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記憶への不法侵入か、新たな物語の始まりか|タイプロから問うファンの愛と倫理【小埜功貴】
アイドル・オーディション番組が映す現代社会(連載第8回)

なぜ一部のファンは、タイプロを勝ち抜いた新メンバーを「アイドル」として認めないのか。その拒絶の構造を解くカギは、旧ジャニーズファン文化に固有の時間感覚と、ファンが集合的に紡いできた記憶にある。アイドル文化を研究しつつ、自身も旧ジャニーズファン文化に親しんできた筆者が、その内側から、ファンの愛と倫理のかたちを問いなおす。
挑み続けるtimeleszの歩幅と、縮まらないファンとの距離感
2011年に5人グループ“Sexy Zone”が旧ジャニーズにおける歴代最年少CDデビューを果たし、マリウス葉・中島健人の卒業を見送った後の2024年、グループに残った佐藤勝利・菊池風磨・松島聡はグループ名を “timelesz”へと改める。
オーディションを通じて新メンバーを募集するという、旧ジャニーズの歴史からすれば前代未聞な企画で世間を賑わせた「timelesz project」(通称、タイプロ)。Netflixでの配信が幕を閉じてから1年あまり。2025年2月15日(土)配信の最終回で、新メンバーとしてSTARTO ENTERTAINMENTからは寺西拓人・原嘉孝、一般公募からは橋本将生・猪俣周杜・篠塚大輝が選ばれた。
本稿ではタイプロのオーディションを経た新生timeleszに対するファンの批判的な反応について論じるが、本稿が注目する対象は一般公募からの3人であり、以下に紹介する「ファン」というのは旧ジャニーズ文化を背景にもつ既存ファン層の一部を指す。
8人グループとして再始動したtimeleszは、今日までにシングルとアルバムの全てでオリコン1位を獲得し、8都市24公演のアリーナツアーのみならず、年末年始には東京ドームと京セラドーム大阪で行われた公演も成功に収める。客観的な活動実績をみればまさに“飛ぶ鳥を落とす勢い”であることは間違いない。
しかし、多くのファンからのまなざしはそう温かいものであるとはいえない。特に、一般公募からメンバーとなった橋本将生・猪俣周杜・篠塚大輝を「パンピ」(「一般ピープル」の略。一般人のこと)と呼んで、アイドルとしてみなさない声もSNSなどで多く散見される。
宝箱へ大切に納めたSexy Zoneを卒業して、新たな5人を加えて走り始めたtimelesz。独自の路線を開拓しながらも、STARTO ENTERTAINMENTのアイドルグループとして、「今までに見たことのなかった景色をファンに届ける」という良き伝統を継承していくが、グループとファンの間に大きな隔たりがあることは否めない。
ではその隔たりの要因とは何だろうか?
「ジュニア」から「デビュー組」へ、ファンの記憶が紡ぐ物語
そもそもファンたちは画面に映る特定の人物をレッキとした「アイドル」として認めるには、どのようなプロセスがあるのか。とりわけ、現在のSTARTO ENTERTAINMENTに注目しつつ、時間と記憶によって紡がれる物語の観点から回答すると以下のような図式が出来上がる。

