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韓国ドラマは「リアル」をどう裏切るのか|『殺し屋たちの店』から読む世界ヒットの物語設計【長谷川朋子】

連載コラム▶▶▶いま、気になるコンテンツ “その先”を読む #14

追い詰められるジアン(キム・ヘジュン) 『殺し屋たちの店 2』ディズニープラスのスターにて独占配信中 © 2026 Disney and its related entities

韓国ドラマには、時に「あり得ない」と感じる展開や設定がある。それでも、その世界に引き込まれてしまうのはなぜか。『殺し屋たちの店 2』の撮影現場で、制作陣から聞いたのは「現実に根ざした大胆な想像力」という言葉だった。世界で支持される韓国ドラマは、どのように“リアル”を裏切っているのか。

韓国ドラマには「いや、さすがにそれはあり得ない」と突っ込みたくなる瞬間がある。偶然が重なりすぎたり、人物が思いもよらない行動に出たり、現実では考えにくい設定から物語が始まったりする。「展開が強引」、時には「脚本が雑」だと言われることさえある。

ところが、その「あり得なさ」に引っ張られて、次のエピソードを再生してしまうのも事実だ。世界的なヒットを次々と生み出してきた背景には、リアルとフィクションの境界線を巧みに操る、独特の物語づくりがあるのではないか。そう考えるきっかけになったのが、Disney+の韓国オリジナルシリーズ『殺し屋たちの店』だ。

主人公は、唯一の保護者だった叔父ジンマンが残した「殺し屋たち御用達の武器販売店」を譲り受けた大学生ジアン。次々と襲来する殺し屋たちから、自らの命と店を守ることになる。そもそも「殺し屋専用の武器販売店」という設定からして大胆である。ところが、一度その世界に入ってしまうと、殺し屋たちのルールや人物関係、サバイバルをめぐる攻防に妙な説得力がある。

ジアン(キム・ヘジュン) 『殺し屋たちの店 2』ディズニープラスのスターにて独占配信中 © 2026 Disney and its related entities

シーズン1は米紙ニューヨーク・タイムズの「2024年ベスト・インターナショナル・ショー」にアジア作品で唯一選出された。7月22日から配信が始まったシーズン2では、イ・ドンウク、キム・ヘジュンらに加え、日本から岡田将生と玄理が参加している。岡田にとっては韓国制作のドラマ初出演で、本格的なアクションにも初挑戦。世界的に注目を集めた韓国シリーズに日本人俳優がどう加わるのかも、今シーズンの話題の一つである。

ジンマン(イ・ドンウク) 『殺し屋たちの店 2』ディズニープラスのスターにて独占配信中 © 2026 Disney and its related entities
潜入するQ(玄理) 『殺し屋たちの店 2』ディズニープラスのスターにて独占配信中 © 2026 Disney and its related entities

撮影現場で聞いた、成功の背景にある言葉

シーズン2の撮影が行われていた約1年前、韓国北部の大型撮影スタジオを訪れた。そこで行われた合同インタビューで、制作会社MERRYCHRISTMASのCEOユ・ジョンフンが、世界市場における韓国ドラマの成功の背景について語った言葉が印象に残った。

韓国北部の撮影スタジオ 『殺し屋たちの店 2』ディズニープラスのスターにて独占配信中 © 2026 Disney and its related entities

「韓国コンテンツはリアリズムとファンタジーの間に独自の領域を切り拓いてきたと思います。アメリカ式のファンタジーというわけでもなく、完全に現実に基づいてもいない。私なりの理論としてそれを『現実に根ざした大胆な想像力』と表現しています」

つまり、現実をそのまま描くのではなく、私たちが知る現実を足場に、想像力を大胆に飛躍させて物語をつくる。ユCEOは、これこそが韓国コンテンツの魅力の一つだと考えている。

『殺し屋たちの店』は、まさにそれを体現している。ユCEO自身も、武器密輸という現実味のある題材から出発し、そこにファンタジーを含む想像の世界を広げていったと説明する。つまり、リアルかファンタジーかの二択ではない。どこまで大胆に「嘘」をつけるか、なのだ。その飛躍自体が、エンターテインメントの力になっている。

