第46回
ラジオ部門
最優秀賞
受賞者
エフエム東京
作品名
TOKYO FM特別番組 ねじれちまった悲しみに
概要
2019年5月に亡くなった思想家・文芸評論家の加藤典洋は、『敗戦後論』『アメリカの影』などで、平和主義を唱えながらも世界で戦争を続ける米国に従属するという戦後日本の「ねじれ」を指摘し続けてきた。最後の著作となったのは『9条入門』。戦後日本の「ねじれ」の原点でもある日本国憲法第9条の誕生について書かれたこの本を持ち、作家小川哲が「加藤典洋」を巡る旅に出る。
時あたかも参議院選挙、さらには憲法改正の国民投票も現実化してきた2019年の夏。加藤典洋が指摘してきた「ねじれ」について、参院選の街頭演説、8月15日の靖国神社などの東京の街風景を歩きながら小川哲は考えた。
与党と野党のねじれ、政治と文学のねじれ、改憲と護憲のねじれ…小川哲が対話するのは、加藤典洋をリスペクトし、話題となった2019年東京大学入学式でも「ねじれ」という言葉を使った社会学者上野千鶴子、さらには日本文学研究者で、加藤と多くの仕事をしてきたカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授マイケル・エメリックである。番組のストーリーテラーをつとめるのは女優藤間爽子。加藤典洋が訴えてきた「ねじれ」に向き合う、一夏のドキュメンタリーです。
選考理由
『ねじれちまった悲しみに』は、加藤典洋氏の死と令和の始まりをきっかけとして、戦後のゆがみ、沖縄をめぐる矛盾、ナショナリズムの顕在化、経済格差など、今の日本はこれでよかったのだろうかというぼんやりとした疑問を問うもので、エンタテイメント手段としてのラジオでは取り上げられにくい深く複雑な問題について、正面から精緻に考える刺激を発信するものだった。
受賞の言葉
文芸評論家・加藤典洋は、父親が特高でもあったこともあり、戦後日本の政治体制のありように複雑な眼差しがあった。だからこそ自身の文芸評論を通じて、憲法9条と「付き合い」、戦後日本の「ねじれ」を問うてきた。
番組では、加藤典洋と向き合った人々の言葉を通して、加藤の思想・姿勢を見つめ直した。敗戦から74年目の日本。参院選に向かう東京の夏と、そこにある加藤の指摘し続けてきた「ねじれ」の一片に触れることを試み、憲法改正を敢えて争点としない現政権の「ねじれ」を炙り出す目論見で取材を続けた。
早稲田大学時代、加藤の教え子であるゼミ生(そのうちの一人が、TOKYO FMの社員でこの番組の発案者である)は、「物事は白か黒かに分けられないことが多い、その中間のグレーゾーンに大切なことがある」と教えられたという。「ねじれ」こそ、じつはそのグレーゾーンの中にある大切な価値観の源なのだと。
村上春樹の小説にこんな一節がある。
「君には分からないだろうが、ねじれというものがあって、それでようやくこの世界に三次元的な奥行きが出てくるんだ。何もかも真っ直ぐであってほしかったら、三角定規で出来た世界に住んでいればよろしい」(村上春樹「海辺のカフカ」より)
エフエム東京 延江 浩
スタッフ
プロデューサー 延江浩、増山麗央
演出 伏見竜也(イー・エー・ユー)
構成 西澤史郎(フリー)
演出補 伊藤慎太郎(森のラジオ)
出演 小川哲、マイケル・エメリック、上野千鶴子、藤岡泰弘、長瀬海、藤間爽子
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