ラジオ選考記
- 声を伝えること 金田一秀穂
- 言葉とメロディーの豊かさ 小島ゆかり
- 童謡・唱歌を見直す佳作 鈴木嘉一
- 言葉の威力 須藤 晃
- デジタル時代に際だつ「声の力」 山根基世
金田一秀穂
ラジオ部門に応募される番組のテーマは、震災や戦争、難病、地方、音楽など、定番と言ってもいいくらいに限られている。画像が無いことを逆手にとれば、人々の声や現場の音を、生々しく伝えられるはずなのだ。ラジオの身軽さ、小回りのよさを生かし、今までになかった、まったく新しい企画や主題が求められているように思う。
震災関連は、ようやく落ち着いたのか、冷静にあの時を振り返り、残された者たちの今のことばを伝える番組が目立った。
ドラマに聞くべきものがあまりなかったのは残念だった。特に声が気になった。中には、声で登場人物の聴き分けをすることが難しいものさえあった。同じような声音の人が増えているのだろうか。若者の間で声優の人気が高まっている中で、この現象は不思議だ。
小島ゆかり
山口放送の『メロディーの向こうに〜童謡・唱歌の世界〜』は、シンプルな言葉とメロディーの豊かさを存分に味わえる、ラジオ本来の魅力を生かした番組であった。歌詞の歴史的な変遷を伝えることにより、現代社会への警告もさりげなく含む。メッセージ性を適度に抑制した番組の構成が快い。
NHK仙台放送局の『震災ラジオ特集「3.11若者たちは、いま」』は、被災地の若者たちの現在に焦点を当て、各地を結んだ細やかな取材が力を発揮した。
信越放送の『SBCラジオスペシャル受話器の向こうから〜026−237−0555』は、ふだんは表に出ない地域の人との人間的交流、いわば番組の裏側のドラマに着目したアイデアが抜群と思う。生の声による巧まざるユーモア。
ほかに、RKB毎日放送の『私の故郷はどこですか〜中国人記者が見た中国帰国者のいま〜』が、強く心に残った。中国人記者ならではの視点をさらに生かした次回作を期待する。
鈴木嘉一
山口放送の『メロディーの向こうに〜童謡・唱歌の世界〜』(最優秀賞)は、音楽の教科書から消えつつあるという童謡・唱歌の良さを見直す佳作だ。西條八十の「かなりや」から山口出身のまど・みちおの「ぞうさん」まで取り上げ、平易な歌詞に込められた深い意味を探る。軍国主義によって変質させられた戦時中にも目配りし、再評価の動きも追っている。「教育勅語」の“復活”をもくろむ政治家たちに聴かせてやりたい。
NHK仙台放送局の『震災ラジオ特集「3.11若者たちは、いま」』(優秀賞)は、震災体験を語り始めた宮城の高校生、震災遺児の現状、原発事故後の福島で就農した青年らを通して、被災地の現在と未来を見据える。各地からの生中継や電話インタビューも織り交ぜた多角的な構成が、ラジオの特性を発揮していた。
信越放送の『SBCラジオスペシャル受話器の向こうから』(奨励賞)も、ラジオならではの作品だ。リスナーからの電話、オペレーターとのやり取りを題材にする卓抜なアイデアは、大相撲で言えば技能賞に当たる。ユーモラスな会話は、地域に深く根づいている民放ローカル局とラジオの存在感も浮かび上がらせた。
須藤 晃
大きな意味で何かの不幸に見舞われた人たちに対して、つまり生きていくのになにがしかの困難を背負い、例えば被災者や障害を持つ人たちに対して、自分たちはまだ恵まれていると思わせるための視点に立ったような番組作りがなされているような気がずっとしている。「私たちが乗り越えたいのは、障害そのものではない。社会からもたらされる障害(=みんなが私たちを特別視すること)は身体や病状よりひどい」とオーストラリアの人権活動家のステラ・ヤングさんは言う。この辺りを今後の番組制作者へのアドバイスにしたい。NHK仙台とニッポン放送の震災6年後を扱った番組での高校生たちの発言は心に刺さった。復興を目指す中で同じ被災者同士にストレスから机を投げつけたという正直な話は美談を拒絶する勇気ある発言だと思った。そもそも3・11などという言い方をマスコミがしてはいけない。3月11日の震災なのである。童謡、唱歌の番組も右傾化する今の日本への警告のように感じて興味深かった。ラジオが放つ言葉には威力がある。
山根基世
山口放送『メロディーの向こうに』は、奇を衒うところのない正攻法の番組。それが「童謡」の魅力やその意味を伝える内容にふさわしく、素直に心に届く。童謡が誕生して来年百年。その間、戦意高揚の手段にされたり、GHQに歌詞変更を求められたりした歴史も伝える。それだけに、日本の四季や自然を、美しい言葉やメロディーでうたう童謡の、かけがえのなさが浮き彫りになる。92歳の作曲家、大中恩氏の「自然に歌える、喋るような歌を作りたい」という思いは、「話し言葉」に潜む音楽性の指摘として実に興味深く、童謡の奥深さを感じさせる。
『震災ラジオ特集「3.11若者たちは、いま」』。NHK仙台局のアナウンサーたちが総力を挙げて制作した番組。被災した子どもたちが、6年経って成長した今、何を感じているのか、各地からの中継を交えての生放送。同じテーマで他局にも優れた番組はあったが、2時間の生放送の中、明瞭な言葉で事実を過不足なく伝え、出演者から的確に話を聞き出すアナウンサーの専門性を活かしながら、放送人として伝えるべきことを伝えようとする姿勢が評価された。
『SBCラジオスペシャル』は、なるほどこの手があったか、という発想の勝利。人生のほろ苦さも伝える大人の味わい。