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「こんにちはー」から始まる共生|『ペトルス課長の未来図』

桧山珠美 ▶▶▶『日日是てれび日和』 気になる番組を読み解く週一コラム 

【第64回】NNNドキュメント『ペトルス課長の未来図~“多国籍”で生き抜く地方企業』(山形放送)2026年11月2日0時55分~

ご近所のコンビニにバングラデシュ出身の店員さんがいる。働き者でいつも愛想がよく、私が新商品のアイスを見ていたら、「それ、美味しいですよ」と声を掛けてくれる。そんな何気ないやりとりが嬉しい。近くにはもうひとつコンビニがあるが、こちらは若いバイトの女の子がいつもそっけなく事務的。なので、どうしても、バングラデシュ出身のお兄さんのほうに行くことが多くなる。

最初の頃は、若干の不安もあった。宅急便などの手続きや、チケットの引き取りの時など、ちゃんとやってくれるかどうか。ところが、そんなことはなく、下手な日本人よりも、気が利いて、何より一所懸命で、少しでも訝しがった自分を恥じたものだ。

日本人だからいい、外国人だからどうこうという話ではなく、結局は人なのだから。

『ペトルス課長の未来図』を見ながら、そんなことを思った。

深刻な人手不足のなか、外国人労働者の数は過去最多257万人を超えるまでに(厚労省2025年10月末)。今回の舞台は、山形市のめっき加工会社・スズキハイテック。インドネシア、バングラデシュ、フィリピン、モンゴル、ボリビア……。従業員262人のうち外国人が4割を占め、低迷期からのV字回復を遂げている。番組では、新事業開発を担うインドネシア出身のペトルス課長を中心に、外国人社員たちが会社の成長を支え、新たな可能性を切り開いていく姿が描かれる。

スズキハイテックが外国人従業員を採用し始めたのは2015年のこと。最初は2人だったが、2025年には130人に。売り上げも人数に比例して右肩上がりに大きく伸びている。鈴木社長曰く「活躍しよう、成功しようというマインドがものすごく強い。失敗を恐れない。結果的にみんなが同じマインドになって研究から製造・販売で成功している」と。

印象的だったのは、外国人を単なる人手不足の穴埋めとしてではなく、ともに会社を作る大切な仲間として迎えていること。ペトルス課長が、管理職として会社の将来を左右するプロジェクトのリーダーをつとめているのがその証だろう。

「いろんな国の人が一つの所に集まって、みんなで一つの思いになって一緒にゴールを目指していくっていうのは非常に嬉しいですね」と、ペトルス課長。一昨年、課長に昇進し、事業開発部を率いている。

高校の頃、彼が初めて出会った外国人は、日本語を教えてくれた山形の人たちだった。しかも、その人たちがみんな温かくて優しい方だったことから、外国に行って勉強するなら山形に行きたいと思ったそう。そして、山形大学でバイオ工学を専攻し、博士号を取得。専門的な知識をもつ留学生として、鈴木社長の目に留まり、卒業後、入社したという。

番組では、日本で働き始めた技能実習生たちにも密着。彼らがいかに礼儀正しく、真面目であるかというのがとてもよくわかった。

その一方で、ニュースで流されるのは外国人による事件や事故のよくない話ばかり。ペトルス課長は、そんなニュースが流れるたびに、外国人を見る目が厳しくなると心を痛める。新しく寮に住む従業員を連れて、社員と先輩がご近所をまわるが、迎える住民は、「宗教的な儀式やお祈りはするの?」とか、「日本の言葉や文化が通じるの?」と不安げ。寮の隣に住む98歳の武田さんに至っては、「悪いことさえしなきゃええ。ほんとよ」とそっけない。やはり、言葉が通じないのが不安だという。

そんな言葉の壁を越えるため、毎日、1時間は必ず日本語の勉強をしているというバングラデシュ出身のシャゴールさん。武田さんに「こんにちはー」と手を振ってご挨拶。4か月後には、寮仲間と一緒に武田さんの畑に。野菜を植えるお手伝いを申し出る。「最初は『あれっ』と思ったけど、いい人たちだよ」と武田さん。「あっちから挨拶するからよ、こっちから挨拶して。あっちでも嬉しいんだな、やっぱり。笑うのが一番だから」と。彼らと肩を組んだり、写真を撮るまでに。なんとも微笑ましい光景だ。小さな積み重ねが、いつしか心の距離を縮めていく。まさにそこに“共生”の原点がある。

人口減少が進み、人手不足に悩む日本。外国人労働者なくしては成り立たない。国籍も文化も言葉も生活習慣も違う人たちが、それぞれの力を持ち寄り、同じ目標に向かって歩んでいく。大切なのは、一人ひとりの力を信じ、仕事を任せること。スズキハイテックに学ぶことは多い。

一方で、番組は外国人の受け入れをめぐる制度の問題にも目を向けていた。今年10月から、外国人の在留資格の変更・更新にかかる手数料が大幅に引き上げられたのだ。これまで一律6,000円だったものが、改定後は3か月以下で1万円、5年以上で7万5千円に値上げされた。

入管庁には、「外国人との共生社会の実現に反するのでは」「大幅な引き上げは諸外国との人材獲得競争に不利になるのでは」という意見が寄せられているという。

もちろん、外国人の受け入れには、制度の整備もルールの徹底も必要だろう。しかし、せっかく日本で働き、地域に根を下ろし、ともに未来を築こうとしている人たちに、私たちはどんな社会を用意できるのか。

番組を見て改めて感じたのは、共生というのは、何も特別なことではないということ。会社では国籍の違う仲間が互いの力を認め合い、地域では挨拶を交わすことから心の距離が縮まっていく。人手不足だから外国人に来てもらう、というだけではない。外国人も日本人も、それぞれの力を発揮し、互いを認め合いながら、一緒に社会をつくっていく。そんな関係こそが、本当の意味での共生ではないか、と。

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プロフィール

桧山珠美

桧山珠美(ひやまたまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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