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放送文化基金賞

受賞のことば 第46回【番組部門】ラジオ番組部門

最優秀賞

TOKYO FM特別番組
ねじれちまった悲しみに

(エフエム東京)

 文芸評論家・加藤典洋は、父親が特高でもあったこともあり、戦後日本の政治体制のありように複雑な眼差しがあった。だからこそ自身の文芸評論を通じて、憲法9条と「付き合い」、戦後日本の「ねじれ」を問うてきた。
 番組では、加藤典洋と向き合った人々の言葉を通して、加藤の思想・姿勢を見つめ直した。敗戦から74年目の日本。参院選に向かう東京の夏と、そこにある加藤の指摘し続けてきた「ねじれ」の一片に触れることを試み、憲法改正を敢えて争点としない現政権の「ねじれ」を炙り出す目論見で取材を続けた。
 早稲田大学時代、加藤の教え子であるゼミ生(そのうちの一人が、TOKYO FMの社員でこの番組の発案者である)は、「物事は白か黒かに分けられないことが多い、その中間のグレーゾーンに大切なことがある」と教えられたという。「ねじれ」こそ、じつはそのグレーゾーンの中にある大切な価値観の源なのだと。
 村上春樹の小説にこんな一節がある。
「君には分からないだろうが、ねじれというものがあって、それでようやくこの世界に三次元的な奥行きが出てくるんだ。何もかも真っ直ぐであってほしかったら、三角定規で出来た世界に住んでいればよろしい」(村上春樹「海辺のカフカ」より)
エフエム東京 延江 浩

優秀賞

文化放送報道スペシャル
戦争はあった

(文化放送)

 「戦争特番とはこういうものだという先入観から抜け出て、今まで聴いたことのない番組を作ってみよう」という実験的精神で制作した番組でしたので、このような素晴らしい賞を頂けるとは思ってはおりませんでした。小松左京氏の作品に出会えたことをきっかけに、この作品と向き合いながら75年前の戦争を探すという旅に出ました。旅といっても東京近郊をめぐる町歩きです。そして左京氏が訴えたかったことを探す旅でもありました。高層ビルの陰や自宅の近所に隠れる「戦争」を探す旅はとても刺激的なもので、今回の受賞で改めて「我々の方向性は間違っていなかった」という思いにも至ることができました。本当に有難うございました。
文化放送 鈴木敏夫

奨励賞

マリエのように
(CBCラジオ)

 「命」を主題として扱うには、作り手の自分はあまりにも未熟であり、当初はその重さを感じながら取材に臨みました。  しかし、弱者の立場から奮起し、猛然と普及活動に尽力し、ついには行政をも動かす麻莉絵さんが見せてくれたものは、自分が自分であるために走り抜く、爽快な力強さでした。
 主治医から贈られた「残された時間を笑って生きる」という言葉を心に刻み、麻莉絵さんは「かけがえのない一瞬」を燃やしています。
 完成してみれば、私が重さを感じていた「命」は、軽やかにしなやかに瑞々しい輝きを放っていました。ただ、感謝です。
テラ・プロジェクト 森 理恵子