助成
北海道の若手番組を、映画監督と他局ベテランが「再編集」
北海道5局の若手が挑むドキュメンタリー実践型ワークショップ(前編)
村上圭子(メディア研究者)

同じテーマ、同じ現場、そして同じ映像素材。それでも、編集方法が変わると、見えてくるものは大きく変わります。北海道の放送局が共同で取り組む「北海道ドキュメンタリーワークショップ」では、2年目の今年、若手制作者が共通のテーマで番組を制作し、完成した番組を外部のベテラン制作者が「再編集」するというユニークな試みが行われました。同じ素材から、どんな違いが生まれたのでしょうか。その過程から見えてきた、ドキュメンタリー制作の新たな学びを、メディア研究者・村上圭子さんがリポートします。
北海道発、ユニークなドキュメンタリーの学び方
北海道の民放5局と、NHKの有志が実行委員会を結成し、放送文化基金の助成を受けて実施している「北海道ドキュメンタリーワークショップ」。ドキュメンタリー番組を制作する若手の育成や、地域メディアの存在意義を考えることが目的で、今年で2年目となる。
筆者も少しだけ、本ワークショップに関わりを持たせてもらっている。2025年10月の公開講座では、「地域メディアの再定義」というテーマで講演し、今年8月に開催された公開ワークショップ講座、「同じニュースを見ているはずなのに、なぜこんなに違う世界が見えているんだろうー5局共同ニュース特集・再編集で見えたものー」にも参加し、最後のパネルディスカッションに登壇した。

もともと筆者は、NHKで報道局のディレクターとしてドキュメンタリー番組の制作経験があり、その後は、メディア研究者として地域メディアについてフィールドワークを続けてきた。このため、本ワークショップの趣旨に共感し、数多くの刺激を受けている。今後は、北海道以外でもこうした取り組みが広がることを期待しており、そこでも何らかの役割を果たしていきたいと考えている。
本ワークショップの2年目の取り組みの概要と意義について、前後編の2回にわたりリポートする。
「学び」から「作る」、そして「再編集」ワークショップ
1年目のワークショップは、映画監督の是枝裕和さんや森達也さんなど錚々たるゲストによる6回の講演を通して、ドキュメンタリーの役割や制作手法を学んだ(注1)。2年目は「制作実践編」として、民放5局の若手が実際に番組制作を通じて認識を深めている。多様な視点や新しい映像表現を学びあうために、実行委員会は図1(注2)のようなプログラムを考えた。

民放5局による報道部長会議で、「ともに生きる」を共通テーマに、各局の若手が夕方の報道情報番組で10分程度の企画を制作することにした(①)。制作のプロセスで、5局の制作者やデスク、プロデューサーが、テーマや構成について集まって対話する機会が3回も設けられ(③)、放送(④)後には番組を振り返る対話の場が1回設けられた(⑤)。
ユニークなのはここからである。いったん放送した番組を、外部のベテランのドキュメンタリー制作者が「再編集」する試みである(⑥)。鹿児島テレビ放送(以下、KTS)で数多くのドキュメンタリーを手がける四元良隆さん(注3)と、「観察映画(注4)」の第一人者である映画監督、想田和弘さん(注5)が、制作者と共に素材を見直し、新たな映像を制作した。そして8月に、四元さんと想田さんを招いて、若手が制作した番組と再編集番組の上映会と公開シンポジウムが行われた(⑦)。
「ともに生きる」をどう描く?3人の若手制作者が向き合った問い
ここからは、8月22日に行われた上映会&公開シンポジウムの紹介を通して、2年目の制作実践ワークショップでどのような学びがあったのかを見ていく。この日は土曜日で6時間という長丁場であったにも関わらず、70人ほどが参加し、熱い議論が行われた。
午前中のセッションでは、実行委員の北海道文化放送(以下、UHB)の吉岡史幸さんの進行で、北海道テレビ(以下、HTB)の大原麻潤さん、UHBの吉村直人さん、札幌テレビ放送(以下、STV)の鷲見萌夏さんが登壇し、それぞれの番組を上映し、ディスカッションを行った。