この図式は、フッサールの内的時間意識論を応用した筆者独自の時間図式である。ひとは“今”を独立した点ではなく、過去とつなぎ合わせることによって線として捉え、未来を予感する——そうした時間意識の構造を、アイドルとファンの関係に重ねたものだ。
〈①初登場〉から始まる太い横線はそのアイドルがメディアに初登場してからデビューに至る時間軸を、同じく〈①初登場〉から斜め下に伸びる矢印の線はそのアイドルのファンの記憶の軌跡を示している。三角形の内側にも線が伸びているが、ファンによる“ジュニア期間の応援”というのは、その時点のみならず、〈①初登場〉を経た〈②ジュニア期間〉を応援することを指す。そして〈③CDデビュー〉を果たした際の“デビューの祝福”というのは、これまでの“ジュニア期間の記憶”を通じて祝福されることを示している。
今という瞬間ではなく、これまでの過去を通じて今をまなざす。とりわけ、旧ジャニーズ時代においてはジャニー喜多川によって選ばれ、推されることがそのアイドルやグループの発展において重要であった。この物語を紡ぐ脚本家としてジャニー喜多川が存在していたということはいうまでもない。ファンがまなざす過去のなかには、無名の少年たちのなかからジャニー喜多川によって選ばれた事実、先輩のバックダンサーを務めること、グループを組んでジュニアが総出演していたテレビ番組『ザ少年倶楽部』等に出演し、多くが所属する“ジャニーズJr.”のなかで活躍することなどが含まれている。
タイプロが踏み込んだ、ファンダムの聖域
さて、タイプロはどのようなアイドル物語を紡いできたのだろうか。
一般公募からの候補生たちは「ジュニア」ではない。視聴者やファンがそこで経験していたのも、「ジュニア」を長い時間をかけて応援するのとは質的に異なる感覚であった。ここでファンにとって問題なのは、通例のSTARTO ENTERTAINMENT所属のアイドルたちとは異なるプロセスを辿ったのにもかかわらず、CDデビューという本来研修生(ジュニア)にとってのゴールに到達したこと、そして“ジュニア期間の記憶”が存在していないということである。もちろん、タイプロオーディション期間中に切磋琢磨して努力する姿が多くの視聴者によって賞賛されていたのは確かだ。とはいえ、“ジュニア期間の記憶”を創らずして、ファンダムが聖域として紡いできたCDデビューというゴールに到達することが、STARTO(旧ジャニーズ)ファンとしての記憶領域へのある種の不法侵入として知覚されるのである。
「パンピ」というレッテルの正体
タイプロ配信中の2025年2月16日、STARTO ENTERTAINMENTは新たな3グループACEs、KEY TO LIT、B&ZAIの結成を発表し、旧ジャニーズ時代に結成し活動していたジュニアのグループであるHiHi Jetsや美 少年、7 MEN侍は事実上の解散となった。これまで応援してきたジュニアグループの解散に、ジュニアファンたちのほとんどが怒りや悲しみを抱いた。

