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次のヒットより「どうつくるか」|ディズニー・レジェンドが語るIPを生み続ける仕組み
長谷川朋子▶▶▶いま、気になるコンテンツ “その先”を読む #15

ディズニーの強さといえば、『美女と野獣』『アナと雪の女王』など、長く愛される作品やIPがまず思い浮かぶ。では、それらを生み出し続ける力はどこにあるのか。ファンイベント「D23」で、ディズニーを長年支えてきたクリエイターたちの話を聞いて見えてきたのは、個人の才能だけに頼らず、チームで創造性を生み、次の世代へとつないでいく仕組みだった。巨大企業ディズニーは、クリエイティブをどう組織の力に変えているのか。
米カリフォルニア州アナハイムで8月14日から16日まで開催された「D23:究極のディズニーファンイベント」の会場では、映画やドラマ、テーマパーク、ゲームなどの新作情報が次々と発表された。なかでも筆者の印象に残ったのは、ディズニーの歴史を彩ってきたスターやクリエイターらを称える「ディズニー・レジェンド」という存在だった。
今年の「ディズニー・レジェンド」には、俳優のアン・ハサウェイやドウェイン・ジョンソン、クリエイターのリン=マニュエル・ミランダ、ディズニーを長年率いたボブ・アイガーらが新たに選ばれ、期間中、新たなレジェンドを祝う華やかなアワードも行われた。


授賞式に先立って企画されたトークパネルでは、4人のレジェンドがそれぞれのキャリアや創作の現場について言葉を交わした。登壇したのはブロードウェイ版『美女と野獣』でベルを演じたスーザン・イーガン、『アラジン』のジーニーなどを手がけたアニメーターのエリック・ゴールドバーグ、ディズニーランドの「ホーンテッドマンション」などに携わってきたキム・アーバイン、そして『アナと雪の女王』『モアナと伝説の海』など数々の作品で声を演じてきたアラン・テュディックだった。

4人のキャリアはまったく異なる。それでも、クリエイティブについて語り始めると、共通して浮かび上がってきたものがあった。「コラボレーション」である。
なかでもチームでつくるディズニーの姿を最も具体的に伝えていたのが、キム・アーバインだった。テーマパークの企画・設計などを担うウォルト・ディズニー・イマジニアリングのモデル工房で働いていた頃を振り返り、アートディレクターや彫刻家らと仕事をするなかで、「コラボレーションの重要性を学んだ」という。

例えば「ホーンテッドマンション」では、運営部門から混雑解消のために待ち列を広げたいという要望が出ると、「アトラクションの世界観や本来のコンセプトを損なわずに、どう実現するか」を考えるという。つまり、現場で生じる課題も組織のなかで連携しながら、作品の世界観を守る形で解決していくのがディズニー流なのだ。
一人の天才が名作を生み出す物語ではなかった
クリエイティブを個人の才能だけに閉じ込めない姿勢は、ほかのレジェンドたちの言葉からも伝わってきた。スーザン・イーガンは、ディズニーで仕事をするということは、「最高レベルのクリエイターや技術者、イノベーターたちに囲まれることであり、彼らの仕事から刺激を受けてきた」と振り返る。アラン・テュディックもまた、「自分のアイデアに耳を傾けてもらい、自由に試すことができた」と語っていた。キャラクターが育っていくまで、いわば「遊ぶ」ことが許されていたという。

アニメーターのエリック・ゴールドバーグが語ったのは、チームでキャラクターをつくる現場だった。ディズニーでは、キャラクターを担当するアニメーターが単に自分で絵を描くだけではなく、チームのアニメーターたちを導きながら、そのキャラクターをつくり上げていく。『アラジン』でジーニーを担当した際、自身も8人のアニメーターを率いた。「先人たちから直接指導を受けたことを、次の世代へ渡してきた」と振り返る。

先のアーバインもまた、ウォルト・ディズニーと仕事をしたジョン・ヘンチから直接学んできた。ヘンチは毎月のように彼女のオフィスを訪れ、二人でパークを歩きながら、なぜこの通りはこう設計されたのか、建築物にはどんな意図があるのかを伝えてくれたという。
さらにアーバインの母レオタ・トゥームズも、「ホーンテッドマンション」などの制作に携わり、アトラクションに登場するマダム・レオタのモデルとしても知られる。そして現在は、アーバインの娘もイマジニアリングチームの一員として働いている。
実際、“レジェンド”という言葉から連想する「一人の天才が名作を生み出す」という物語とは、少し違うものだった。優れたクリエイターの才能だけで完結させるのではなく、専門性を持つチームのなかで互いのアイデアを受け取り、次の世代へも渡していく。そのやり方は、作品づくりからテーマパークに至るまで一貫している。
ジョー・ロードが語る「情報はクリエイティブの原材料」
また、ディズニーがクリエイティブを組織の力に変える仕組みにまで踏み込んで語っていたのが、ジョー・ロードだった。約40年にわたってウォルト・ディズニー・イマジニアリングで活躍し、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにあるテーマパーク「ディズニー・アニマルキングダム」の構想やデザインを主導した人物で、2024年にはディズニー・レジェンドに選ばれた。
再びD23の会場に現れたロードは単独パネルで、創造性を引き出すためには、役職や立場にかかわらず情報や意見が行き交う環境が欠かせないという考えを示した。

「情報そのものがクリエイティブの原材料になる」とロードは語る。情報が組織の階層をいくつも通り、限られた人にしか届かない状態では、新しいアイデアが生まれる可能性も狭まってしまう。だからこそ、組織のなかで情報が自由に流れる状態をつくる必要があるという。
さらにロードが大事にしているのは、役職や立場によって、誰がアイデアを出すのかを決めつけないことだった。クリエイティブなアイデアは、チームの誰から生まれるか分からないからだ。ロード自身、「アニマルキングダム」の責任者でありながら、プロジェクトによっては一つのデザインを担当し、別のメンバーの判断に従うこともあったという。「プロジェクトで与えられた役割は、あくまで役割にすぎない」とロードは言い切る。
「一人ひとりがクリエイティブな天才である必要はない」ともロードは言う。チームに集まった一人ひとりが、それぞれの強みやスキル、知性、創造性を持ち寄ることで、集団そのものを一人の「クリエイティブな天才」のような存在にすることができるというのだ。
IPの価値がこれまで以上に重視される今だからこそ、レジェンドたちの言葉から気づかされることは多い。つい「次のヒット作品は何か」「次の人気キャラクターは何か」に目を向けがちだが、長く生き続けるIPを生み出す力を考えるなら、その手前にある「どうつくるか」に目を向ける必要がある。ディズニーが長い時間をかけて築いてきたものは、数々の強力なIPだけではなく、IPを生み、育て、次へと渡していくためのクリエイティブな組織そのものなのかもしれない。
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多様化する映像コンテンツの世界で、いま本当に注目すべき作品とは?本連載コラムでは、国内外の番組制作やコンテンツの動向に精通するジャーナリスト・長谷川朋子さんが、テレビ・配信を問わず心を動かす作品を取り上げ、その背景にある社会の変化や制作の現場から見えるトレンドを読み解いていきます。単なる作品紹介にとどまらない、深い洞察に満ちたコンテンツガイドです。
著者・プロフィール

長谷川朋子 (はせがわともこ)
ジャーナリスト/コラムニスト。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに独自の視点で解説した執筆記事多数。「朝日新聞」「東洋経済オンライン」などで連載中。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約15年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはコンテンツ・ビジネス分野のオーソリティとして活動中。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)など。
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