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レポート

設立50周年記念シンポジウム「ジャーナリズム・放送の未来を考える~AIとメディア~」開催記録

シンポジウム報告書

2023年11月11日(土)、放送文化基金設立50周年、上智大学メディア・ジャーナリズム研究所創立10周年記念シンポジウム「ジャーナリズム・放送の未来を考える〜AIとメディア〜」が、上智大学四谷キャンパス及びオンラインで開催されました。会場には150人、Zoomウェビナーには90人、合計240人が参加しました。主催者挨拶の後、第1部の基調講演はアメリカからオンラインで行われ、第2部でその内容を受けて会場でパネルディスカッションが行われました。このシンポジウムの内容を記録した報告書を掲載します。

主催者挨拶

上智学院 理事長 サリ・アガスティン

本日は「ジャーナリズム・放送の未来を考える〜AIとメディア~」にご列席くださいましてありがとうございます。特に基調講演のAimee Rinehart 先生とパネリストの皆様、上智大学へようこそ。

本日のシンポジウム開催は、公益財団法人放送文化基金の設立50周年、上智大学メディア・ジャーナリズム研究所の創立10周年を記念して開催するものです。同時に、実は上智学院の創立110周年でもあります。1932 年に新聞学科が設立された上智大学は日本で最も歴史を持つジャーナリズム研究・教育の中心的な拠点として活動を続けてまいりました。

上智大学は 2013 年に100周年を迎えましたが、その際に第一興商をはじめとした多くの団体からご支援をいただき、上智大学メディアジャーナリズム研究所を設立し、更なる研究強化の体制作りを図りました。上智大学は日本を代表する通信会社である共同通信社と教育連携協定を結び、その関係強化に努めてまいりました。その延長線上で、共同通信社のスタッフと上智大学の教員とで、AIとジ ャーナリズムに関する共同研究を進めています。その研究には放送文化基金からも助成をいただき、本日もその結果の一部が報告されるとうかがっています。

このようなメディア研究、放送研究に継続的にご支援をいただいております放送文化基金が、このたび設立50周年を迎えられ、その記念のシンポジウムを共同で開催できることは大変喜ばしいことです。本日のシンポジウムを通じて放送文化基金と上智大学がますます良好な関係を築けることを祈念して、私からの挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。

放送文化基金 専務理事 梅岡 宏

公益財団法人放送文化基金が設立50周年。そして上智大学メディア・ジャーナリズム研究所が創立10周年を迎えました。それを記念するシンポジウムを今日ここに開催できますこと、まことに嬉しく思っています。

今年2023年、日本でテレビ放送がはじまって70年になります。放送の歴史は、その時代時代の新しい技術を取り入れながら、放送がその可能性を拡げてきた歴史でもあります。私がテレビの世界に入ったのは40年前でした。当時、ビデオカメラは大きく重くて、ロケはいつも大掛かりで労力を使いました。テレビに流れる映像は大部分がプロによるものでした。それが今や、誰もがスマートフォンで撮影し発信できる時代になっています。従来考えられなかったような驚きの映像がメディアの可能性を大きく広げています。取材の方法も変わりました。黒電話を握りしめて、なるべく多くの人に話を聞いて真実に近づいていくというのが取材の基本でした。

インターネットの登場で、取材のスタートはネットの検索にとって代わられました。玉石混交の情報、フェイク情報もあふれる中から真実を見いだす高いリテラシーが求められるようになりました。ビッグデータの登場もインパクトがありました。これまで簡単に到達できなかった知見をコンピューター解析で得られるようになりました。自分たちを高めながら新たな技術を飼いならしていく、そうした歴史であったと思います。

そして今、私たちの前に立ちはだかるのが AIの進化です。生成AI、ChatGPTに関する報道を目にすることが一気に増えました。AIは、ジャーナリズムの活動や放送コンテンツの作り方に大きな可能性を生み出すものです。ただ同時に、進化する生成AIには、ジャ ーナリズムや放送の規範を揺るがしかねない危うさも内包しています。メディアはAIとどう向き合うべきか、いま一番ホットな問いかけです。

私ども放送文化基金は、放送に関する技術開発や調査・研究に毎年、助成を行ってきました。この50年で助成金の総額は 127 億円にのぼります。今回のシンポジウムで発表される上智大学と共同通信社による「AIとジャーナリズム研究会」、その研究費の一部も放送文化基金が助成しています。そうした意味でも、本日のシンポジウムが実りあるものになること、多くの人にとってジャーナリズムの未来、放送の未来に向けてのヒントとなることを願っております。最後までお付き合いのほど、よろしくお願いします。

