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テレビが遺せるもの|NHK追悼番組『美輪明宏 愛と祈りの歌』

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【第48回】『美輪明宏 愛と祈りの歌』(NHK総合・2026年7月5日8時~)

NHK追悼番組『美輪明宏 愛と祈りの歌』

日曜の朝、テレビをつけたら美輪明宏が歌っていた。その圧倒的な迫力に、眠気もいっぺんに吹っ飛んだ。そこからはもう画面にくぎ付け。それは、6月20日、91歳で亡くなった美輪さんを歌声で振り返る追悼番組で、NHKに残るアーカイブ映像から、歌手・美輪明宏の世界をたどるものだった。

45分という限られた放送時間ながら、第63回『紅白歌合戦』(2012)で披露した「ヨイトマケの唄」(個人的には木村拓哉が曲紹介する場面は要らなかったのではと思う。その分、1秒でも長く、美輪さんの姿を見せて欲しかった)に始まり、「愛の讃歌」「ふるさとの空の下に」「花~すべての人に花を」そして、「老女優は去りゆく」。

美輪さんの歌声には、人生の喜びも悲しみも、怒りも痛みも、すべてを引き受けるような凄みがある。一曲一曲がひとつの舞台であり、ひとつの人生を観せられている、まさに魂の歌声だ。

美輪さんの表現の根底には、平和への強い願いがある。戦争を憎み、人間の愚かさを厳しく見つめる。そして、最後に残るのは「愛」だ。

生前に書かれた直筆メッセージにも「こんな世の中を生き抜く武器は愛の言葉しかありません この世のすべての問題を解く鍵は愛です 愛があれば戦争なんか起こりません」と書かれていた。

美輪さんの訳詞による「愛の讃歌」も、一般に広く知られる甘いラブソングとは、ひと味もふた味も違う。そこに込められているのは、愛することの歓びだけではない「無償の愛」。誰もが知る名曲がまったく別の表情を見せる歌になる。

そして、ラストを飾ったのはこちらも自身が作詞・作曲した「老女優は去りゆく」。2009年9月に放送された『SONGS』からの映像だった。舞台のセットもライティングも素晴らしく、どこかの劇場で一人芝居を観ているような、美輪明宏の世界に浸る贅沢な時間がそこにあった。

歌の中の老女と呼応するように、歌い終えた美輪さんは逃げるように舞台から去る。鳴りやまぬ拍手と歓声の中、再び現れてセンターマイクの前に戻ってきた美輪さんが観客に向かって投げキッスをし、お別れのポーズを決める。その際に見せる指の先まで神経が通った美しい姿、そして、再び、颯爽と舞台の奥へと消えていく。凛とした後ろ姿の美しいこと! これぞ歌手・美輪明宏の真骨頂。そして、幕が閉じた。私たちに素晴らしい美輪さんを見せてくれたということで、愛のある追悼番組だったといえる。

NHKが見せたのは、歌手・美輪明宏だけではなかった。この追悼番組に加え、別の日には美輪さんが長くレギュラーを務めていた『美輪明宏 愛のモヤモヤ相談室』の新春SPをアンコール放送。さらに、1968年の主演映画『黒蜥蜴』もプレミアムシネマで放送した。歌手として、俳優として、そしてテレビで人々の悩みに向き合う存在として。歌、芝居、バラエティー。三つの窓から、美輪明宏という多彩な表現者を振り返って見せた。

誰かが亡くなるたびに、その人のありし日を映してきた番組がある。『徹子の部屋』だ。訃報が報じられた翌日に放送された回もまた、さまざまな世代の美輪さんを見られる貴重な番組だった。長崎で被爆したその体験を生々しく語る姿。「自分の歌は全部反戦歌」「イデオロギーのない歌はティッシュペーパーだ」という言葉の重み。「ヨイトマケの唄」誕生の背景。「日本は大和の国。だから、大きな和を以て貴しとなす、という心を大切にしたい」という言葉の数々は、今を生きるわたしたちへの遺言でもある。

テレビ局が持つ膨大なアーカイブ。そこには、表現者が生きた時間があり、視聴者が笑い、泣き、驚き、ともに時代を過ごした記憶がある。追悼番組は故人を懐かしむだけの時間ではない。その人が何を残し、私たちが何を受け取ってきたのかを、もう一度確かめるための時間なのではないかと思う。

6月は、中村玉緒さん、ガッツ石松さんも亡くなった。玉緒さんの女優としての功績、ガッツさんのプロボクサーとしての功績はもちろん、おふたりにはテレビを通して、私たち視聴者に笑いを提供してくれたことも忘れてはいけない。そんな姿もぜひ振り返って欲しいものだ。テレビは、出演者たちから数え切れないほどの時間と魅力を受け取ってきた。その記憶を掘り起こし、作品を再放送し、視聴者と分かち合うことは、テレビにできる最大級の感謝であり、責任でもある。

『徹子の部屋』だけに、追悼の役目を委ねてはいけない。各局が自らのアーカイブをひらき、画面を彩ってきた人々へ「いままでありがとう」と伝える。今回、NHKの美輪明宏さん追悼番組に、そんなことを思った。

朝の8時から、なかなかのハイカロリーな番組だったが。

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プロフィール

桧山珠美

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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