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予測不能な生放送の魅力炸裂! 『平野レミの早わざレシピ! 2025夏』(NHK総合・7月21日放送)

▶▶▶ 『日日是てれび日和』──気になる番組を読み解く週一コラム 【第1回】 桧山珠美

テレビは生放送に限る。この番組を見るたびに思う。第1回が放送されたのは2015年12月のこと。初回のテーマは「おせち家族に福きたる!」だった。1時間30分で17品もの料理を作るという。しかも、それを作るのが料理研究家の平野レミ。NHKもなんと無謀なことをするもんだと、興味本位で見たのだった。

レミさんといえば、これまでも数々の伝説を作ってきたお方だ。以前、『徹子の部屋』に出演した際にご本人が話していたが、初めて『きょうの料理』に出演した際、トマトを手でぐしゃぐしゃっと潰したら、「あの下品なやり方はなんだ」とNHKに抗議の電話が殺到したとか。デビュー当時からすでにそんな人だったのか、と妙に納得したものだ。

今でも太ももでパスタをエイっと二つに割ったり、フライパンに入れた調味料をお椀の底でちょちょいと混ぜたり。「NHKだから上品にいきますよ~」と言いながら、ガラスのボウルでにんにくをぶっ潰す。既存の料理番組では決して見られない光景に、次は何をやらかしてくれるのかとワクワクする。

そういえば、レミさんの料理がネットで話題になったことがあった。2014年10月放送『あさイチ』での「まるごとブロッコリー事件」だ。ブロッコリーをまるごと調理し、平皿に盆栽のように立てて、上からタラコソースを掛けるという豪快な一品を完成させたが、ブロッコリーがすぐに倒れてしまい、あわや大惨事……に。このレシピはのちに、深津絵里とダイアン津田が夫婦役を演じたサントリー「オールフリー」のCMでも披露されたので見たことがある人も多いはず。

で、恐らくこの『あさイチ』を見たプロデューサーが、『早わざレシピ』の企画を思いついたのではないかと察する。おかげで、何が起こるかわからない予測不能、かつハプニング満載の料理番組が誕生したのではないか、と。

番組は祝祭日に年1~2回ほど不定期で放送されており、これまでに19回放送。今回はスタートから10年、20回目の記念すべき放送だった。

その記念すべき回、いきなりハプニングが……。初回からレギュラーを務めているハライチの澤部が番組に遅刻。代わりに登場したのは、「澤部」と書かれたボードを首からぶら下げたADだった。「なんか放送事故っぽくなって」と言いながら番組はそのまま進行し、ややしばらくしてホンモノの澤部も到着した。このチームはハプニング慣れしていて、澤部の遅刻くらいでは動じないのだろう。それどころか、そんなアクシデントも番組の魅力に変え、楽しませてくれる心意気が嬉しい。

それもこれも、すべてはレミさんのおかげ。既成概念にとらわれない自由な発想で生み出されるレシピの数々。料理を作る楽しさを教えてくれるだけでなく、生放送の醍醐味を存分に味わうことができる一級のエンターテインメント番組だ。できれば年1~2回などと言わず、もっと放送してほしい……が、スタッフの体力が持たないか!?

プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。


“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──寄稿、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。

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