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“答えを教えない授業”をテレビ局がつくる│熊本朝日放送の挑戦

「ふるさと魅力発信CM」制作を通じた教育連携の現場から

熊本朝日放送 執行役員・地域プロモーション局局長 細谷英宣

CM制作授業の一コマ

「テレビ局のスキルを教育に生かせないか?」そんな若手社員の発想から始まった、熊本朝日放送と自治体・学校との教育連携。子どもたちが自ら地域CMを制作する授業を通して、主体性や表現力を育む取り組みが広がっています。テレビ局だからこそできる教育支援の現場を熊本朝日放送の細谷英宣さんがレポートします。

3つの自治体でKABの社員が「先生」として授業に参加

CM制作授業の一コマ

「いま流行りの歌をBGMにしても大丈夫ですか?」

「自分たちでオリジナルのキャラを作りますが、登場させてもいいですか?」

授業の中で、飛び交う生徒からの様々な質問。先生役として授業をしているのはKAB熊本朝日放送(以下KAB)の社員です。KABの社員が行っている授業は、総合的な学習の時間を利用しての「ふるさとの魅力発信CMの制作」。自分たちが暮らす市や町の魅力を30秒のCMにまとめるもので、CMのテーマ決めや、動画の撮影、編集、ナレーション、テロップ付けまで全て子どもたちが行い、完成したCMはKABのニュース情報番組「touch(タッチ)」(月曜~金曜18:15から放送)で放送する他、市町村のHPや学校のHPなどで公開し、わが町の魅力を発信していきます。

きっかけは、若手メンバーの発想

KABが自治体と教育に関する連携協定を結び、先生役として授業に参加するようになったのは、社内の若手プロジェクトチームからの発案でした。当初は、KABが持つ資料映像(アーカイブ)を学校の授業に役立てていただきたいとの思いから自治体へ映像提供のお声がけをスタートさせました。しかし、学校からは、「普及が進んでいるタブレットの活用を、もう1歩進化させられないか」「情報過多な中、正しい情報の選び方を学ばせることは出来ないか」など現場ならではのリアルな要望が寄せられたのです。そこで、KABが抱いている「テレビ局ならではスキルを教育現場で生かしていただくことは出来ないか?」との思いを掛け合わせ、たどり着いた結論の1つが、「番組制作で培ったノウハウの数々を授業で生かしてもらう」ことでした。2022年に高森町とICT教育に関する連携協定を結んだのをきっかけに、2023年に美里町、2025年に水俣市とそれぞれ連協協定を結び、KABの社員が先生として授業に参加しています。

高森町との取り組みは、学校の要望に応じた課題に対してKAB社員が授業の中で様々なアドバイスを行うというもの。アナウンス指導、国語の授業でのアドバイス、こども議会のテーマ決めや発表の際のアドバイスなど多岐に渡り、その内容は毎年異なります

今回、イベント事業部門で助成いただいた「CM制作」は、美里町と水俣市で取り組んでいます。1人1台支給されているタブレットの活用と総合的な学習の時間との連携に重きを置いたものです。タブレットの中のソフトを使うと、撮影・編集・ナレーション全てが出来ます。また、クラウドを使っての資料共有などは日頃の授業で行っているため、映像素材の共有などその延長線上として取り組むことが出来ます。ICT教育に力を入れている熊本県だからこそ取り組める授業です

1人1台のタブレットを活用

“答えを教えない授業”が広げる子どもたちの可能性

第1回の授業は、KABのスタジオ見学でした。テレビ局を身近に感じてもらいたいとの思いとともに、テレビ局の仕事を見てもらう事で自分たちがこれから取り組む「CM制作」へのイメージをより具体的に持ってもらいたいという狙いがあります。スタジオのカメラに触ってもらう事はもちろん、ニュース直前のアナウンサーのリハーサルを見てもらいました。私たちにとっては毎日繰り返される日常ですが、子供たちにとって貴重な体験となっているようで、授業の一環である以上にテレビ局の魅力を知ってもらう良い機会になっていると感じています。

KABのスタジオ見学
本物の放送機材に触れる貴重な体験

第2回の授業からいよいよCM制作です。CMのテーマ(題材)決め、取材、絵コンテの作成、撮影場所の下見・撮影、映像の編集、ナレーションなどなど、一連の作業を全て子どもたち自身が行いました。各授業の前にポイントとなる事を伝え、子どもたちからの質問や発表に私たちがアドバイスをするのが授業の基本です。