【第1部】 基調講演「AIとメディア その可能性と課題」

Aimee Rinehart AP通信 AI戦略プロダクトマネージャー
国枝 智樹 上智大学新聞学科准教授 / 上智大学メディア・ジャーナリズム研究所所員

【第2部】 パネルディスカッション「ジャーナリズム・放送の未来を考える〜AIとメディア〜」

井上 直樹 NHK メディア戦略本部 エキスパート
尾﨑 元 共同通信社「メディア戦略情報」 編集長
亀松 太郎 記者・編集者 / 元関西大学特任教授
国枝 智樹 上智大学新聞学科准教授 / 上智大学メディア・ジャーナリズム研究所所員

モデレーター
音 好宏 上智大学新聞学科教授 / 上智大学メディア・ジャーナリズム研究所所長

出演者プロフィール

Aimee Rinehart
AP通信社AI戦略のシニア・プロダクト・マネージャー
1996年にオンラインでの仕事を始め、デジタル・オリジネーターとして「ニューヨーク・タイムズ」に勤務。その後、ブリュッセルの「ウォール・ストリート・ジャーナル・ヨーロッパ」で編集者として勤務。
First Draftのニューヨーク支局の副局長として、2018年と2020年の米国選挙報道における誤報や偽情報の特定及び検証、報道活動において、ジャーナリストとニュースルームを支援。また、2018年には、ブラジル選挙を取り巻く誤報・偽情報を監視・分析するComprovaプロジェクトの運営に参加。その後、現職に。
また、ニュースルーム向けのAIとの提携及び活用ガイドブック(Partnership on AI’s Procurement and Use Guidebook for Newsrooms)の指導委員会のメンバーに。フロリダ大学に新たに設立された「メディアとテクノロジーの信頼性に関するコンソーシアム」(Consortium on Trust in Media and Technology)の方向を助言する評議員にも就任。2024年にはTow-Knight Fellow in AI studies のコホートとして、ニューヨーク市立大学のクレイグ・ニューマーク・ジャーナリズム大学院の「ニュースイノベーションとリーダーシップのエグゼクティブプログラム」(Executive Program in News Innovation and Leadership)を担当予定。


井上 直樹 氏(いのうえ・なおき)
NHK メディア戦略本部 エキスパート
1983年生まれ。銀行員を経て2008年熊本日日新聞社に入社。その後西日本新聞社、Google、日本経済新聞社で勤務し、2021年からNHKで働く。これまでに議会議事録の分析や天気予報原稿の自動作成といった報道でのデータや技術の活用に取り組み、西日本新聞「あなたの特命取材班」の立ち上げに参画。Googleではメディア連携を担当する。NHKではNHKスペシャル『緊迫ミャンマー ~市民たちのデジタル・レジスタンス~』の取材や、シビックテック業界との連携に関わる。


尾﨑 元 氏(おざき・はじめ)
共同通信「メディア戦略情報」編集長
1956年東京生まれ、立教大卒。1980年共同通信社入社。長野支局、京都支局、大阪支社社会部、本社外信部を経て1990年からテルアビブ支局長として湾岸戦争を取材。1996年以降、ニューヨーク支局記者、ジュネーブ支局長、ニューヨーク支局長として主に国連、国際機関などを取材。2021年より現職。


亀松 太郎 氏(かめまつ・たろう)
記者・編集者 / 元関西大学特任教授
1970年生まれ。大卒後、朝日新聞で記者を経験し、ウェブメディアの世界へ。J-CASTニュース副編集長、ニコニコニュース編集長(ドワンゴ)、弁護士ドットコムニュース編集長、DANRO編集長(朝日新聞)を歴任した。2019年4月〜23年3月、関西大学特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者 / 編集者として活動しつつ、複数のウェブメディアの編集に携わっている。


国枝 智樹 氏(くにえだ・ともき)
上智大学新聞学科准教授 / 上智大学メディア・ジャーナリズム研究所所員
1984年生まれ。上智大学大学院文学研究科新聞学専攻後期課程修了、博士(新聞学)。大正大学助教、上智大学助教を経て2019年度から現職。現在、内閣府政府広報アドバイザー、月刊『GALAC(ぎゃらく)』副編集長も務める。主な研究テーマは広報史。共編著に『Public Relations in Japan』(Routledge、2018)、監訳書に『アージェンティのコーポレート・コミュニケーション』(東急エージェンシー、2019)。


音 好宏 氏(おと・よしひろ)
上智大学新聞学科教授 / 上智大学メディア・ジャーナリズム研究所所長
1961年、札幌生まれ。日本民間放送連盟研究所、コロンビア大学客員研究員、上智大学文学部新聞学科助教授などを経て、2007年より現職。専門は、メディア論、情報社会論。著書に『放送メディアの現代的展開』、編著に『地域発ドキュメンタリーは社会を変える』など。衆議院総務調査室客員研究員、NPO法人放送批評懇談会理事長も務める。

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