助成
安心・快適・ワクワクする未来の自動運転
奈良先端科学技術大学院大学 准教授 澤邊太志
「自動運転になれば移動はもっと快適になる」――そうした期待が高まる一方で、自動運転が普及する時代には、搭乗者のストレスや快適性を新たな視点で捉える必要があります。
自動走行車両における予測困難な動きが人に与える影響や、その軽減手法、さらに車内エンターテイメントの可能性について、実車実験を通じて検証した研究成果を、奈良先端科学技術大学院大学の澤邊太志准教授に寄稿していただきました。
(※ここでは、「安心して乗ることができ、快適で、さらに移動そのものが楽しくなる未来の自動運転」の実現を目指した大学研究の一部をご紹介していきます。)
未来の自動運転ってどんな環境?
近年、センサやカメラなどの技術が大きく進歩したことで、自動運転は「遠い未来の技術」ではなく、少しずつ私たちの身近なものになり始めています。これまでの自動運転研究では、事故を減らすための「安全性」や、渋滞を減らしてスムーズに移動するための「効率性」が主に重視されてきました。もちろん、これらはとても重要な要素です。しかし、自動運転が広く普及すると、単に“安全に移動する”だけではなく、「車の中でどのように過ごすか」も大きく変わっていくと考えられています。これまでは、人が常に運転に集中しなければならなかったため、車の中でできることには限りがありました。しかし、自動運転では運転操作を車が担うため、人は“運転手”ではなく“搭乗者”として移動時間を自由に使えるようになります。たとえば、移動中に好きな映画や好きなテレビ番組を楽しんだり、スポーツ観戦やライブ配信を見たり、ゲームや音楽を楽しんだり、仕事や勉強をしたり、あるいはリラックスして休憩や睡眠を取ったりすることも可能になります。つまり、将来の自動運転車は、「目的地まで移動するための乗り物」だけではなく、“自分らしい時間を過ごせる空間”へと変化していくと期待されています。さらに、車内での映像や音楽、情報サービスが進化することで、移動そのものが新しい放送体験やエンターテインメント体験へと変わっていく可能性があります。このように、自動運転は交通の未来を変えるだけでなく、私たちの生活や「移動時間の楽しみ方」そのものを大きく変えていく技術として期待されています。近い将来を考えると、移動中に景色や車の動きと連動して映像が変化したり、旅行先に合わせた番組や情報が自動で流れたりするなど、これまでにない新しい視聴体験が生まれることも期待されています。車は単なる移動手段ではなく、「くつろぎながら情報やエンターテインメントを楽しむ空間」へと変化していきます。
手動運転が自動化することで実は移動体験が不快になる可能性が増える
しかしその一方で、自動運転特有の予測が困難な急な動きや、次に何が起こるかわからない不安によって、自動走行ストレスや自動走行酔い(車酔いだけでなく車内での高品質な映像体験からの映像酔い)が発生しやすくなるという課題が隠れて存在しています。特に、車内で映像を見続ける機会が増える未来では、「快適に視聴できる環境づくり」が重要になります。
搭乗者にとって快適な移動とは?を考えてくれるAI(知能)が重要
車内で長時間過ごすようになると、「どれだけ快適に過ごせるか」がとても重要になります。たとえば、不安やストレスを感じないこと、車酔いをしにくいこと、リラックスできることなど、人にとっての“心地よさ”が大切になります。 そこで私は、「快適化知能(Comfort Intelligence)」という考え方を提案しています。これは、自動運転車が安全に走るだけではなく、「人が安心して快適に過ごせること」まで考える未来の知能システムです。 これからの自動運転社会では、安全性や効率性だけでなく、“人がどれだけ快適に、楽しく移動できるか”が重要になると考え、その実現に向けた研究を進めています。利用している人たちが知能に色々教えてあげるのではなくて、知能自身が私たちの快適を考えた移動空間を提供してくれるそんな知能システムが必要です。

「視覚」と「前庭覚」の制御が快適な移動空間を作っていく
そこで本研究では、人が感じる「視覚」や「前庭覚(耳の奥にある内耳(三半規管や耳石器)で感知される、重力・傾き・回転・スピードを感じ取るバランス感覚のことで、姿勢の維持や目の動きを安定させる役割を持ちます)」に注目し、それらをうまく調整することで、自動走行ストレスや自動走行酔いを軽減する技術の開発に取り組みました。さらに、映像や情報の提示方法を工夫することで、移動中の没入感や楽しさを高める研究も行っています。
具体的なVRやAR技術を活用した研究の紹介
詳しい研究をご紹介します。
■不安やストレスを減らす情報提示の手法
この研究では、自動運転中に「次に車がどう動くのかわからない」という不安を減らすための技術を研究しています。たとえば、AR(拡張現実感)技術を使って、「これから車がどの方向に進むのか」や「どのように曲がるのか」といった未来の動きを、映像としてわかりやすく表示します。これにより、搭乗者は車の動きを事前にイメージしやすくなり、不安やストレスを軽減できる可能性があります。将来は、車が“何を考えて動いているのか”を、人にやさしく伝えてくれる自動運転システムにつながることが期待されています。

■車酔いを抑える感覚制御システム
この研究では、「車に乗ると酔ってしまう」という問題を減らすための技術を研究しています。なぜ車の中で酔ってしまうのでしょうか?ある一説には車酔いは、目で見ている情報と、体が感じている揺れや動きの情報がうまく一致しないときに起こると言われています(感覚矛盾説より)。たとえば、本を読んでいると目には“止まっている”ように感じても、体は車の揺れを感じています。このズレが脳を混乱させ、気分が悪くなってしまう原因の一つだと考えられています。そこで本研究では、人の「見る感覚」と「体の揺れを感じる感覚」をうまく調整することで、車酔いを軽減するシステムの開発を行っています。将来的には、映画を見たり、仕事をしたり、ゲームを楽しんだりしても、酔いにくい快適な車内空間の実現を目指しています。

■映像や放送コンテンツをより楽しく体験できる制御システム
この研究では、自動運転中の映像体験や放送コンテンツを、より楽しく、臨場感のあるものにする技術を研究しています。たとえば、映画やゲーム、スポーツ観戦、瞑想などの内容に合わせて、座席の振動や動きを変化させることで、まるで映像の世界に入り込んだような体験を生み出します。さらに、視覚的な演出を工夫することで、実際よりもスピード感や迫力を強く感じられる効果についても研究しています。このような技術によって、将来の自動運転車は、単なる移動手段ではなく、「移動しながら映像や放送を楽しめるエンターテインメント空間」へと進化していくことが期待されています。



本研究は、「安全に移動する」だけではなく、“移動時間そのものを、新しい放送・映像体験の場へ変えていき、単なる移動だけでなく、快適で心地よい移動空間の実現”を目指した研究です。将来の自動運転車が、安心してくつろげるだけでなく、テレビや映像、情報サービスを好きな時に好きなだけ楽しめる“移動するリラクゼーション”のような存在になることで、毎日の移動が楽しみになる新しいモビリティ社会の実現につながることを期待しています。

澤邊太志(さわべたいし)
奈良先端科学技術大学院大学 准教授
奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)インタラクティブメディアデザイン研究室 准教授。立命館大学にてバイオミメティックロボット分野で学士号を取得。環境知能学研究室(NAIST)にてHRI分野で博士号を取得。研究分野は、VR/AR、人間とロボットの相互作用(HRI)および自動運転における快適インタラクションの設計。
2023年度助成 技術開発部門
奈良先端科学技術大学院大学 准教授
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