HBF CROSS

ドキュメンタリー

戦争

連載

戦争の記憶を繋ぐには|『少女たちの戦争 時を超える学級日誌』

▶▶▶ 『日日是てれび日和』──気になる番組を読み解く週一コラム 桧山珠美 

【第53回】 NHKスペシャル『少女たちの戦争 時を超える学級日誌』(NHK 2026年8月15日22時00分~)


8月15日、終戦記念日。

テレビをつけると、そこにはいつもの時間が流れていた。街を歩き、おいしいものを食べ、笑い合い、楽しそうに語らう。まさに平和そのものだ。それが悪いとは言わないが……。

さすがに、NHKは11時50分から終戦から81年の『全国戦没者追悼式』を中継。一方、同時間帯の民放各局をみると、ニュース番組のなかで少し触れた局はあったものの、多くはいつもと変わらぬバラエティ番組を放送していた。

かつては、8月になると戦争報道や特別番組が集中し、それを「8月ジャーナリズム」と揶揄されることもあったが、その規模も年々縮小している。「8月しか報じない」どころか、「8月であっても報じられない」時代になりつつあるのかもしれない。

一方で、今年も戦争の記憶を絶やすまいと奮闘し、多彩な番組を世に送り出している局もまだまだある。それらの番組を見ていると、戦争体験者が激減するなか、いかにして若い世代へ戦争の記憶を継承していくか、がこれからのテレビにおいてますます重要な課題になっていると感じた。

そんな問いに、ひとつのヒントを示してくれたのが、NHKスペシャル『少女たちの戦争 時を超える学級日誌』だった。

舞台となるのは、東京・港区にある東洋英和女学院。『花子とアン』のヒロイン村岡花子の母校として、朝ドラファンにはおなじみの歴史あるプロテスタント系のミッションスクールだ。

この学校には、100年以上にわたって書き継がれてきた学級日誌が残されている。その数、およそ2000冊。なかには戦火を免れた太平洋戦争中の日誌も40冊保存されており、それらを活かした独自の「戦争と平和を考える授業」を昨年から始めたという。在校生たちが、同じ校舎で学んだ80年前の先輩たちの言葉を手掛かりに、“戦争と平和”について考えを深めていく。その姿をカメラが追った。

学級日誌に記されているのは、友人との何気ない会話や学校の授業のことなど。そこには、今の生徒たちとなんら変わらない、ごく普通の日常があった。

ところが、戦争の足音が近づくにつれて、その内容も様変わりしていく。昭和16年12月8日の日誌には「校長先生から西太平洋において日本と米国が戦争になったと発表があった」との記述が。以降、彼女たちの日常のすぐ隣に、少しずつ戦争が入り込んでくる様子がひしひしと伝わってきた。

やがて、授業は次第に減り、少女たちは勤労動員へと駆り出される。この頃には、学級日誌と同時に勤労動員日誌も書かれていた。そこには、「お国のために一生懸命やる」「立派な日本人になるため」などと熱い決意が書かれていた。

なかには生徒が生徒を厳しい目で見咎めている記述もある。

「真面目であるが、なんとなく動作が緩慢」

「まだ1個も出来ていない。一日をぼんやり」

「どうしてこんなに出来ないのだろうと思う位、だらしがない人がいる」

隣人愛を掲げる学校で、仲間の行動を監視し、同じことを強いる状況が生まれていく。授業では、この状態を「衆人環視」という言葉で捉えていた。

そのうえで、担当教師は、「人間が個人ですごくいい人だったとしても、集団のなかでその道徳にもまれてぐちゃぐちゃにされるんだよ。それをどう私が向き合っていくか。そこは大きなカギになるんじゃないかな」と生徒たちに語りかけた。

授業を受けた生徒たちの感想は、

「衆人環視って現代の言葉でいう同調圧力って言葉に似てると思ってて、いざ自分と違う意見の人がたくさんいたら、自分の意見をもっても言えるかどうか」

「勇気を出して、自分の意見を言えるようになりたい」と。

80年前の「学級日誌」から学べることはたくさんある。

この学校では、当時の生徒たちの聞き取りも行っている。勤労動員で、召集令状、いわゆる赤紙の宛先を書かされていた、という話はとてもショッキングだった。史料室の研究員、松本郁子さんは言う。「銃後といえども戦争と地続き。武器を持って戦っていないけど戦っている」。日誌や証言から、戦争の実像が浮かび上がった。

戦争を知らない世代に、ただ戦争の悲惨さを説いても、どうしても「遠い出来事」「歴史上の話」になってしまう。しかし、自分と同じ年頃の少女たちが書いた日誌ならどうだろう。同じ学び舎で過ごした先輩たちに思いを馳せることで、80年前と現在が繋がっていく。まさにタイムリープのように。

戦争を伝えることは、過去の出来事を説明することではない。過去と現在をどう繋ぐかということも重要だ。80年前の「学級日誌」を読み、そこから「戦争と平和」を考える授業。その取り組みも素晴らしいが、それを学校の授業に留めず、広く社会に伝えた番組の仕事もまた意義深い。

『花子とアン』のなかに、「想像の翼を広げる」という花子の言葉があった。80年前の言葉に耳を澄まし、その時代に思いを馳せ、いまの自分ならどうするかを考える。それもまた「想像の翼を広げる」ことだ。その翼を広げるために、テレビができることは、まだまだある。

▷▷▷この連載をもっと読む
桧山珠美コラム『日日是てれび日和』記事一覧

プロフィール

桧山珠美

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

関連記事を見る

新着記事を見る

私たちについて

詳しく見る

財団情報

詳しく見る