HBF 公益財団法人 放送文化基金

文字サイズ:

HOME制作者フォーラム全国制作者フォーラム2023を開催しました

制作者フォーラム

全国制作者フォーラム2023を開催しました

  • 日時:2023年2月18日(土)
  • 会場:如水会館 2階「スターホール」
  • 主催:放送文化基金

 2022年度に全国5地区で開催した制作者フォーラムでのミニ番組コンテスト入賞者を招き、現在活躍している3人のテレビ番組制作者とコーディネーターの丹羽美之さん(東京大学教授)をゲストに迎え、全国から制作者や放送関係者約80名が集まり、熱いトーク、意見交換が行われました。

(以下敬称略)

<司会> 佐々木 夢夏 (ささき ゆめか) 
三重テレビ放送 アナウンサー

制作者フォーラム5地区のミニ番組優秀作品上映と意見交換

 各地区で行われたミニ番組コンテストで優秀作品に選ばれた15番組を上映し、すべての作品についてゲストに講評をもらい、会場の参加者を交えて意見交換を行いました。また、上映された番組の中から4名のゲストとコーディネーターに気に入った番組を選んでいただき、会の最後に発表、表彰しました。

ミニ番組優秀作品(上映順)


吉岡 朱里さん 笠井賞
 
柳瀬 晴貴さん 山﨑賞
 
泉 優紀子さん 佐野賞
 
助川 虎之介さん 丹羽賞
九州放送映像祭&制作者フォーラムinふくおか
ゆ~わくワイド&News 「墨魂(ぼっこん)は尽きることなく~ALSと闘った書道教師の2年間~」 牧野 夏佳(テレビ大分)
夕方Live ゲツキン! 「玉名中全力じゃんけん大会」~コロナの不満をふき飛ばせ!~ 徳本 光太朗(熊本放送)
タダイマ! カメラマンリポート 「耳で感じる冬 ~“音”風景~」 両角 竜太郎(RKB毎日放送)
北信越制作者フォーラムinにいがた
おはよう福井 「80年前からの手紙 戦死した父の思い」 小林 彩里(NHK福井放送局)
いっちゃんKNB 「51年間と最後の1日」 藤井 春来(北日本放送)
abnステーション 「100均不動産」 坂口 沙羅(長野朝日放送)
中四国制作者フォーラムinおかやま
ふるさと絶賛バラエティ いーよ!「村上村」 黒田 浩司(テレビ愛媛)
とく6徳島 「ひきこもり経験の若者 お遍路に挑む」 吉岡 朱里(NHK徳島放送局)
☆笠井賞
ひめポン!/ゆう6かがわ 『瀬戸内の秋の音「秋マトペ」文化の秋(紙すき+万年筆)』 中村 奈桜子(NHK松山放送局)、別所寅之助(NHK高松放送局)
愛知・岐阜・三重制作者フォーラムinなごや
キャッチ! アスリート全力応援 「プロ野球ドラフト会議“母への恩返し”その結末は…」 市村 哲大(中京テレビ放送)
チャント!「悪魔の病と闘うウーバー配達員」 柳瀬 晴貴(CBCテレビ)
☆山﨑賞
NEWS ONE 『14歳!! 左手の指なくても「二刀流」』 小島 範美(東海テレビ放送)
北日本制作者フォーラムinあきた
イチオシ!! 「葉月ちゃん 2年ぶりの通学 新たな挑戦」 鈴木 麻友(北海道テレビ放送)
今日ドキッ!「LGBTカップルの妊娠 小さな命のメッセージ」 泉 優紀子(北海道放送)
☆佐野賞
東北ココから「家族の“空白”を見つめて~高齢者施設 入居者と家族の周辺~」 助川 虎之介(NHK仙台放送局) ☆丹羽賞

(上映順)

トークセッション

「テレビ新時代 ~変わっていくこと、変わらないこと~」
丹羽美之さん
笠井知己さん
佐野亜裕美さん
山﨑裕侍さん

 ミニ番組の上映と意見交換の後、トークセッションが行われました。ゲストには、笠井知己さん(中京テレビ放送コンテンツ制作局制作G副部長)、佐野亜裕美さん(関西テレビドラマプロデューサー)、山﨑裕侍さん(北海道放送報道局報道部デスク)を迎え、コーディネーターとして丹羽美之さん(東京大学大学院教授)が進行役を務めました。
 事前に参加者から集められた質問にバラエティ、ドラマ、ドキュメンタリーの最前線で活躍する3人がそれぞれ回答しました。番組作りの裏側、現在の放送業界が抱える問題や今後のネット配信との融合等、さまざまな視点で語っていただきました。

新しい企画と日々のメモ

 最初に、新しい企画をどう生み出すのか問われた笠井さんは「私がプロデューサーを務める『オモウマい店』に深夜枠や土日の昼枠で何本も企画を通すディレクターがいます。その彼に『どうやって企画のアイデアを出しているの?』と聞いたことがあるんです。彼が言うには、日常の何気ないことでもよくメモを取るんですね。そのメモの中でかけ離れたものを組み合わせているそうです。たとえば、『人助け』と『野菜が美味しい』を組み合わせて何かできないか、という感じで」と明かしました。
 一方、佐野さんは「私はメモを取ったことで満足したくないので、むしろ取らないようにしています。海外ドラマを多く見ているので、一作品見たら『自分だったら、こういう企画にした』『日本に置き換えるなら…』と必ず考えるようにしている」と話しました。
 山﨑さんも「企画に関してメモは取りませんが、気づきと妄想を大切にしている。『赤ひげよ、さらば。』(第5回日本放送文化大賞)では、一人の医者が辞めるという小さな新聞記事を見つけたことから取材が始まった」と言い、「妄想というのは、『今日この場面でこの人の感情がこう動くんじゃないか…』と日々の取材の中でいろいろと想定していくことです」と語りました。

