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『水曜日のダウンタウン』サイレントクロちゃんが生んだ予想外のドラマ

▶▶▶ 『日日是てれび日和』──気になる番組を読み解く週一コラム 桧山珠美 

【第17回】『水曜日のダウンタウン』(TBSテレビ・2025年11月12日放送)

毀誉褒貶かまびすしい『水曜日のダウンタウン』。テレビを見ないと言われている若い世代もこの番組は別腹らしく、SNSでの反応も速い。神回と問題回が紙一重、企画によって賞賛と酷評が分かれるのもこの番組ならでは。テレビのギリギリを攻め続け、テレビ表現の限界を模索し続ける挑戦的なバラエティ番組といえるだろう。

11月12日放送回の企画は「サイレントクロちゃん」。クロちゃんというのはお笑いトリオ・安田大サーカス(最近、トリオで活動しているのを見たことがないが…)のメンバー、クロちゃんのこと。スキンヘッドでコワモテな見た目からは想像つかないような甲高い声で「クロちゃんです」というのが持ちネタだった。この『水曜日のダウンタウン』で何度もドッキリ企画などにかけられ、その“嫌われキャラ”ぶりが露呈するも、そこから何周もして、いつしか“愛すべき嫌われキャラ”としてその存在を示している。

「サイレントクロちゃん」は、そのクロちゃんが喉のポリープ手術を受け、術後1週間、「発声禁止」となる間、声を出せないクロちゃんに10個のドッキリを仕掛けるというものだ。ニセ警官による職務質問や、タクシー運転手の質問に答えられずにキレられたり、ロケバスで置き去りにされたり……と、理不尽な状況が次々とクロちゃんに訪れる。

そんなこんなで、さまざまなドッキリに、クロちゃんがどう対処するかが見どころになるわけだが、正直、ここまでは想定内というか、声を出せない人に無理やり声を出させようとするのはあまり趣味がよろしくないなあと……。これは見方によっては、炎上案件か!? とさえ思っていたほどだった。が、このあとのドッキリで、評価が逆転することに……。

それは、イベントの楽屋で、盲目の漫談家・濱田祐太郎と“相部屋”になるというものだ。これまでは、自分の想いを、ノートに書いて文字で伝えることでコミュニケーションをとっていたわけだが、盲目の濱田にはその手法が使えない!

声が出せないクロちゃんと、目が見えない濱田。おまけにクロちゃんは、濱田のことを知らないうえに、白杖にも気づかず、“盲目であること”まではわかっていないようだ。

「すみません、濱田祐太郎です。おはようございます」と声を掛ける濱田。これにクロちゃんは答えたくても答えられない。しばらくして、スマホで濱田の名前を検索し、盲目のピン芸人だということは理解したものの、とはいえ、相手が盲目だとわかっても声を出せないことには変わらず、コミュニケーションがなかなか取れず、気まずい2人。
「あの~、ちょっと僕、目見えてないんで。先輩なのか後輩なのかもわかってなくて。ちょっと……どなたですか?」と話し掛ける濱田。
「クロちゃんです」と、机を叩いて、試みるが通じるわけもなく断念。すると、濱田が「あんまり、喋りたくない感じですか?」と再度質問をする。机を叩いて、違う違うと報せようとするクロちゃん。右手は「違う」のジェスチャーをするが濱田にわかるはずもない。クロちゃんがバタバタしているのを感じたのか、「一応リアクションはしてくれてはる? 動いてる音は聞こえるんですけど、ぜんぜん……。ジェスチャーしてくれてるんですよね? 今ね、多分」と濱田。それを受けて、机を「ドンドンドン」と叩くクロちゃん。今度は濱田が「ドンドンドン」とクロちゃんの真似をして机を叩き、「これは正解ってことですね」と確認する。「これが正解。じゃあ不正解はどうします?」という濱田に、「ドン」と1回だけ机を叩くクロちゃん。濱田も「ドン」と机を叩き、「あ、わかりました。不正解はこれ」と。出会ってから15分。机の叩き方でイエスノーを判断するコミュニケーション方法を獲得した2人に、見ていたこちらもゾワリ。

その後、「僕の先輩ですか?後輩ですか?」「吉本の方ですか?」と濱田の質問に机を叩いて答えるクロちゃん。自分が誰なのか分かってもらうために、スマホで自分のYouTube動画を再生して聴かせた。「えっ、じゃあ、クロちゃんさん?」と気づく濱田。クロちゃんは「手術で声が出せないこと」を濱田に伝えようと、鼻息を使って試みる。

おもむろに濱田に近づき、その手をとって、手のひらに文字を書くクロちゃん。「し」「ゆ」「じ」「つ」。「手術!」新たなコミュニケーション方法を手に入れた。
お次は手のひらから背中に。「お互いがんばろう」とクロちゃん。声が出ないのは1週間と濱田に伝えると、「1週間声が出ないんですか!? いやいや“お互い”(頑張ろうって)言いましたけど、俺、一生なんですよ」と濱田。最後に、「気を付けてだしん」(クロちゃん特有の語尾)と背中に書かれた言葉を声に出し、「何、言わせてるねん!」とツッコミを入れた。

相手が伝えたいことを懸命に受け取ろうとするふたりの姿は感動もの。まさにコミュニケーションの原点を見た思いだ。最後にようやく声を出せるようになるも、吸うと声が低くなるクリプトンガスの影響で、商売道具の高音が出なくなるというドッキリまで含めて、『水曜日のダウンタウン』らしさ満載の回だった。


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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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