ディスカッションでは、「ともに生きる」という共通テーマについて、それぞれが番組制作を通じてどう考えたかが議論された。
ろう者の親を持つ耳の聞こえる子ども(CODA:Children of Deaf Adults)と、その取り組みを継いでいこうとする若者たちを描いたUHBの吉村さんは、
スマホ1つで世界中のことを知ることができ、色々な人とつながることができるはずなのに、身近にいる聴覚障害者の持つ“ろう文化”は理解し合えているとはいえない。いい企画にしたいから、共に生きようねという感じで終わろうとは思ったけど、番組制作をした後の今の自分でも、結局都合のいい範囲でしか共に生きられていない。本当に難しいテーマだと思った。
と正直な気持ちを吐露した。
人口5000人弱の十勝・鹿追町で、外国人を一時的に受け入れる「風の人」プロジェクトに密着したHTBの大原麻潤さんは、
この特集を作って思ったのが、何かやってくれたら何かやってあげたいって思う人間の心理って、日本人同士だったら自然に出てくるのに、外国人というフィルターがかかると、そうならない人が出てきたりするのをどうしたらいいんだろうなということ。メディアにできることがあると思う反面、メディアがヘイトを唱える人たちのことを報道すると、それに共感してしまう人を増やしてしまうのではないかという思いもあり、報道としてどうあるべきなのか考えこんでしまう。
と話した。
大火災に見舞われた江別市の大麻銀座商店街で、復興に向けて奔走する人々の動きを追ったSTVの鷲見萌夏さんは、
自分の見たいもの聞きたいものだけを取り入れるような世の中で、共に生きようと思っていない人はこういう番組は見ないし、届かないと思う。でも、商店街の取材を通じて、相手に伝わるかどうかはわからないけど、伝え続ける努力をすることが実は一番大事なのではないかと感じた。共に生きようともがいてる人たちがいるということを伝えることが大事だと思った。
と語った。
簡単に答えを見つけようとするのではなく、諦めずに問いに向き合い続ける覚悟がドキュメンタリー制作には必要である。共通のテーマの下、多くの人との対話を通じて番組を制作する中で、3人は学びを深めていると感じた。
とはいえ、日常の業務の中では、制作にかける時間もテーマに関する対話もなかなか十分にとれない現実に苦悩することも多いだろう。そんな中においても、今回の制作実践での学びが、少しでも次の取材や番組制作につながっていくことを期待したい。
「現場で感じたこと」をどう編集するか
午後は、実行委員の北海道放送(以下、HBC)の山崎裕侍さんの進行で、再編集ワークショップに関するセッションが行われた。HBCの三栗谷皓我さんと再編集を手がけた想田さん、テレビ北海道(以下、TVh)の三品幸平さんと再編集を手がけた四元さんという2組が登壇した。まず、三品さんと四元さんのトークを振り返る。

「ともに生きる」というテーマで三品さんが選んだのは、若年性認知症の男性とソーシャルワーカーの二人三脚の絆であった。三品さんは当初、認知症の男性を主人公として考えていた。しかし、撮影を進める中で、2人の関係性が支える側と支えられる側という固定的なものではないと感じ、過去に認知症の人たちと向き合って苦悩してきたソーシャルワーカーの人生にも焦点を当てた内容に変えていった。
普段のニュースや特集では言いたい結論がまずあって、そのために必要な画だけを撮ろうという取材が多かった。今回、みんなで集まって話をする中で、まずは撮ってみてそこから何が見えてくるか考えよう、という声があった。今回、そういう撮り方をしたら、自分の中でどんどん興味が変わっていくのを肌で感じることができた。
とのこと。

では、四元さんの再編集バージョンはオリジナルとどのような点が異なっていたのか。最大の違いはナレーションを一切なくした(“ノーナレ”)ということである。また、テロップも極力減らし、インタビューは音声部分だけでなく、沈黙や息遣いも含めた無音部分を生かす形にした。四元さんは、
取材で見つけたこと、自分が感じたことを、編集する時に実際に撮れた映像で語ることを心がけている。原稿にしてしまうと、現場で発見したことの力が半減する気がする。原稿で語りはじめると、視聴者にこうあるべき、と押し付けてしまう気がして。もっと視聴者を信じていいのではないか。
と再編集の意図を説明した。
四元さんのチームでは、“主観”で編集し、“客観的”に試写することを何度も何度も繰り返しながら作品を作り上げていくのだという。今回、その一部を体感した三品さんは、
現場で撮影できた映像から何を社会に伝えるのかを第一に考えてみたら、ワークショップ後の複数の特集が、明らかにこれまでと違う作り方になってきた。
と語った。
筆者は、三品さんが今回描いた2人がともに生きる姿から、たくさんの勇気や学びをもらった。一視聴者としても、2人のその後を描いた続編を期待したい。
撮れた映像から何が見えるか、何を伝えられるか

続いて、HBCの三栗谷さんと想田さんのトークを振り返る。三栗谷さんの制作した番組は、受刑者の社会復帰の課題を「当事者研究」というアプローチで伴走する研究者の目線で考えたものだった。三栗谷さんは、今回、ワークショップで番組を制作した他局の4人とは異なり、すでに1年を超える取材を続けており、集大成ともいえる2本の番組を放送した。

