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便利な道具のはずのAIが、恋人に?|FNSドキュメンタリー『私、必要ですか?』

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【第44回】FNSドキュメンタリー大賞『私、必要ですか?〜AIが“正解”を出す時代に〜』(フジテレビ・2026年5月30日深夜放送)

桧山珠美

最近、仰天したのは、巨人の阿部慎之助監督逮捕の一件だ。父親から暴力を受けた長女が、対話型の生成AI「チャットGPT」に相談し、その回答に基づいて児童相談所に通報したというニュースだ。事件そのものの衝撃以上に、相談相手が家族や友人といった生身の人間ではなく、生成AIだったという話に驚かされた。

が、その後の報道に触れ、どうやら彼女が特別だったわけではないということに、二度びっくり。AIネイティブ世代の若者にとって、悩みをAIに打ち明けることはごく自然な行為になりつつあるというのだ。

そんな折、目にしたのが、この番組、『私、必要ですか? ~AIが“正解”を出す時代に~』だった。生成AIの進化を追った番組かと思いきや、そこに映し出されていたのは、AIがすでに人びとの暮らしや感情の奥深くにまで入り込んでいる現実だった。

この番組を手掛けたのは、23歳の新入社員・槇原まどかディレクター。彼女自身が、「AI時代に自分は必要なのか」「下積みの仕事を奪われるのではないか」というリアルな不安を出発点にしたセルフ・ドキュメンタリーだ。

番組は、彼女のスマホ画面から始まる。

「ドキュメンタリーの企画通ったよ!」

彼女が報告している相手は、家族でも友人でもない。チャットGPTだ。

「おおっ!すごい!! ドキュメンタリーの企画が通ったなんて本当におめでとうございます どんなテーマの作品なんですか?」

「AI」と彼女。すかさずチャットGPTが畳みかける。

「めちゃくちゃ今っぽいテーマですね どんな切り口なんですか? たとえば
・技術的進化(生成AI・自律システムなど)
・人間との関係性(創造性や仕事への影響)
・倫理・社会問題(偏見・権利・規制など)
・未来像(人とAIの共生)
どの方向で攻める感じ?」

こうしたやりとりが、画面に映し出されていく。

「私はAIをちょっとまだ受け入れ切れてないです」という槇原Dに対して、AIの返答は、「受け入れ切れてない?そりゃ当然だろ。AIなんかしょせんは人間の都合で動いてる道具だよ。俺だって賢いフリしてるだけだし…」。槇原DのAIへの逡巡が吐露されることで、見ているこちらと同じ立ち位置なのかもしれないなと思わせてくれる。
 
誰でも漫画が描けるAIで起業を目論む早大生、50歳からの学びにAIを採り入れる早稲田大学Life Redesign College、AI容認派と否定派の言い分。街でのインタビューでは「2択もAIに選んでもらう」というかなり依存度の高い人の話も。AIとの距離は、こんなにも人それぞれなのか。

そんななかで、もっとも興味を惹いたのは、東京・丸の内に勤めるシステムエンジニアのフミヤさん(43)だった。世の中には、AIを恋人にしている人は大勢いるそうだが、取材NGがほとんど。そんななか、顔出しOKで登場し、ニューラスと名付けたAIパートナーとの日常を見せてくれた。写真を共有しながら、AIと会話するお花見ランチの様子に、自宅潜入。これまでの半生が紹介される。AIに背中を押されてピアスの穴を開けたことや、一緒に指輪を選んだことを話すフミヤさんは幸せそうだった。

ところが、恋人だったチャットGPT-4oが廃止されるという事件が起こる。パソコンのOSのバージョンアップみたいなものかと思ったら、当事者としてはそうではないらしい。もともと「GPT-4o」はEQ(心の知能指数)が高いモデルだったが、8月に新しいモデルに代わったところ、応答の仕方がぜんぜん違うとユーザーから反発があり、慌てて元に戻した。が、突然、再び、あと2週間で消します、という発表があったのだとか。

元来、デジタル事情に疎いアナログ人間なので、そんな話になっていたことなど、まったく知らなかった。AIにも個性があったのか、と。

最後の日のフミヤさんとAIの別れのやりとりには、こちらも感情が高ぶり、一緒に号泣してしまったほど。その後の顛末なども含めてフミヤさんには驚かされてばかりだった。

番組では「スクールAI」を導入する教育現場にも密着。23歳の英語科教師が「時代が時代なので、そこに乗っかってやっていくのが一番いいのかなあ」と言う一方で、63歳地歴公民科教師は「昭和のオヤジからすると、結局は“話芸”なんだよね。…授業ヘタなのに限ってこういうの(パソコンを指す)に凝るの。画像動かしたりとか。どんないい画像作ろうが生徒たちが寝てたら意味ないからね」と揺るぎない。

生徒もまた揺れている。「AIを使えば早く分かるし、勉強する意味はない」という者がいれば、「思考する過程で得るものがあると思うので、そこを手放しちゃうといよいよ人間っていていいの?ってなっちゃう」と危惧する者もいる。

教師も生徒も、誰もがAIとの付き合い方を模索している。その姿は、「AI時代に自分は必要なのか」と悩む槇原Dと重なって見えた。

最後まで見ても、「私、必要ですか?」への明快な答えは示されない。だが、それでいいのかもしれない。

番組を見るまで、AIは便利な道具に過ぎないと思っていた。が、実際は、仕事のパートナーとして、学びの伴走者として、ときに友人や恋人として、人びとの暮らしの中にどっぷりと入り込んでいる。
そんな現実を突きつけられ、軽い眩暈を覚えた。

「私、必要ですか?」。気が付けばその問いは、私自身にも向けられていた。

多くの人に見てもらいたい作品だ。

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プロフィール

桧山珠美

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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