こうしたジュニアをとりまく急速的な変化が起こるなかで、タイプロを経てデビューする一般組は通るべきプロセスを経ずにデビューを果たす。このことから、ファンたちは彼らを「いちパンピ」とラベリングすることによって、ジャニーズ時代から受け継がれてきた時間感覚、つまり物語を防衛しようとしてきた。
事務所側の体制変化だけでなく、8人グループとして活動を始動してからのメンバーによる言動や行動もまた「パンピ」という蔑称を強化させる要因として挙げられる。際立った出来事として挙げられるのが、一般公募から選抜された篠塚大輝による“問題発言”である。
彼が“マンスリーエンタメプレゼンター”として出演していた朝のニュース番組『めざましテレビ』(フジテレビ)の2025年11月18日放送回で、番組の終盤で一発ギャグを求められ「やってんなぁマジでめざまし」と呟いた直後、『大きな古時計』のメロディーに乗せて「今はもう動かない おじいさんにトドメ」と、殴りかかるようなポーズとともに歌う。これがファン内外において“不謹慎”だとSNS上で炎上し、後にtimeleszの連名で謝罪の文面が公式HP内にて知らされる。
篠塚のこの一発ギャグが炎上した要因は、そもそも彼をアイドルとして認めない声が多く当時の好感度が低かったことも無視することはできないが、このギャグをギャグとして披露するという価値観が男子中高生のなかでは成立するであろう「男子校ノリ」にみられてしまったことにあると、多くのファンからは認識されている。タイプロが配信されている頃は、多くの視聴者やファンから無垢で人間らしいと称賛されていた彼だが、この一件は純粋(無批判)に身につけてきた男らしさとしてキャンセルカルチャー的に切り取られ、拡散されることとなった。(注1)
旧ジャニーズのアイドルというのは往々にして“中性的な男性”としてみられることが多く、女性ファンからしてみれば安心して近づくことのできる男性像としてみなされる。その一方で、かつて“無垢”や“ジャイアントベビー”と称されてきた篠塚の言動や行動が、少年たちによる加害性を帯びた男らしさを示す「マンボックス」的なノリとして解釈されてしまう。一般から集められ、選抜されてきたタイプロはあくまで〈俗〉の空間であり、そこでは許されてきたことが、デビュー後のアイドルの世界という〈聖〉の世界では許されないという構図が明らかとなった一場面である。
過渡期に試されるファン倫理
ここまで、ジュニアからデビュー組へと成り上がっていくSTARTO ENTERTAINMENT(旧ジャニーズ)的な時間図式とは異なるタイプロ独自のプロセスから、一般からの新メンバーを正真正銘のデビュー組アイドルとしてみなさない、一部のファンが共有する認識の構造を明らかにしてきた。
しかし、当然ながら、ファンにとって受け入れ難いからといって誹謗中傷しても良いという理由にはならない。ジュニアの再編をはじめとするジャニーズ文化からSTARTO文化への移行における過渡期を迎える今だからこそ、ファンとしての倫理観を振り返る機会が訪れている。
筆者はこれまでに、今日のアイドルファン文化や推し文化において注目されるべきは“ファン心理”というよりも“ファン倫理”であると主張してきた。こと旧ジャニーズにおいてはジャニー喜多川による性加害問題が告発されてから、それまでジャニー喜多川によって演出されてきたジャニーズ的な当たり前が見直されてきた。ファンもまた、自分たちが愛してきた文化の土台に何があったかを問い直すことを迫られている。この変化がファンにとっては受け入れ難い事態であったとしても、即時的に湧く怒りに任せて批判するのではなく、アイドルおよび事務所側の意思を汲み、こちらの想いと擦り合わせることでその変化を受容する折衝的な姿勢が求められていると筆者は考えている。
それでも、timeleszを愛するということ
タイプロによる一般公募からのメンバー加入は、まさにそうした姿勢が問われる場面だったのはいうまでもない。“こうあってほしい”という希望と反した提示であったとしても、“誰にも予想できなかった新たな側面”として丁寧に受容しようとする態度が、双方にとって健全なアイドル文化を形成させていくにちがいない。
ショート動画の流行や、サブスクの普及で聴きたい曲や観たい動画へアクセスすることで、即時的な満足を得られるようになった今日は、“こうあってほしい”欲をすぐに満たすことができる。
ここで、エーリッヒ・フロム『愛するということ』の言葉を借りれば、愛とは「私のためにではなく、その人自身のために、その人なりのやり方で、成長していってほしいと願う」“技術”である。推しのアイドルやグループに対してファンが抱く愛をそのように捉えるならば、それまでの“当たり前”にはなかったとしても、その意図やメッセージを見出し、受け入れようと試みる態度が求められるのではないか。
タイプロ、そして今日のtimeleszをみていて、ファンとして抱く愛のあり方と、ファンとしてあるべき倫理観とは何かという問いが改めて浮かび上がる。
衝突があってもいい。重要なのは、その問いに向き合うプロセスを経ることで、アイドルとファンの間で紡がれる新たな物語へと踏み出していくということだ。
(注1)このほかにも芸人・鼻矢印永井の一発ギャグの流用や、マネジメント側による新人教育の不足など、複数の要因が挙げられている。
プロフィール

小埜功貴(おのこうき)
名古屋短期大学 現代教養学科 助教。日本女子大学・東京科学大学など、非常勤講師。専門は社会学、男性学・男性性研究。「ひとが夢中になることによる解放とはなにか?」の問いをもとに、ファン文化論、性解放運動(メンズリブ)史、スピリチュアルグループについての探究を行っている。主な著作に「男性ジャニーズファンによる「非男性性」の承認実践について」(『コモンズ』2023年,第2号)など。

本書は、2020年度に放送文化基金が助成した研究「アイドルオーディション番組の総合的研究」の成果をまとめたもの。
『スター誕生!』『ASAYAN』などの歴史的な番組から海外の事例までを体系的に整理し、「オーディションを通して社会を考える」という新しい切り口で論じた初の“オーディション・スタディーズ”。
アイドル文化やメディア研究に関心のある方におすすめの一冊です。
- 編著者:太田省一 / 塚田修一 / 辻泉
- 発行所:青弓社
- 発行日:2025年9月2日
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