三栗谷さんの番組は、受刑者の課題を研究者の目線で描いたものであった。それに対して、想田さんの再編集バージョンは、受刑者が何を話したいのか、何を思っているのかに徹底してフォーカスしており、現場で上映された想田さんの映像を見た筆者は、これが同じ素材から作られたものなのかと目を疑うほどであった。
受刑者と研究者の1時間ぐらいのセッションをリアルタイムで見て、ここを使ってみよう、ここはいらないね、と言いながら、彫刻のようにちょっとずつ削っていく。いきなり細部を詰めるのではなくて、だんだんシェイプを作っていく感じにしていった。
と想田さん。そして
出所する人の不安というのがどういうものなのか、夜眠れないみたいな話があると、私たちともすごく共通の感情が動く。同じ人間として見ることができる。受刑者だから顔を出すことができないので最初は没入するのが難しかったと思うけど、しばらく見てると没入し始める感じがした。
と編集のプロセスを語ってくれた。 想田さんの再編集バージョンは、奇しくも四元さんと同じ、“ノーナレ”の手法であった。また、最初にテーマありきではなく、撮影時に自分が現場で感じた感覚を大事にし、それを編集室に入っても忘れずに素材と向き合っていく、というメッセージは共通していた。
HBCの三栗谷さんはこのワークショップ後に、1時間番組『罪と償い~懲らしめでは見えなかったもの~』を制作した。9月20日(日)深夜に「TBSドキュメンタリー解放区」(関東ローカル)で、9月27日(日)深夜にHBC「北海道fact」の枠で放送予定である。ぜひご覧いただきたい。
後編は、HBCの三栗谷さん、そして、本ワークショップの実行委員長をつとめたUHBの後藤一也さんとHBCの山崎さんへのインタビューをお届けしたい。
(注1)1年目の内容については、「北海道ドキュメンタリーワークショップ「未来へつなぐ灯」記事一覧」にまとめられている。
(注2)事務局の話を筆者なりに図式化した。図は民放online (2026年7月30日)より引用ローカル局連携”タテ・ヨコ・ナナメ”<1> ~ヨコでつながり、地域に向き合う【村上圭子の「持続可能な地域メディアへ」】⑩ | 民放online
(注3)ディレクターとして関わった『負ケテタマルカ‼』(2025年5月20日)、プロデューサーを務めた『警察官の告白~鹿児島県警情報漏洩事件を問う~』(2025年5月31日)が評価され、令和7年度芸術選奨文部科学大臣賞(放送部門)受賞。『警察官の告白』は、第52回放送文化基金ドキュメンタリー部門優秀賞受賞。
(注4)想田氏のウェブサイト 想田和弘のプロフィール
5局共同NEWS特集「ともに生きる」
UHB・吉岡史幸「ろう者の両親を持つCODAが語る偏見と葛藤」
HTB・大原麻潤「宿代は特技で!?過疎の街に外国人の滞在申込殺到」
STV・鷲見萌夏「大麻銀座商店街 火災で九軒全焼 再開に向け課題に直面」
TVh・三品幸平「若年性認知症者と支援のソーシャルワーカー ともに生きる二人」
HBC①三栗谷皓我「再犯を繰り返す受刑者との対話 当事者研究とは」
HBC②続編三栗谷皓我「双極性障害の60代の受刑者、対話を重ねて生きづらさと向き合う」
※TVh、HBCの再編集版は未公開
プロフィール

村上圭子(むらかみけいこ)
学習院大学卒業後、1992年NHK入局。報道局ディレクターとして『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』等を担当後、ラジオセンターを経て2010年から14年間、放送文化研究所メディア研究部に在籍。2025年1月末にNHKを早期退職し、メディア研究者として活動開始。東京財団上席フェロー、総務省「放送政策委員会」専門委員。
2025年度助成 イベント事業(前期)
「ドキュメンタリー番組制作の勉強会 2年目を迎え制作実践ワークショップ開催」
「北海道ドキュメンタリーワークショップ」実行委員会 実行委員長 後藤一也
(北海道文化放送メディア局映像プロデュース室部長)
👉北海道ドキュメンタリーワークショップ1年目の取り組みについて記事を読む
🔗北海道ドキュメンタリーワークショップ「未来へつなぐ灯」記事一覧
👉ワークショップの全体の概要や準備の経緯についての記事を読む
🔗北海道で高まるドキュメンタリー熱(成果報告会2025)
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