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窓ふきから迫る名建築の魅力|『ニッポンふきにくいビル名鑑』新宿コクーンタワー

桧山珠美 ▶▶▶『日日是てれび日和』 気になる番組を読み解く週一コラム 

【第58回】 『ニッポンふきにくいビル名鑑』新宿コクーンタワー(NHK総合 2026年9月21日22時30分~)

番組を見ながら、初めてこのビルを見つけたときの衝撃を思い出した。

「なんなんだ、これは!」と。

楕円形の特徴的なフォルムは、そこだけ近未来かのような強烈な違和感。 異彩を放つデザインはオフィス街には似つかわしくない光景だった。

が、そんな違和感もいつの間にやら消え、今ではすっかり街に馴染み、西新宿のランドマークともいうべき存在になっている。

ビルの名は「コクーンタワー」。2008年竣工。地上50階、高さ203.65m。ファッション・IT・デジタルコンテンツ・医療・福祉など6つの専門学校などが入る超高層キャンパスで、1万人の学生がここに通う。独創的なそのデザインは”繭” をイメージしており、ここから羽ばたいてほしいという意味が込められている。

と、「コクーンタワー」のプチ情報はこのくらいにして。

新聞のテレビ欄で番組名を見つけ、思わず笑ってしまった。これは間違いなく面白いやつだ、と。『ニッポンふきにくいビル名鑑』、なんとそそられるタイトルだろう。

この日が第1回の放送で、取り上げられたのが、その「コクーンタワー」だった。たしかにあのビルはふきにくそうだ。

出演は、矢作兼(おぎやはぎ)、櫻井梨央(モーニング娘。’26)、建築メディアの編集長宮沢洋。そして、このビルの設計者である建築家の丹下憲孝もゲストとして登場。開口一番、「ふきにくくありません」と、柔らかな物腰で、番組の企画を根底から覆すようなことを言い出した。丹下氏は東京都庁を設計した丹下健三の御子息。

そして、いよいよ窓ふきの作業を見ていく。

高層ビルの窓ふきには欠かせないゴンドラだが、見たところ「コクーンタワー」にはそれらしいものがない。いったいどうやって、磨くのか。

まずは、地上203mのビルの屋上へ。そこには見たこともない巨大重機があり、これがクレーンとゴンドラだった。作業員3人が乗るゴンドラの横幅は大人ひとりが収まるスペースで、手すりは腰までの高さ。他人事ながら身がすくむ。

そのゴンドラ、どうやって外に出すのかと思えば、なんと屋上が開閉式になっていてそこから出す仕組みになっていた。ゴンドラはこのビルのために作られた特注だという。

上層階と下層階では、窓の汚れ方も違えば、ふき方も違う。それぞれのふき方や、作業員たちが使いやすいよう自分たちで改良した道具に”スナッピー” “コボちゃん”などという名前がつけられていたり。

作業中、窓の中はプライベート空間ということでなるべく見ないようにしていると言いつつも、中から学生たちが手をふればそれに応えて手をふりかえす作業員たち。集中力を要する大変な作業なのに、わざわざ手をふり返さなくても、と思うが、ほかの作業員が保育園の窓ふき作業をしていたところ、手をふる園児たちを無視して作業していたら、クレームがきたらしい。どこの世界も、クレームには弱い。まったく世の中、生きにくいったらありゃしない。

一旦、下まで降りたゴンドラが上に上がるまでには40分かかるそうで、その間、作業員のひとり、窓ふき歴36年の竹下さんに、この仕事を始めたきっかけについて聞くと、もともとは俳優の仕事をしていて、時間の融通が利くからと先輩に紹介してもらってそのまま、との答え。大河ドラマ『翔ぶが如く』にも出演していたとか。まさに人に歴史ありだ。

この日の作業時間は7時間。3人がかりで、ふけたのはビルの一部で、ビル全体では2か月かかるという。

最後に、「この番組、窓ふきだけの番組を目指しているんですけど、行けると思います? レギュラー化」と矢作にふられた丹下氏が「1話で終わってしまいますと、ふきにくい建物はこれだけかとみなさんに思われてはいけないので、ぜひシリーズもので」と。

日本中にはまだまだ「ふきにくいビル」はあるだろうから、ぜひ見たいものだ。

お台場のフジテレビ本社もふきにくそうだ。が、NHKでそれをやるのは難しいか。などと思ったらこちらの設計にも丹下氏は父・健三氏とともに関わっていた。

NHKには、『解体キングダム』というビルの解体に特化した番組もある。あちらも建物の知られざる姿をみせてくれて興味深いが、こちらは「ふきにくいビル」に注目したところがユニークだ。

「ふきにくいビル」を設計した人。「ふきにくいビル」をふく人。両方の話を聞くことで、見慣れた建物も少し違って見えてくる。知られざる窓ふきの仕事から、個性あふれる名建築の魅力に迫る。またひとつ楽しみな番組が生まれた。

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プロフィール

桧山珠美

桧山珠美(ひやまたまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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