、人間のオーケストラによる演奏とがある。映像も音も、どこまでがAIで作られたものなのかを、場面ごとに表示で示しているのだ。

韓国では2026年1月にAI基本法が施行され、生成AIを使ったことを利用者に知らせる仕組みが法律に盛り込まれた。公共放送のKBSも、昨年の8月にAIガイドラインを定めている。

西洋の人物が多かった

ミンPDによれば、いちばん核心にあるのはパブリシティ権だという。亡くなって間もない人物を勝手によみがえらせれば、肖像権やパブリシティ権の問題になる。逆に言えば、権利を持つ遺族と合意できれば、そうした人物も一種の「AIキャスティング」ができるのではないか、とも話した。

下半期には、歴史の陰に隠れた無名の人々の特集も予定しているそうだ。編成が続く限り精一杯作りたい、と控えめに語った。

ただ、シーズン1の22人は、西洋の人物がずいぶん多かったと振り返る。

「世界の歴史が西洋を中心に語られてきた以上、多くの人に届く人物を選ぶとそうなってしまいます。私も東洋人ですし、作っているのはみな東洋人なのに。今日は、中国と日本のプロデューサーの方々がたくさんいらしているので、人物を推薦していただければ、一度作ってみたいと思います」

AIは視点を持てる

この番組を、フォーラムの司会者はドキュメンタリーとして紹介した。局は番組名にドラマと掲げている。では、作り手自身はどう考えているのか。ドキュメンタリーの領域を広げるために何を考えているか、とモデレーターに問われ、自分の番組を「ちょっと挑発的」と紹介したミンPDは、あっさりと語った。

「ある意味で、AIのコンテンツはドキュメンタリーとは正反対の側にあるのかもしれないとも考えました。基本的に、映像そのものがフィクションだからです」

ミンPDは続けた。同じセッションで中国のプロデューサーが紹介した氷河の映像をAIで作ってみたところで、何の感動も与えないだろう。ドキュメンタリーのなかで道具として使うAIは、一部を補うにとどまるのかもしれない。

けれど、彼が本当に話したかったのは、その先だった。

質疑応答で、AIの視点について語るミンPD(主催者提供)
質疑応答で、AIの視点について語るミンPD(主催者提供)

「道具としての人工知能と、知能としての人工知能は、区別すべきだと思います。人工知能が革新的なのは、それが技術や道具だからではなく、知能だからです。つまり、視点を持つことができるんです」

多文化の国でさまざまな文化圏の市民が共に暮らすように、人工知能と共に暮らす世界がやってきた、と彼は言う。「その視点がもっと成熟したとき、人工知能の視点と人間の視点がともににじみ出てくるドキュメンタリーとは、どんなものになるのか。そのとき初めて、本当の意味での人工知能ドキュメンタリーになるのだと思います。A文化で生きてきた人とB文化で生きてきた人が一緒にドキュメンタリーを作れば、新しい広がりを持った作品が生まれるように。次は、そういうものをやってみたいんです」

Q&Aでは、絵コンテまでAIに任せるのかと問われる場面もあった。任せることはできる、とミンPDは答えた。AIは絵コンテも画像も出してくれる。ただ、いまのところ完璧ではないので、気に入らない部分は一つひとつ直すことになる。そう言って、こう続けた。

「将来は、私が考えた絵コンテのデザインより、AIのほうがうまくなる日が来るかもしれませんね。囲碁でアルファ碁がイ・セドル棋士より強くなったように」

彼は、いまのAIに何が足りないかを、使い込んだからこそ正確に知っている。同時に、その足りなさが埋まっていくことも見据えている。そのうえで、いまは脚本家と監修者にお金をかけると決めている。

振り返ると、私の心に残ったのは、映像がどう作られたかではなく、そこで語られた言葉だった。

日本でも、AIで映像を作ったドラマはすでに地上波で放送されている。AIで何が作れるのかという段階は、もう越えつつあるのかもしれない。

だとすれば、AIで削れるものを削ったあと、いま何を削らずに残すのか。その問いは、日本の作り手にも重なるはずだ。

発表を締めくくるとき、ミンPDは協業にもオープンだと言い添えた。後ろのスクリーンには、彼のメールアドレスと携帯電話の番号が映っていた。


※番組のせりふと、ミンPDの発言の日本語訳は筆者による。

プロフィール

ミン・ソンウォン(閔成源 / Sungwon Min)
EBS(韓国教育放送公社)AI知識コンテンツ部 PD

『AI短編劇場』『歳月が流れれば-AIで再び出会う朴寅煥』『AIドラマ-よみがえりの授業』など、AI技術を活用した教養番組を手がけてきた。「放送人AI映像コンテスト」大賞、2025年「大韓民国AIコンテンツアワード」ドキュメンタリー部門1位を受賞。

本フォーラムは、2001年に国や立場を越えた番組を通じた制作者同士の交流を目的に、日韓でスタートしました。第3回からは中国が加わり、現在は日韓中の3か国が持ち回りでホスト国を務めながら開催されています。
放送文化基金は、第1回から第3回までの立ち上げを助成金により支援し、3か国開催となって以降も、日本開催時に支援を行ってきました。

第24回日韓中テレビ制作者フォーラム(韓国・水原)開催概要
【主催】
韓国|韓国PD連合会、水原特例市、財団法人水原コンベンションセンター
中国|中国電視芸術家協会
日本|全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)、放送批評懇談会
【後援】
京畿観光公社

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