助成
関西民放NHK連携プロジェクト、1年間の記録
「避難をあきらめない」ためにできることは Part1
NHK大阪放送局 記者 藤島新也

南海トラフ巨大地震への備えを前に、「避難をあきらめている」住民がいる。関西民放6社とNHKが局の垣根を超えて立ち上げた「関西民放NHK連携プロジェクト」は、自治体との意見交換、和歌山県・串本町での避難訓練参加、ワークショップ、シンポジウムと、1年間にわたって現場に関わり続けてきた。避難をあきらめないために、メディアに何ができるのか。NHK大阪放送局記者・藤島新也さんが報告する。
次の災害に備えて~局を越えた連携プロジェクト
関西民放NHK連携プロジェクトは、関西民放6局(朝日放送テレビ、関西テレビ、毎日放送、サンテレビ、テレビ大阪、読売テレビ)とNHKが、局の垣根を超えて連携しようと、2024年2月にスタートしました。
31年前、阪神・淡路大震災の現場で取材していた先輩方の経験を聞いて理解を深めたり、番組やリポートを共有したりして、震災の教訓や記憶を引き継ごうとしています。さらに、近畿地方でも大きな被害が懸念される南海トラフ巨大地震の際に、一人でも多くの命を救う災害報道を目指すこともテーマの1つです。

例えば、プロジェクトでは、阪神・淡路大震災の取材で先輩方が直面した実際の出来事を題材に
・焼け跡で手を合わせている女性に取材依頼で声をかけるか
・被災した親子に『食料を分けて欲しい』と頼まれた時に渡すか
といった問いにYesかNoで答えたあと、判断の理由や考えを議論する「クロスロード研修」を実施しています。正解のない問いに向き合って、自分たちの役割を見つめ直すことが目的です。災害報道を経験していない若い世代にとっては、自分自身が災害現場に立った時を想像する機会に。経験を重ねた記者にとっても、自らの行動を振り返ることにつながっています。
防災担当者との意見交換 「電話取材」に要望相次ぐ
メディア同士だけではなく、自治体との連携も模索しています。
去年(2025年)2月には、各局の記者やアナウンサーで和歌山県串本町を訪問し、周辺の9市町村の防災担当者と、災害報道に関して意見交換を行いました。和歌山県南部では、南海トラフ巨大地震が発生すると、数分で津波が押し寄せ、その高さは10mを超えると想定されています。ただ、大阪からは片道3時間程かかり、ふだん取材する機会は多くありません。

意見交換会で最も話題になったのが、災害直後のメディアからの「電話取材」でした。自治体の担当者たちは、住民への避難の呼びかけ、自分自身の避難、他の職員の安否確認などの対応に追われます。その状況下でメディアから「被害の情報はありますか?どんな状況ですか?」と取材があっても回答が難しく、避難の呼びかけに支障が出かねないとのことでした。「報道されることで支援につながるので報道自体は重要」と取材の重要性には理解を示しつつ、「同じ質問が各社からあり何度も回答するのは大変で、メディア間で共有できないのか」といった意見も相次ぎました。
災害が起きると「まず被災自治体に電話!」と条件反射しがちですが、チャットツールの活用や、メディア間の情報共有など、まだできることはあるかもしれない…と気づかせて頂きました。同時に、自治体もメディアも、災害直後に互いがどんな状況に置かれるのか、十分に理解していない点を変えられないかと思いました。
町の避難訓練に参加~気づいた住民の本音
メディアと行政、さらには住民が置かれる状況を、互いに理解したい。
そこで和歌山県串本町が実施する年1回の町の避難訓練に参加することにしました。事前にも何度か町を訪問し、区長さんたちに地域の特徴や課題を教えて頂くなどの準備をした上で、去年11月の訓練に臨みました。

当日は、およそ40人の記者やアナウンサーが串本町に入り、4地区に分かれて訓練を体験しながら、取材しました。私は町の中心部・大水崎区を担当し、車で避難する場合の課題を住民・専門家と検証しました。実際に車で避難してみると、踏切が閉まって通れない場合や、電柱やブロック塀が倒壊している場合には、走行が難しくなる可能性があることが分かりました。

