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終了目前 ― 『激レアさん』が映し出す多様性

▶▶▶ 『日日是てれび日和』──気になる番組を読み解く週一コラム 桧山珠美 

【第8回】『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日・9月15日23時15分~)

お気に入りの番組が終わってしまうのは一抹の寂しさがある。特に3ヶ月で終了するのが前提の連続ドラマとは違い、バラエティの場合、長く付き合ってきたぶん、寂しさもひとしおだ。

2017年10月のスタートからおよそ8年間に渡って放送されてきた『激レアさん』が、この秋、終了する。

番組は、「とんでもなく珍しい体験をした“激レアさん”を研究室に連れてきて、その実体験を聞く」もので、タイトルに違わず、毎回、想像の斜め上を行く人が登場し、世の中にはこんな人がいるのかと興味深く見ていた。

オードリー若林が研究員、弘中綾香アナが研究助手という役割で、弘中アナの進行がわかりやすく的確。視聴者に興味を持たせる語りっぷりがいい。

これまでにどんな激レアさんが登場したかといえば、“「インド」と『巨人の星』が好きすぎて執念で『インド版・巨人の星(スーラジ ザ・ライジングスター)』を作り、ヒットさせちゃった人”や、“突然やってきたビートルズ御一行をただの外国人だと思って無関心に接客したら、気に入られて爆買いしてもらった古美術店の人たち(麻布の朝日美術店)”などなど。普通に生活していては、決して出会えないであろう人たちだ。

9月15日放送回は、「とっておきの激レアさん大放出SP」と題し、通常は30分で1人の激レアさんを深掘りするところ、2人の激レアさんを紹介。さながら在庫一掃セールのような雰囲気が漂う。

1人目の「超大企業の偉い人なのに髪型がハチャメチャな人」も、悟空のようなハチャメチャな髪型は想像以上で面白かったのだが、個人的には2人目の「25年間テレビ&ネットを見ていない人」に俄然興味を持った。

最後に見たお笑い番組は『ボキャブラ天国』というから驚く。この情報化社会で、激レアさんの情報源は、「盗み聞き」。職場の人たちの会話から流行を知るのだとか。井上尚弥を知っているか? と訊かれ、「格闘家ですか。格闘家、最後、止まっているのは薬師寺さん」だそう。電車の乗り換えや仕事の調べものにはガラケーを使っているが、それ以外はまったく使わず。新型コロナウイルスも、人づてに聞いたというから凄い。

阪神ファンだというものの、知っているのはオマリーや久慈や新庄がいた頃で、今期の強い阪神はもちろん知らず、「えっ? 和田が監督だったの??」と驚いていた。

野球つながりでは、さすがに大谷翔平のことは知っていたが、それはコンビニの新聞の見出しで名前をよく見るからで、野球をしている映像は見たことがなく、動いている映像はファミリーマートの店内で流れるおにぎりを食べているところだけというのだ。

大谷を知らなくても、世間の話題についていけなくてもなんら動じない激レアさん。そのメンタルの強さが羨ましい。『激レアさん』を見ると世の中にはいろんな人がいるというのがわかる。みんな違ってみんないい。多様性の時代に相応しい番組と思うだけに、終了は惜しまれてならない。

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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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