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きょうも誰とも喋らなかったあなたへ|『人生の湯 会話のある、城下町の風景』

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【第51回】NNNドキュメント′26『人生の湯  会話のある、城下町の風景』(日本テレビ/制作・テレビ信州 2026年7月26日24時55分~・拡大版)

スーパーやコンビニのレジはセルフ化が進み、宅配便も置き配に。たまにしか来ない仕事の依頼もメールで届く…。便利になった反面、気がつけば、「きょうも一日、誰とも喋らなかった」。そんな日が、いつの間にか当たり前になってしまった。

だからだろうか。この番組が映し出した何気ない日常が、かけがえのないものに思えた。

『人生の湯 会話のある、城下町の風景』は、テレビ信州が松本城近くの老舗銭湯「塩井乃湯」(明治34年創業)を12年にわたって見守り続けたドキュメンタリーシリーズの第4弾だ。

常連客たちは湯船に浸かり、他愛ない言葉を交わす。一番若い常連客(といっても62歳だが)が、高齢者の髪を洗い、坊主頭をカミソリで剃ってあげる。剃り終えた頭は血がにじみ、見ているこちらは思わずヒヤリとしたが、当人たちはまるで気にしていない様子。そんな何気ないやり取りの一つ一つから、長年育まれてきた信頼関係が伝わってくる。互いを気遣い、支え合う。自宅でも職場でもない、「もうひとつの居場所」がそこにはあった。

とはいえ、その居場所も永遠ではなく…12年という歳月の中で、常連客は年を重ね、病に倒れ、やがて、別れも訪れる。常連客がひとり、ふたりと減っていくのを見ると寂しくなる。画面には、ときおり、すでに亡くなった常連客の名前と没年月日が添えられ、それをみるたびに胸が締め付けられそうになるが、画面に映る彼らがみんなとびきりの笑顔なのが救いだ。

銭湯まで30歩のところに住む夫婦は、銭湯が近いからと自宅を建てる際、風呂を作らなかったという筋金入りの常連客だ。その夫が突然亡くなり、やがて妻の愛子さんも心不全で、ある日、救急車で運ばれた。退院後、付き添いなしでの入浴は厳しく、愛子さんは銭湯に通えなくなってしまう。湯船に浸かれないことよりも、毎日、交わしてきた何気ない会話を失ったことのほうが、よほど寂しかったのではないか。そんな愛子さんを見ていると、「居場所」は単なる場所ではなく、人とのかかわりの中で生まれるものだと思えてくる。

今回の取材が始まった頃、客は男女合わせて1日30~40人、ほとんどが常連客。重油も値上がり、経営も苦しいなかで、その常連客も減っていくのだから、いずれ、銭湯を閉めることにもなりかねない。実際、近くの銭湯も廃業してしまった。

ところが、2024年。銭湯にもインバウンドの波が押し寄せ、外国人旅行者の姿が増えてきた。そんな外国人にも気軽に話しかける常連客。おもてなしのつもりらしいが、言葉もままならず、それでも、カタコトの言葉とジェスチャーでコミュニケーションを図ろうとする姿に、言葉は通じなくても、人とつながろうとする気持ちは伝わる。その光景を見ているうちに、人を結ぶのは語学ではなく、相手を思う気持ちなのだと教えられた。

「塩井乃湯」は、そのレトロな外観もさることながら、大正15年から現在の建物ということで、使い込まれた下足箱も、木のロッカーも、長い年月を静かに刻んできた。昔の目盛りが付いたアナログな体重計も現役だ。そして、そこには、笑い、支え合った人たちの時間がある。番組が映し出したのはそんな銭湯に集う人たちの人生そのものだった。

12年見守ったからこそ見えてきた人生がある。だからこそ、このシリーズには終わってほしくない。ドキュメンタリーは事件だけを追うものではない。人が笑い、老い、別れ、また新しい出会いを重ねる。そんな何気ない日常を記録し続けることもまた、テレビにしかできない大切な仕事だ。

人はいつかいなくなる。だが、見守り続けた映像は、その人がたしかにそこに生きた時間を残してくれる。このシリーズが、これからも変わらぬ眼差しで「人生の湯」を見つめ続けてくれることを願う。

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プロフィール

桧山珠美

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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