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“聞く力”が光る『有働Times』 吉永小百合の素顔に迫る
▶▶▶ 『日日是てれび日和』──気になる番組を読み解く週一コラム 桧山珠美
【第13回】『有働Times』(テレビ朝日・2025年10月19日放送)

10月13日に閉幕した大阪・関西万博。その閉会式で司会を務めたフリーアナウンサーの有働由美子。
NHK時代には『紅白歌合戦』の司会を通算7度担当するなど、数々の大舞台を経験しているだけあって、その卓越した司会ぶり、安定感抜群の進行で閉会式を成功に導いた。
聞き取りやすい発声、美しい言葉遣いは、まさにアナウンサーの鑑。長年の経験で培われた確かな技術とどんな状況でも対応できる落ち着きはさすが。
そんな有働の冠番組が『有働Times』。昨年10月にスタートし、2年目に入った。
日曜の夜、本格的に寝る前にスマホをいじりながら、“見るともなく見る”。まるで睡眠導入剤のような番組だ(個人の感想です)。
ニュース番組のカテゴリーだが、特に気に入っているのは有働がゲストに深掘りインタビューする企画「レジェンド&スター」。初回が黒柳徹子で、その後も、王貞治、松井秀喜、川渕三郎、水谷豊、萩本欽一と、まさにレジェンドと呼ぶに相応しい人たちが登場し、有働を聞き手に貴重な話を披露する。
今回の第7弾ゲストは国民的女優・吉永小百合だった。
今年80歳を迎えた吉永、60年以上に渡る輝かしい俳優生活のなかでの苦悩や葛藤を、言葉を選びながら丁寧に語っていた。14歳で映画デビュー、15歳で専属契約を結び、瞬く間にスターへの階段を駆け上っていったが、世間の評価とは裏腹に、自身は悩み続け、死を意識したこともあったという。
28歳の時に、両親の反対を振りきって、15歳年上のテレビディレクターと結婚。ご本人いわく「家出結婚」だったという。その夫も昨年9月、亡くなった。
高倉健や樹木希林との共演エピソードも興味深いが、健康と美容について有働が訊ねると、「週1回ジムのトレーニングに行き、行けない時は自分でスクワットを60回やっている」と。
そして、驚いたのが、「80歳でピアスの穴を開けた」という話だ。
124本目となる出演映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』で、女性初のエベレスト登頂に成功した登山家・田部井淳子をモデルとした女性を演じた。以前、ラジオで田部井と会った際に、揺れるピアスが素敵で印象的だったことから、役づくりのために「開けるっきゃない」と、初めてピアスの穴を開けたという。「ちょっと女っぽくなったかなあ」と微笑んでいたが、80歳にして新しいことにチャレンジできるしなやかさは学びたいものだ。
「希林さんも、もう亡くなってしまったし、大事に想ってた方がここのところ他界される方が多いんですけど、自分で生きる道っていうのは、しっかりと自分で地に足をつけて、前に歩いて行って、そこで果てるのがいいのかしらなんて思いますけど」と自身の死についても言及。吉永小百合の知らなかった一面を見たような気がする。
それはインタビュアとしての有働の力によるものだろう。これからもあまりテレビでは見られないような人に斬り込んで欲しい。
ところで、この番組、最後に、“弾き語り天気”という謎のコーナーがある。
『羽鳥慎一モーニングショー』のお天気ストレッチでもお馴染み、気象予報士・片岡信和が、ピアノを弾きながら明日の天気を解説するというなんともカオスなもの。
モーニングショーで体操していた片岡さんが、まさかピアノを弾いているとは──そのギャップもまた衝撃だ。
しかも、ご本人はいたって真面目だから余計に可笑しい。気象予報士がピアノを弾いたっていいじゃないか。有働も終盤になると、どこか楽しそうだ。片岡のエンターテナーぶりはクセになる。カオスすぎてお天気の情報が入ってこないのが難といえば難だが……。世界のどこを探してもこんな天気予報はないだろう。これは一見の価値あり!?
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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。
“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。