番組作りは、チーム作り

 さらに、取材には台本を固めて臨むのか問われた山﨑さんは「台本は作っていませんが、その日に起こりそうなことを想定し、カメラマンと認識をすり合わせることを大切にしています。その際に取材対象者と自分がどう向き合っているのかといったことまで伝えています。ただ、得てして想定とは別のことが起きるので、それを面白がれるか。そこにドキュメンタリーの醍醐味がある」と答えました。
 ドラマを制作する上で、自分が面白いものと世の中が求めるもの、どちらを意識しているか問われた佐野さんは「『世の中が面白いと思うものは何だろう?』とは考えたことがなくて。作家さんが描きたいものと、自分が面白いと思えるものが重なるところを探している」と話し、「映画やドラマををたくさん見ておくと、作家さんと同じものを見ていたときに作りたい映像の認識を共有しやすかった」と振り返りました。
 笠井さんは「“共通言語”で語れる仲間がいるかどうかはとても大事ですよね。『オモウマい店』では総合演出が2人いるという珍しい体制でもうまく回っているが、同じ感覚で映像を見られるからこそ」と応じました。普段の番組作りに関しては「ディレクターが撮ってきた何百時間という素材を総合演出が全部見るんですね。そうするとそのディレクターが気づいてなかったことが見つかるんです。だから誰かに素材を見てもらうのも大事です」とアドバイスも交えながら語りました。

放送の強みを活かして

 放送業界が抱える問題やネット配信について、佐野さんからは「配信のおかげでドラマに接することが増えたので、各局がドラマ制作に力を入れていますよね。ただ人件費や物価が上がっていることを考えると、枠を減らすことで制作予算を集中し、質を高めていく方に未来があるように思います」と回答しました。
 笠井さんは「放送業界でキャリアプランを描きにくくなっているのは感じます。それは配信会社でもどんどん映像を制作できるから、何も放送にこだわる必要性がないんですよね。でも成長スピードは番組制作チームの中で切磋琢磨した方が圧倒的だと思う。地上波で責任を持って放送していくことで制作技術を上げていける」と指摘しました。
 山﨑さんは「ネットでは自分に関心があるものしか見なくなる。テレビは勝手に流れてくるので関心がない問題にも気づかせてくれる装置。放送局が配信に力を入れることで儲けても、社会の成熟さは後退したという結果にならないようにしなくてはいけない」と今後の放送局のあり方に警鐘を鳴らしました。
 最後に、丹羽さんが「これまで放送局が培ってきた歴史や理念はエッセンスとして残しつつ、今のメディア環境にどう適応していくかを制作者は考えなければならない時代になりました。難しくはあるが、面白くて、チャレンジングな時代でもある。制作者のみなさんには今日の議論を放送文化、放送ジャーナリズムの発展につなげていってもらえたらと思います」と締めくくりました。


 

ゲスト・コーディネーター プロフィール

笠井 知己(かさい ともみ) 中京テレビ放送 コンテンツ制作局 制作G 副部長 

1978年生まれ 愛知県出身。制作会社を経て2005年に中京テレビ放送に入社。『フットンダ』『PS純金』などの演出を経て、2021年4月より『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』のプロデューサーを担当。


佐野 亜裕美(さの あゆみ) 関西テレビ ドラマプロデューサー

1982年静岡県富士市生まれ。テレビドラマプロデューサー。東京大学教養学部卒業後、2006年TBSに入社。『ウロボロス』『99.9 刑事専門弁護士』『カルテット』『この世界の片隅に』などを担当。2021年にカンテレへ移籍し『大豆田とわ子と三人の元夫』『17才の帝国』(NHK)『エルピス』をプロデュース。2018年エランドール賞プロデューサー賞、2022年大山勝美賞を受賞。


山﨑 裕侍(やまざき ゆうじ) 北海道放送 報道局報道部 デスク

1971年生まれ。北海道千歳市出身。日本大学卒業後、東京の制作会社入社。テレビ朝日「ニュースステーション」「報道ステーション」ディレクターとして犯罪被害者や死刑制度などを取材。2006年北海道放送に中途採用。警察・政治キャップや統括編集長などを経て現在は企画デスク。臓器移植や地域医療などドキュメンタリーを作り、民放連盟賞・ギャラクシー賞・芸術祭など受賞。直近は「ネアンデルタール人は核の夢を見るか」を制作。


丹羽 美之(にわ よしゆき) 東京大学大学院 教授

1974年生まれ。専門はメディア研究、ジャーナリズム研究、ポピュラー文化研究。主な著書に『日本のテレビ・ドキュメンタリー』、『NNNドキュメント・クロニクル:1970-2019』、『記録映画アーカイブ・シリーズ(全3巻)』(いずれも東京大学出版会)などがある。『GALAC』編集長、ギャラクシー賞テレビ部門委員長などを経て、現在は、放送文化基金賞審査委員、BPO放送人権委員会委員などを務める。