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創作の息づかいを、お茶の間へ|『浦沢直樹の漫勉neo』羽海野チカ拡大SP

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【第47回】『浦沢直樹の漫勉neo「羽海野チカ」拡大スペシャル』(Eテレ・2026年6月27日13時55分~)再放送

美術展やクリエイターの個展を訪れると、作品と同じくらいつい見入ってしまうのが、制作風景を映したメイキング映像だ。真っ白なキャンバスに筆が入り、試行錯誤を重ねて作品が完成へと近づいていく。その創作の軌跡を追っていると、作家の思考や感性に触れたような気持ちになり、完成作とはまた違った感動がこみ上げてくる。

NHK『浦沢直樹の漫勉neo』は、そんな創作の現場を克明に見せてくれる実にありがたい番組だ。漫画家の手元を特殊なカメラで長時間記録し、その一切を包み隠さず映し出す。完成した作品だけを見ていては決して知ることのできない創作の息づかいがそこにある。

そして、この番組を唯一無二のものにしているのが、聞き手を務める浦沢直樹の存在だ。同業者だからこそ、線の一本、コマ割りの一つひとつに目を留め、「なぜ、そこから描くのか」と創作の核心に迫る問いを投げ掛ける。さらに、「自分の描き方は……」と自身の創作についても惜しみなく披露。互いの技法や発想をぶつけ合うやり取りは漫画家同士の真剣勝負ともいえる創作対話であり、その現場に立ち会えることが、この番組最大の醍醐味といえるだろう。こういってはなんだが、浦沢直樹が漫画家にしておくのはもったいないほど喋りが達者で、創作者としての鋭い視点と、相手の魅力を引き出す話術を兼ね備え、番組の面白さを何倍にも膨らませている。

今回、登場したのは、『ハチミツとクローバー』『3月のライオン』の羽海野チカ。B4の用紙にコマ割りを施し、そこにネーム(漫画の設計図)を書き込む。それをコピーして切り貼りを繰り返し、不要な台詞を削ぎ落としていく。実にアナログな手法だが、羽海野によれば、「自信のある台詞は文字が濃く、迷っているものは自然と薄くなる。その作業を通して頭の中が整理されていく」ということだ。登場人物の感情に寄り添いながら言葉を紡ぎ、一本一本の線に想いを込める。その一連の作業は、漫画を描くというより、人の心を少しずつ作品へ移し替えていくように見えた。だからこそ、羽海野作品は読む人の心を優しく揺さぶるのだろう。

何よりも胸を打たれたのは、「作品を届けて喜んでもらうまでが仕事」という言葉。締め切りまでに原稿を仕上げることがゴールではない。その先にいる読者の笑顔までを含めて、自分の仕事なのだという覚悟だ。その言葉を聞いたあとでは、ネームの一文字一文字に時間を惜しまない理由も、何度も筆を止めて考え込む理由も、すべて腑に落ちた。

今回、羽海野の顔出しはなく、羽海野が描いたクマちゃん(自身のイメージキャラクター「ウミノクマ」)で顔を隠されていたが、そのクマちゃんの表情が羽海野の言葉に合わせて変わるところもよかった。少しでも感情を伝えたいという作り手の思いがそこから伝わってきたから。

この番組は、昨年11月に放送された羽海野チカ回に未公開シーンを加えた拡大版だったが、実に見応えのあるものになっていた。ネームづくりからペン入れ、彩色に至るまで、創作の営みをこれほど克明に映し出した番組は稀だろう。漫画家を志す人はもちろん、あらゆる創作者にとって、多くの示唆を与えてくれるはず。さらに、漫画ファンだけでなく、これまで漫画に縁のなかった人にも、その奥深い世界と表現の豊かさを存分に伝えてくれた。まさに永久保存版。美術館でしか味わえないと思っていた創作の感動を、お茶の間へ届けてくれた『漫勉neo』は、テレビだからこそ生み出せた至福のメイキングドキュメンタリーだ。こんな贅沢な時間を届けてくれた制作者たちに、心から「ありがとう」と言いたい。

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プロフィール

桧山珠美

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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