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給与明細を覗くつもりが、ブータンを支えた日本人に出会った|『世界の給与明細』

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【第43回】『世界の給与明細~日本と比べてどうなの?~』(テレビ東京・2026年5月31日放送)

お金にまつわる話は、下世話だがやっぱり面白い。

プロ野球選手の年俸に、IT社長の年収、タレントのギャラ。家賃や小遣いに至るまで、他人の財布事情にはなぜか耳を傾けてしまう。

最近も、ある芸人が「家賃25万円なのに風呂が狭すぎる」と、自宅の浴槽の写真を見せて訴えていた。そこに映っていたのは、足を伸ばして浸かるのも難しそうな正方形の浴槽だった。このクラスの芸人でも25万円の部屋に住めるのか、と驚いたり、一方で、25万円も払ってこんな小さな浴槽か、と妙な優越感を抱いたり……。

他人の収入や暮らしぶりに興味を持つのは、単なる野次馬根性だけではなく、羨望や安心感に加えて、自分の現在地を確かめたいという欲求もあるのかもしれない。

そんな人間の本能を巧みに刺激するのが、テレビ東京の『世界の給与明細~日本と比べてどうなの?~』だ。

番組は世界各国の様々な職種の人たちに「あなたの給料はいくらですか?」と取材。その給与明細を手掛かりに、その国の物価や暮らしぶり、ひいては仕事観に至るまでを紐解いていく。ともすれば、お堅い経済番組になるところを、MCに藤本美貴を起用し、バラエティ風味の味付けにしているところがミソ。

なんでも、バラエティ番組を担当する「制作局」と、経済ニュースを担当する「報道局」がタッグを組んで制作しているそうで、なるほど、そういうことかと合点。相変わらず、テレ東は面白い企画を考えるものだ。

2度の特番を経て、今年の4月からレギュラー番組としてスタートした。

5月31日放送の舞台は、“世界一幸せな国”ブータンと、“21世紀最初の独立国家”東ティモール。ここでは、ブータンを中心に書きたい。長年、王政支配が続いていたブータンは、1974年まで鎖国政策が行われ、1999年にようやくテレビ放送とインターネットが開始されたというのには驚いた。さらに、ブータン文化保護のために、今も独自の民族衣装で生活、職場や学校での着用が義務付けられているとか。そんなブータンの歴史や文化について紹介。

さらには、ブータンの通貨はニュルタムで1ニュルタムは1.7円。世帯平均年収は約70万円であること。水500mlが約17円、お米5㎏が約600円といった物価情報を紹介しながら、現地の人々の暮らしぶりにも迫っていく。

また、個人のお宅にお邪魔し、収入や食事の話などを聞くことも……。

と、そこまでは、今までと同じ番組だったのだが、後半、急に話が変わり、1960年代に農業指導者としてブータンへ渡ったひとりの日本人の足跡を紹介する人物ドキュメンタリーの様相に。

その名は西岡京治。農業技術者としてブータンに渡り、痩せた土地と厳しい自然条件に向き合いながら、農業技術の普及と発展に尽力した人物だ。その功績は今なお高く評価され、「ブータン農業の父」として語り継がれている。現地では「ダショー・ニシオカ」の名で親しまれている。「ダショー」とは、国に大きな功績を残した者だけに与えられる称号で、「最高に優れた人」という意味を持つ。ブータンの人々が寄せる敬愛の深さがうかがえる呼び名だ。1992年、西岡はブータンで急逝。同国は外国人として異例の国葬で彼を弔った。

突然、再現ドラマを交えた西岡京治の人物ドキュメンタリーが始まり、最初は少し戸惑った。いつもの流れから、あまりにも唐突に方向転換したからだ。だが、見進めるうちにそんな違和感は薄れ、気がつけば引き込まれていた。

そういえば、その昔、関口宏の『知ってるつもり?!』(日本テレビ)という番組があり、毎週、食い入るように見ていたことを思い出した。自分の知らない人物や歴史との出会いをもたらしてくれる人物ドキュメンタリーには、人を惹きつける力がある。

「給与明細」を入り口に世界を知り、思いがけずひとりの偉大なる日本人の生き方に出会う。経済番組なのか、バラエティなのか、それともドキュメンタリーなのか。そんなジャンル分けがどうでもよくなるほど、学びと感動に満ちた1時間だった。こういう発見があるからテレビは面白い。

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プロフィール

桧山珠美

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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