その際も、子どもたちの主体性を大切にするために、「答え」を教えるのではなく「選択肢」の1つを伝えるように意識しています。極端な表現ですが、伝える事実に間違いがなければどのような表現を選ぶかは生徒の自由です。その自由の中で生まれる悩みや迷いを解決することで、主体性を身に付けて欲しいと考えています。教科書のように明確な答えがない「CM制作」だからこそ出来る授業です。


生徒には「アナウンサー」「カメラマン」「ディレクター」の中から好きな役割を決めてもらうため、授業の中で全員にそれぞれの体験をしてもらいました。ちなみに、一番人気が高いのは「カメラマン」で、日頃からスマホなどで撮影する事が身近にある影響なのかなと感じています。私が指導する「アナウンサー」の人気は、残念ながらいま一つです(笑)

教育連携を通じて得た「テレビ局が持つ可能性」

KABの社員が参加するのは1学期の後半と2学期の10日間・20限ほどです。進捗状況に応じて学校の先生のみでの授業もお願いしていますので、総合的な学習の時間で、年間30時間近くを「CM制作」の授業に充てていただいていると思います。当然、班ごとに進捗状況は異なりますが、「テーマ発表」「CMコンテ発表」「途中経過発表」など、要所要所で発表の場を設ける事によって、クラス全体の進捗を揃えるように心がけています。一緒に授業を進める先生にとっては教科書の授業と違い、進捗状況を把握しにくい点があるため、CMが完成に向かう中のどの位置に生徒がいるのを確認できる機会にもなっています。

学習成果発表会

これまでの授業を通して一番感じた事は、私たちが考えている以上に子どもたちの発想は豊かで、様々な可能性を秘めているという点です。私たちが授業で教えるのは「CM制作」の基礎部分です。お寿司に例えるとしゃりを渡すだけで、そこに何を乗せるかは自由です。基本的な握り寿司に仕上げる生徒がいれば、巻物にする生徒、時にはちらし寿司に変化させる生徒など、様々なアイディアでCMを制作します。

2023年に美里町で授業が始まり、去年は水俣市での授業が始まりましたので、美里町と水俣市の中学校3校合わせて28作品が完成しました。同じテーマでも表現方法が全く違うなど、毎年完成する作品を見ながらその発想の豊さに毎年驚かされています。

「CM制作」の授業は今年で4年目になります。単年の取り組みではなく継続しての取り組みとなっていることで、教育現場でテレビ局のスキルがお役に立てていると感じています。また、テレビ局が持つスキルにはまだまだ可能性があるということも実感しています。

この授業は、市や町にとっても「子どもたちが魅力に感じているのはどんな場所か」などを知ることが出来る良い機会になっているそうです。さらに、他自治体の教育研究会の場で「CM制作」の取り組みを紹介したり、熊本県のICTコンテストで表彰されるなど、自治体の教育の活性化のお役にも立てているようです。

この「CM制作」の授業に限らず、テレビ局ならではの教育連携のコンテンツはまだまだあります。これからも様々な手法で、子どもたちの成長の一助になれればと考えています。

📺2025年の授業で制作したCMは、こちらでご覧いただけます
KABforEducation

細谷英宣(ほそやひでのり)
熊本朝日放送 執行役員・地域プロモーション局局長
1967年、東京生まれ。大学では教育学科で学び、中学・高校の国語科免許を取得した。
KABには1990年に入社。アナウンサーとしてニュースや高校野球などのスポーツ実況を担当したほか、制作ディレクターとして1999年の「くまもと未来国体」の開催を機に誕生した「住民ディレクター」と連携しての番組制作にも携わる。
その後、編成(広報担当)、事業(イベント担当)、プロフットセンター長(編成・業務・事業)を経て、2024年に新設された「地域プロモーション局」の局長として、教育連携や自治体連携などに取り組んでいる。

2025年度助成 イベント事業(前期)
「中学校における「ふるさとの魅力発信CM」の制作」
自治体教育連携プロジェクト
代表 細谷英宣(熊本朝日放送地域プロモーション局局長)

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