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なぜ私たちは「推し」とオーディション番組に夢中になるのか?【辻 泉】
アイドル・オーディション番組が映す現代社会(連載第9回)

なぜ人々は「推し」とオーディション番組にこれほど夢中になるのか。その答えを解くカギは、個人化した競争社会が生んだ「立身出世”趣味”」にある。文化社会学者である筆者が、全国600人の若者調査をもとに、現代のオーディション文化の深層を読み解く。
「推し活」の時代を考える
「推し」や「推し活」という言葉が人口に膾炙して久しい。遡ること5年前、2021年にはユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされ、『消費者白書』でも若者に特徴的な消費行動として取り上げられた。また、世界デビューを目指すK-POPなどのオーディション番組も依然として高い人気を誇る。なぜ人々はこれほどまでに「推し」に熱中するのか。
結論を先取りすれば、それはこの現象が、個人化の進んだ現代の競争社会において、自己責任でのサバイバルが、若者たちに強いられていることの「写し鏡」だからではないだろうか。ここでは、2024年に日本全国600名の若者(15~29歳)を対象に実施した調査結果を交えながら、その実態をひもといていきたい。
かつてのスターは「成功物語」、アイドルは「成長物語」だった
その前に、少しだけ過去の「スター」や「アイドル」の時代を振り返りたい。
筆者は以前の論考で、戦後日本のポピュラー文化を、メディアや芸能人のありようにあわせて、大きく三つの時代に分けたことがある(辻泉「ポピュラー文化の危機―ジャニーズ・ファンは“遊べているのか”」宮台真司・鈴木弘輝編『21世紀の現実-社会学の挑戦』所収、ミネルヴァ書房、2004年)。
すなわち第一期とは、おおむね高度経済成長期を中心とした初期のマスメディア(映画・ラジオ・雑誌など)と「スター」の時代にあたる。当時を代表する「スター」である美空ひばりは、類まれな歌唱力という才能から「憧れ」の対象でありつつ、それと同時に出自が魚屋であるという点から、大衆労働者階級に親近感をも持たれていた。すなわち、当時の「スター」とは、社会上昇を目指す人々が、「成功物語」の夢を投影する存在であったといえる。
そして、第二期とは1970年代以降にあたり、いわばカラーテレビの普及と軌を一にして登場した「アイドル」の時代といえる。『アイドル・オーディション研究』でも繰り返し触れられていたように、日本社会におけるアイドルは、1971年放送開始のオーディション番組『スター誕生!』をその嚆矢としていたわけだが、かつてのスターが圧倒的なスキルを誇っていたのと比べると、その頃のアイドルは、相対的に歌唱力などのスキルに乏しい存在とみなされていた。しかし、だからこそ身近な存在として感じられ、ファンはあえてその未成熟なアイドルたちが「成長」する姿を見守ることを楽しんでいたのである。いわばスターが手の届かない「空に輝く星」なら、アイドルは親近感に特化した「疑似恋愛の相手」や「クラスメート」のような存在であったといえるだろう。
そして1990年代以降、インターネットや携帯電話などの新しいメディアの普及とともに第三期へと突入し、グループアイドルが隆盛を誇り、今日の多様化する「推し」の時代へと至るのである。なお、ここで「推し」という言葉の起源についても触れておこう。諸説あるのだが、一般的には、女性アイドルグループの男性ファンたちから広まってきたと考えられており、具体的には、2000年代はじめごろに活躍したモーニング娘。などにおいて、もっとも応援しているメンバーを、「推しメン」などと呼んだのが、その始まりと考えられている。
データから見る、現代の「推し活」の実態
では、今日の若者たちは一体「誰」を「どのよう」に推しているのだろうか。筆者が2024年に実施した調査から実態を見ていこう。
詳細は『アイドル・オーディション研究』の終章をご参照いただきたいが、この調査は、2024年8~9月にオンラインアンケート調査として実施され、日本全国の15~29歳の男女個人で、何らかの「推し(愛好する対象)」がいる人、600名を対象としたものである(ただし、ジェンダーによって実態の大きな差異が想定されたため、基本的に男女同数となるような割り付けを行った)。調査会社保有のサンプルのうち、この条件にあてはまる対象者の出現率は50.3%で、他の類似の調査などを見ても、多くの若者に「推し」がいることがうかがえた。
まず、「推し」のジャンルを複数回答で尋ねたところ、「(日中韓いずれかの)アイドル」が53.5%と過半数を超えていて、やはり「推し」の中心がアイドルであることがうかがえた。しかしそれだけでなく、「アニメ・漫画・ゲームなどの女性キャラクター」(26.0%)、「(同様に)男性キャラクター」(23.8%)、「YouTuber」(19.3%)、「スポーツ選手」(15.2%)、「お笑い芸人」(14.3%)、「声優」(13.7%)、「VTuber」(11.2%)などと、非常にジャンルが幅広いのも特徴的であった。また、アイドルを推している割合は、男性(40.5%)よりも女性(66.8%)の方が多く、逆に男性においては、「YouTuber」や「スポーツ選手」、「お笑い芸人」などといった、特有のスキルが問われる存在を推す傾向が目立っていた。
また、具体的な「推し活」の内容については、「グッズを買うこと」(39.3%)、「ライブ・コンサートに行くこと(いわゆる遠征をのぞく)」(32.3%)、「CD・DVD・ブルーレイを買うこと」(29.9%)などが上位を占めた一方で、「同じ推しの友達を作ること」はわずか7.3%にとどまった。「推し活」は、イメージほどには友達と共にするというよりは、むしろ個人化した振る舞いであることがうかがえた。また、「推しのファンとは、トラブル回避のために積極的につながりたくはない」とする、いわゆる「同担拒否」のような「隠れファン」の傾向を持つ人も約半数(47.3%)にのぼった。
現代の「推し」は恋人でも友達でもない
次に、若者たちは「推し」をどのような存在として捉えているのだろうか。
先に述べたように、以前までのアイドルは「疑似恋愛の相手」や「兄弟姉妹のような身近な存在」として位置づけられてきた。しかし今回の調査では、「恋愛対象である」(20.3%)、「弟や妹、息子や娘のようなかわいい存在」(20.5%)、「兄や姉のような存在」(20.8%)といった項目は2割程度にとどまり、「友達のような存在」(27.8%)もそれらに次ぐ少なさであった。
表.「推し」はどのような存在か(「あてはまる」「まああてはまる」の割合の合計、%)

