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バラエティ番組が描く「日系移民」に涙|『ニッポン行きたい人応援団!』
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【第37回】『YOUは何しに日本へ?&ニッポン行きたい人応援団!合体3時間半SP』(テレビ東京・2026年4月20日放送)

月曜のテレビ東京は『YOUは何しに日本へ?』と『世界!ニッポン行きたい人応援団』、ゴールデン帯に2本のインバウンド番組を放送している。これらの番組を見ると、世界の中の日本の立ち位置がわかり、自分たちではわからない日本の良さに気づかされることも多く、そんな発見が楽しい番組だ。
本来はそれぞれ独立した1時間の番組なのだが、このところなぜか「合体SP」と銘打った編成が目立つ。この日も3時間半の拡大版だった。とはいえ、“合体”といっても両番組が交差するわけではない。レギュラー同士が絡むでもなく、企画が融合するでもなく、内容自体はいつも通り。強いていうなら、次の番組に切り替わる際、CMを挟まずにそのまま番組が始まることくらい。SPというからにはもう少しスペシャル感が欲しいものだが…。
今回取り上げるのは、後半の『世界!ニッポン行きたい人応援団』。いつもは日本のアニメが好きだとか、味噌づくりを学びたいとか、日本に魅せられた外国人を応援する企画が多いが、この日の内容は少し趣が異なり、日系移民の里帰りと家族の再会を追う特別企画だった。
これまでにもパラグアイ日系3世の父との18年ぶりの再会や、ブラジル日系移民の母と息子との26年ぶりの再会を応援してきたが、今回の舞台はアルゼンチン。12歳で父と弟とともに移民した、日系人の高松ふみ子さんの「生き別れた兄姉を探すために64年ぶりに里帰りしたい」という願いに寄り添う。
「行けたら嬉しいです。日本人の誇りをもって生きてきましたから」とふみ子さん。
ふみ子さんの生まれ故郷は阿蘇山のふもと、熊本県大津町。昭和37年、新天地で農園を持つ夢を抱いた父に連れられ海を渡ったという。
「♪上を向いて歩こう~涙がこぼれないように」と歌い出すふみ子さん。当時、神戸からアルゼンチンまでは船で1か月半。ニッポンを発つ1年前から流行していた「上を向いて歩こう」は日本人の心の支えだったなどという思い出話を語る。
最初に入植したのはアルゼンチン最北東部。ガルアペーという日本人が開拓した地域で、当時は、「緑の地獄」と言われた過酷なジャングルだったとか。猛獣が潜む密林を開拓し、タバコを栽培する父を手伝ったという。電気も水道もなく生きるのにやっとの毎日。
日本人の移民の過酷な歴史は、ドキュメンタリーやドラマなどでさんざん伝えられてきたものだが、バラエティ番組でこんなふうに扱われることはそれほど多くはない。ふみ子さんのキャラクターもあって、笑顔で明るく語ってはいるものの、ふとこぼれる涙が、言葉にならない歳月の重みを物語っていた。
37年間通う青果店では、店主が「オハヨウゴザイマス」と日本語で声を掛ける。「ふみ子のおかげでちゃんと挨拶するお店になったわよ」と常連客が笑う。日本人として恥ずかしくないよう振舞うその姿が、いつしか異国の地に、日本人の挨拶文化を根づかせていた。
翻って、いまの日本人はどうか。ふみ子さんの姿勢は、私たちが失ったものを浮かび上がらせ、どこか居心地の悪い問いを投げ掛けてくるようだ。
64年ぶりに故郷・熊本に足を踏み入れたふみ子さん。その場に跪いて、額を地面に当てて、帰郷の喜びをかみしめていた。
ここから、ふみ子さんの生き別れになった兄と姉を探す旅が始まるのだが、行く先々で出会う人たちの優しさに触れ、ほっとした。日本もまだまだ捨てたものではない、と。
この先はぜひ番組で見届けてほしい。そこには、どんなドラマも及ばない、真実の感動と涙があったのは確かだ。
そして、もうひとつ。最後に触れておきたいのが、増田明美のナレーションだ。そっと寄り添うようなその語り口が心に深く沁み入ってくるようで、とても心地いい。
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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。
“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。
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