放送文化基金賞

基金賞特集

寄稿

第52回

作家・脚本家 足立聡さん「幸せな上手くいっていない人生を歩んでいきます。」

ラジオ番組 優秀賞

前回、FMシアター 『手を振る仕事』が第48回放送文化基金賞ラジオ部門最優秀賞を受賞したときに、「上手くいっていない人生でした。」というタイトルで、自身のこれまでの歩みや、脚本家としての原点を語ってくれた足立聡さん。その寄稿は、「書き続けていれば、今回のように上手くいく一瞬があるかもしれない」という言葉で結ばれていた。
それから4年。足立さんが脚本を手掛けたFMシアター『大きな湖の小さな島で』(NHK大津放送局)が第52回放送文化基金賞ラジオ部門優秀賞を受賞した。あの言葉のとおりに書き続けた4年間は、どんな日々だったのか。

この度は、私が脚本を担当しましたFMシアター『大きな湖の小さな島で』が放送文化基金賞ラジオ部門の優秀賞をいただき、誠にありがとうございます。主演の毎田暖乃さん、出演者の皆さま、演出の平井さんをはじめスタッフの皆さま、そしてこの作品のモデルとなった沖島の皆さま、学習船「うみのこ」のスタッフの皆さま、本当におめでとうございます。

私は4年前、脚本を担当したFMシアター『手を振る仕事』で放送文化基金賞ラジオ部門の最優秀賞をいただき、今回と同じように寄稿文を書かせていただきました。その時「上手くいっていない人生の中で、また脚本を書いていきます。書き続けていれば、今回のように上手くいく一瞬があるかもしれない」と書き、文章を結びました。

あれから4年が経ちました。

どんな4年間だったかというと、まったく上手くいっていない4年間でした。

まさに上手くいっていない人生の中で、脚本を書いていました。

相変わらず全然売れていないし、生活も厳しい。朝起きて最初にすることは舌打ち。そんな毎日を送りながら、自分には才能がないと思う日々。入院して寝言が多いと同室のおじさんに怒られたこともありました。

ただ、この4年間が上手くいっていなかったからといって、幸せではなかったかというと、そうでもない気がしています。

今年、NHK高知局でラジオドラマを書いたのですが、収録が終わったあと、制作の方からメールをいただきました。

「素晴らしい脚本をありがとうございました」

私は、そのメールをずっと眺めていました。途中でコーヒーを淹れ、煙草を吸いながら、まだ眺めていました。たぶん10分くらい。

「素晴らしい脚本をありがとうございました」

世の中には、こんなにも嬉しい言葉があるんだな、と心から思いました。

つい最近も、お世話になっている演出家の方の作品に「キャラクターが愛おしかったです」という感想を送ったところ、こんな返信をいただきました。

「足立さんのつくるキャラクターも愛おしいと断言できますよ」

このメールも、10分くらい眺めていました。途中でコーヒーを淹れ、煙草を吸いながら。だって断言してもらったんだから。こんな嬉しいことはありません。

そのほかにも、嬉しい言葉や励ましの言葉をかけてくださる制作の方や脚本家の方が何人もいました。

売れている脚本家でも、売れていない脚本家でも、同じように脚本を書くときは一人です。それは、そこそこ孤独な作業です。それでも脚本家はみんな、面白い脚本を書きたい、仕事を依頼してくれた人たちの期待に応えたいという思いで書いているのだと思います。

ただ、最初から最後まで順調に書けることはなくて。書けなくて部屋をウロウロしてみたり、栄養ドリンクを飲んだり、とんでもなくつまらない脚本を書いているのではないかという恐怖に襲われたり。そんなことを繰り返しながら、なんとか一本を書き上げます。

だから、「素晴らしい脚本をありがとうございました」その言葉が、本当に嬉しいのです。その言葉で、もうちょっとだけ頑張ってみようかなと思えるのです。

そう考えると、決して上手くいっていない4年間ではありましたが、幸せな4年間だったのだと思います。そして、再びこのような賞をいただけて、上手くいく一瞬を味わえて、実は最高の4年間だったのではとさえ思っています。

今回受賞した『大きな湖の小さな島で』の主人公・理沙も学校になじめなくて沖島の小学校に転校するという、私と同じように上手くいっていない人生を送っていました。しかも、彼女はまだ小学5年生です。私のような大人ではないのです。そんな状況でも、彼女は一生懸命生きていきました。そして沖島の人たちと触れ合い、沖島の小学校で友と学び、「うみのこ」という船に乗って、自分の生きる光みたいなものを見つけました。彼女ももうちょっとだけ頑張ってみようと思えたのですね。

これから生きていく中で、理沙にまた上手くいっていない時が来るかもしれない。もしそんな時に彼女に会えるなら、私は自分の経験を話したい。「僕もね、毎日朝起きて舌打ちをするような生活を送っているよ。でも上手くいっていないけど幸せを感じる瞬間は結構あるよ」みたいなこと。変なおっさんに絡まれたと思うかもしれない。でも通報はしないでね。一応あなたを書いたのは私だから。そして一緒に沖島を思い出したいと思います。琵琶湖、ケイドロ、木造の小学校、うみのこ、私たちが経験したあの風景。きっと私たちなら、もうちょっと頑張れる。

改めまして、この度は、放送文化基金賞の関係者の皆さま、素晴らしい賞をありがとうございました。また、この作品に関わった皆さま、おめでとうございます。理沙役の毎田暖乃さん、演技賞を受賞されて本当に嬉しいです。感謝の気持ちしかありません。

これから私はまた、幸せな上手くいっていない人生を歩んでいきます。またどこかで皆さまとお会いできることを楽しみにしております。

プロフィール

足立 聡(あだち さとる)
作家・脚本家
京都府福知山市出身。近畿大学演劇科卒。在学中はMODE松本修氏に師事し、チェーホフ・カフカなどの舞台を経験した。好きな作家は別役実。

FMシアター『手を振る仕事』第48回放送文化基金賞ラジオ部門最優秀賞受賞、第49回創作ラジオドラマ大賞受賞。

主な作品にNHKFMシアター『遺体を捜す人たち』『ホットサンド』『水を運ぶ』『春を待たずに』など。

8月29日(土)NHKFM午後10時~午後10時50分よりFMシアター『大きな湖の小さな島で』(放送文化基金賞ラジオ部門優秀賞受賞)を再放送。

「FMシアター 大きな湖の小さな島で」(NHK大津放送局)あらすじ

舞台は、琵琶湖に浮かぶ沖島。日本で唯一の、人が暮らす湖上の島である。湖と山に囲まれた狭い場所に200人ほどが暮らしている。

小学5年生の理沙は、親や先生とは話すことができるのに、クラスの子と話すことができない。「あの、えと・・・」言いたいことはあるのに、どうしても言葉が出てこない。学校を休むことが増えた理沙は、母の勧めで島の学校に転校することになった。児童数8人の小さな小学校。そこで理沙は、担任のごっちゃん先生、妹や弟のように慕ってくれる仲間と出会い、自分を変えようと小さな一歩を踏み出していく。

【 作 】足立聡
【 スタッフ 】制作統括:岸田恵子/ 技術:小林飛鳥/ 音響効果:吉田直矢/ 演出:平井雅仁
【 出演者 】毎田暖乃/ 田中美央/ 竹澤咲子/ 宮嶋麻衣/ 今津心之介/ 澤井梨丘/ 三井光子/ うえだひろし/ 航矢/ 高森あかり/ 上坊彩乃/ 駒板なみ/ 牛丸裕司

関連記事を見る

新着記事を見る

私たちについて

詳しく見る

財団情報

詳しく見る