日本の傀儡国家・満州国でラジオ放送を担った満州電信電話株式会社。その新京放送局が収録した番組と取材素材の録音盤・約2,200枚が、中国に残されている。この中には、日本からの放送を受信して記録したものも含まれている。私たちは、20年前、300枚をダビングし持ち帰った。そして、放送100年を機に、改めてこの音源を研究者とともに分析。ラジオがどのようにして人々を戦争へと駆り立てていったのか、明らかにしていった。すると、「放送の抱える構造的な課題」が今の時代にも繰り返し現れている実態が見えてきた。

特攻隊員の出撃前の生の声が聴く者の胸を揺さぶる。令和の若者たちにも伝えたい貴重な音源だ。その音源から、今日のメディアの課題を引き出そうとする姿勢に、令和の制作者の強い意思を感じた。

「当時、なぜこのような番組が放送されたのか」「そのためにどのような準備をしたのか」「効果的に伝えるためにどんな演出をしたのか」細かく調べていくと、「人ごとではない」という思いが強くなりました。「今日でも、特ダネを取るために権力の側に寄りすぎていることはないだろうか」「現実は豊かで様々な側面があるのに、自分たちの都合に合ったものを切り出し、物語を紡いでいないか」「評価の定まらない事象を前にしたとき、“権威”とされる専門家や国の発表に頼り、それに反する意見を封殺していないか」・・・日々放送を出している私たちが、自身に問い続けなくてはならない教訓を、当時の音源から受け取った気がします。
NHK 野村優夫

語り　柴田祐規子
技術　瀬戸亮太
音響効果　菊池由香
取材・制作　野村優夫
制作統括　重藤聡司、小野勇人
出演　太田奈名子、伊藤守、森暢平、加藤陽子、牧野邦昭、冨永望、田中辰雄、重信幸彦、志方隆司、神谷洋平