一方で、高齢化が進む町では「車でないと避難できない」という声も少なくありません。課題を踏まえて、どうすれば車避難ができるのか、考えていくことが大事だとわかりました。
他にも参加した記者からは、
・津波避難ビルは5階まで階段で上がる必要がある
・未舗装の険しい山道(参加者は愕然としていた)を登る過酷な避難を強いられる
といった、高齢者にとっては厳しい現実を知ったという声がありました。
一番衝撃的だったのは、こうした課題のために、住民の中には「避難をあきらめている(あきらめかけている)人たち」が大勢いるということでした。
ある地区の女性は「近所の人には『逃げるのは無理なので(津波が引いたあとに見つけてもらえるように)家の柱に体を括り付けて欲しい』と頼まれている」と話していました。私が話を聞いた足の不自由な女性も「靴を履いているだけで数分経ってしまう。2階に上がってダメならしかたがない。逃げたいのはやまやまだが逃げられない」と話しながら、用意しているというライフジャケットを見せてくれました。
ふだんメディアは「津波は最短3分で到達、最大18メートル」などと“最悪想定”を伝えます。想定外を生まないという東日本大震災の教訓から生まれたものなので大事です。ただ、それだけでは、現場の人たちの「避難しよう」という心を折ってしまいかねないのではないか。諦めの気持ちを生んでしまっているのではないか、と感じるようになりました。
一緒に考える「あきらめない避難」
この訓練をきっかけに、翌月(12月)の串本町でのワークショップ、今年2月の人と防災未来センターでのシンポジウムを開催し、「避難をあきらめないために何ができるのか」を、メディア、行政、住民、専門家が一緒になって議論してきました。

この中で印象に残ったのは、串本町の高校生たちが、ワークショップをきっかけに「地域のために何かしたい」と、地域の住民を対象にアンケートを始めたことでした。「避難するつもりがあるか」「どんな準備をしているか」を聞く内容で、その結果も注目ですが、それ以上に、地域の人たちが高校生と話すうちに避難を前向きにとらえ始めていることが強く心に響きました。「若い子らが頑張ってくれるなら私も」と言って、避難場所まで散歩したと語る女性もいました。連携プロジェクトで、現場に入り、色々な人たちのハブとなって、一緒に考えたことが、こうした素敵な動きのきっかけのひとつになれたのかもしれないと感じました。
一人でも多くの命を救うために
現場を取材し、課題を指摘することは、今も変わらない重要なメディアの役割なのは間違いありません。ただ、ともすると「課題を指摘した。あとの解決策を考えるのは、行政と住民だ」ということになっていないだろうかとも思います。

災害報道の目的が「1人でも多くの命を救うこと」であるなら、メディアだから、行政だから、住民だから、というそれぞれの役割を超えて、皆で、総力戦で取り組む必要があると感じますし、できることはまだあるのではないかと感じた1年でした。とても責任が重いことですが、今こそ、そうしたメディアの本気度が問われていると感じています。
関西民放NHK連携プロジェクトは、今年度も継続していきます。

藤島新也(ふじしましんや)
NHK大阪放送局コンテンツセンター第2部 記者
2009年入局。災害担当記者。盛岡局、報道局社会部(災害班)等を経て現所属。緊急報道のほか、NHKスペシャル「南海トラフ巨大地震」「MEGA CRISIS」などの番組を制作。NHKの「災害記録マップ」「全国火山ハザードマップ」「#NHK防災これだけは」などのコンテンツの企画・制作も担当。X(@shinyahoya)でも災害情報を発信している。
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和歌山県・串本町の津波避難訓練で、記者が見た現実―避難をあきらめない」ためにできることは Part2
2025年度助成 イベント事業(前期)
「南海トラフ巨大地震を想定した関西7局と自治体の共同防災訓練」
関西民放NHK連携プロジェクト
事務局 京田光広(NHKエンタープライズ近畿)
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