その代わりに多かったのは、「憧れたり、尊敬する存在」(63.2%)、「歌やパフォーマンスを楽しんでいる」(59.7%)という回答であった。これだけを見ると、類まれなスキルの高さに憧れや尊敬を抱かれる、かつての「スター」のような存在なのかとも思ってしまう。しかし、特徴的なのは、それと同時に「推しと他のメンバーや周りの人との関係性を見守っている」(56.7%)、「成長する様子を見守っている」(51.7%)といった項目もまた、高く支持されていたことだろう。
すなわち、今日の推しとは、遠くに存在し憧れる「スター」とも、未成熟さとその成長だけを楽しむこれまでの「アイドル」とも異なっているのだろう。それは、ソーシャルメディアなどを通じて、個人化したファンの一人一人が「見守り・応援」しながら、未成熟な段階からの「成長物語」を楽しみつつ、それと同時に、やがて「成功物語」へ至る継続的な努力に「憧れ・尊敬」をも抱くような対象といえる。よって、あえて言うなれば、「推し」とは「個人化したスター」のようなもの、あるいは「成功物語」への「成長物語」を個人化して応援する対象なのだといえるだろう。
「推し活」の正体は「立身出世”趣味”」にある
そして、こうしたプロセスの象徴的な代表例こそが、オーディション番組に他ならない。ファンである若者たちにとって、それは自らがサバイバルしなければならない個人化した競争社会の「写し鏡」のような存在であるからこそ、「推し活」にいそしむのだと考えられよう。
社会学者の見田宗介が論じたように、かつての「立身出世主義」という言葉は、よい学校やよい会社に進むことが画一的に求められ、スターの「成功物語」に画一的な夢を見ていた時代のものであった。これと対比するならば、終身雇用制も大きく揺らいだ今日の個人化した競争社会においては、画一的な夢はもはや存在しがたく、それゆえに、サバイバルを強いられた個々人が、自らの「写し鏡」として「推し」を見出し、その努力に憧れと尊敬を抱いて応援する文化を楽しんでいるのだと考えられよう。この傾向は若者に限らず、個人化と競争が進む現代社会を生きる人々全体に共通する感覚でもある。
こうした現象を、私は「立身出世“趣味”」と呼んできた。いうなれば新自由主義的な自己責任の社会を生き抜く一つの術として、「主義」ではなく消費行動などを楽しむ「趣味」として、他者の立身出世のプロセスを見守っているのが「推し活」なのではないだろうか。
グローバル化するオーディション文化と今後の展望
そして、こうした「推し」文化やオーディション番組は、もはや日本社会に限定されたものではなく、グローバルな広がりを見せている。K-POPのオーディション番組でデビューしたグループが世界の音楽市場で活躍し、各国で同様の番組が人気を博しているという点もまた、『アイドル・オーディション研究』で触れてきたとおりである。
「推し活」は単なる流行ではなく、現代の社会状況を色濃く反映した文化である。本書が端緒となる「オーディション・スタディーズ」が、今後ますます継続的かつ本格的に展開されていくことが待たれるといえよう。
(注)回答者全体の傾向とともに男女別の傾向を示した。また男女別の結果については統計的な検定を行い、有意な差が見られるものについては不等号とともに有意水準をアスタリスクで示し、全体の傾向は多いものから順に並べ替えている。
プロフィール

辻 泉(つじ いずみ)
中央大学文学部社会情報学専攻教授。専門は文化社会学、メディア論。ファン文化の研究をライフワークとしながら、若者文化やメディア利用行動の実態に関する調査研究を続けている。著書に『鉄道少年たちの時代―想像力の社会史』(勁草書房)、共編著に『メディア社会論』(有斐閣)、『リフレクシブ・ライブズ― 青少年研究会調査にみる「曲がり角」の時代の若者たち』(勁草書房)、『つながりの「曲がり角」-データで読むモバイル・コミュニケーションの変遷』(新曜社)などがある。

本書は、2020年度に放送文化基金が助成した研究「アイドルオーディション番組の総合的研究」の成果をまとめたもの。
『スター誕生!』『ASAYAN』などの歴史的な番組から海外の事例までを体系的に整理し、「オーディションを通して社会を考える」という新しい切り口で論じた初の“オーディション・スタディーズ”。
アイドル文化やメディア研究に関心のある方におすすめの一冊です。
- 編著者:太田省一 / 塚田修一 / 辻泉
- 発行所:青弓社
- 発行日:2025年9月2日
【編集部より】本連載の論考パートは今回で完結です。最終回となる第10回では、本連載のコーディネーター・太田省一さんをはじめとする4名による座談会をお届けします。6月中の公開を予定しております。どうぞお楽しみに。
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