アクションにリアリティを持たせる演出

一方で、撮影現場で目にしたのは、その大胆な「嘘」を成立させるための、徹底したリアリティへのこだわりだった。

スタジオには、シーズン1で店を失ったジンマンたちの新たな拠点となるコンテナや、敵対する組織「バビロン」の機密サーバー室などが作られていた。床には銃撃戦の直後と思わせる血痕や薬莢が散らばり、武器や小道具まで細かく作り込まれていた。

セットの床に残された血痕 『殺し屋たちの店 2』ディズニープラスのスターにて独占配信中 © 2026 Disney and its related entities

ホテルを舞台にしたアクション撮影では、岡田が爆発に巻き込まれる場面を目の前で見ることができた。一つのシーンのために、スタッフと何度も動きを確認しながら撮影を重ねていく。キャスト陣は撮影前から、スタントチームとの練習や銃器訓練など、本格的な準備を続けていたという。

イ・グォン監督(右)と岡田将生 『殺し屋たちの店 2』ディズニープラスのスターにて独占配信中 © 2026 Disney and its related entities

現場を率いたイ・グォン監督は、アクションの演出についてこう説明する。

「私が重視したのは、アクションにリアリティを持たせることでした。例えば女性キャラクターが男性の敵を倒す場合、どのような技であれば現実的なのかを深く考え、組み技を多く取り入れました」

キャラクターが空中を飛ぶような、リアリティを損なう表現は排除し、ファイトコーディネーターには「スタントが漫画っぽく感じられないようにする」ことを求めたという。

ここに、一見矛盾するようでいて、韓国ドラマのおもしろさを支える構造があるように思う。設定では大胆に現実を裏切る。しかし、その「嘘」を成立させるディテールでは、徹底してリアルを追求する。だから視聴者は、現実にはあり得ない世界へ入っていけるのではないか。

「あり得ること」を求めすぎない韓国ドラマ

リアルを裏切る物語のつくり方は、ヨン・サンホが脚本を手がけたNetflixシリーズ『ガス人間』にも通じる。『新感染 ファイナル・エクスプレス』や『地獄が呼んでいる』など多くの世界的ヒット作を生み出したヨンが、1960年公開の東宝特撮映画『ガス人間第一号』を原作に再構築し、片山慎三が監督を務めている。その物語には、日本のクリエイターからはなかなか生まれないようなアイデアが散りばめられている。警察署は地下のような場所に置かれ、権力者はヤクザと手を組む。一方で、虐げられてきた人間たちの心情の描写には、リアリティを灯す。

『殺し屋たちの店』と『ガス人間』はまったく異なる作品だが、物語をより刺激的にするために、現実を思い切って飛び越えている点は共通している。日本のドラマもかつて、「そんなことがあるだろうか」と思わせる設定や展開を、娯楽として成立させてきた作品が多かった。それに比べると、どこか「あり得ること」を求めすぎる今の日本のドラマに、窮屈さを感じることもある。

では、世界的な成功を重ねる韓国ドラマは、いったい誰を見て物語をつくっているのか。『殺し屋たちの店』のユCEOの答えは明快だった。

「膨大な量のコンテンツにアクセスできる時代において、韓国で成功した物語は、世界中の視聴者の心をつかむ可能性が高くなっています。韓国の視聴者の心に響く新しい物語をいかに作れるか。そこに重点を置いています」

世界で受け入れられるために、世界に合わせるのではない。むしろ、自分たちがおもしろいと思えるものをつくる。その確信があるからこそ、想像力を膨らませた独自のユニバースに踏み込めるのではないか。物語に驚きを持ち込むことを恐れない。その姿勢もまた、韓国ドラマから学べることの一つだろう。

『殺し屋たちの店 2』ディズニープラスのスターにて独占配信中 © 2026 Disney and its related entities

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多様化する映像コンテンツの世界で、いま本当に注目すべき作品とは?本連載コラムでは、国内外の番組制作やコンテンツの動向に精通するジャーナリスト・長谷川朋子さんが、テレビ・配信を問わず心を動かす作品を取り上げ、その背景にある社会の変化や制作の現場から見えるトレンドを読み解いていきます。単なる作品紹介にとどまらない、深い洞察に満ちたコンテンツガイドです。

著者・プロフィール

長谷川朋子 (はせがわともこ)
ジャーナリスト/コラムニスト。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに独自の視点で解説した執筆記事多数。「朝日新聞」「東洋経済オンライン」などで連載中。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約15年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはコンテンツ・ビジネス分野のオーソリティとして活動中。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)など。


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