Tokyo Docs6年目を終えて ~「眠れる巨人」への終わりなき挑戦~
一般社団法人全日本テレビ番組製作社連盟(ATP) 事務局
NPO法人東京TVフォーラム 事務局
三谷 実可
寄稿
ピッチング・セッションという言葉をご存じだろうか。日本語では公開企画提案会議と表す。ピッチング(Pitching)は野球でおなじみ「投げる」という意味で、ここでは番組企画を提案することを指す。Tokyo Docsは日本初、ドキュメンタリー番組のピッチング・セッションを立ち上げ、2016年で6年目を迎えた。筆者もTokyo Docsに携わって6年目。今回は「同期」目線からTokyo Docsをお伝えできればと思う。
遡ること2011年、3.11東日本大震災で起こった一連の風評被害を通して、日本メディアの海外に対する情報発信力の強化が急務とされた。「どうにかしなければ」。日本の制作者たちの焦りが、新たな答えを導き出した。
海外では、国内製作会社-国内放送局のメインストリームとは別に、国内外製作会社-国内外放送局という「国際共同製作(Co-production)」が活発に行われている。各国間でヒト・モノ・カネを出し合うことで、1社で拠出した以上の制作費で多角的な番組を作ることができる。さらに番組が完成すれば複数国で放送され、多くの視聴者の目に留まる利点がある。 この国際共同製作を成立させるうえで大切なのが、制作資金を集めたい制作者、制作パートナーを探す他国の制作者、そして国内外の優れた番組を探す放送局を結びつける場=ピッチング・セッションの存在だった。
全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)ではさっそく、製作会社を本業とする理事十数名が、日本初ドキュメンタリーのピッチング・セッション立上げメンバーとして手を挙げた。この時、筆者は入社して2カ月。学生気分が抜けきらず、右も左も分からぬような人間が、気づいたらこの一大プロジェクトに組み込まれていた。海外ゲストの自由奔放な要望に翻弄されたり、船頭が多いうえ難航するメンバー話合いの舵取りをしたり、運営事務局としての洗礼を受けた。試行錯誤の末、2011年12月、Tokyo Docsは「東京TVフォーラム(略称TTVF)」として産声をあげた。
初開催は、世界の放送局プロデューサーたちに衝撃を与えた。「日本にはこんなにも興味深い素材があったのか」。日本のことを「眠れる巨人(Sleeping Documentary Giant)」と表現した海外ジャーナリストもいた。開催後、国際共同製作に向けて海外放送局と交渉しているとの事務局あてに届いた朗報は、筆者に「眠れる巨人」の覚醒を予感させた。
Tokyo Docsは交流の場であると同時に、制作者の育成、そしてドキュメンタリーファンを増やすという重要な使命がある。
第二の使命となる国際プロデューサー育成プロジェクト「Tokyo Docs Academy」は、2013年に立ち上げた。第一弾としてスタートしたのは、国際共同製作のいろはを学ぶ「企画開発セッション」。国内外のドキュメンタリストを招いて毎月開催し、「ピッチングとは?」「トレーラーとは?」から始まり、Tokyo Docs開催直前には「魅力的なピッチ方法は?」「国際的に通用するトレーラーのつくり方は?」と実践的内容まで幅広く網羅している。 2016年には第二弾として、限定した参加者を対象に、国内外の研修、海外ドキュメンタリストとの勉強会を通して、1年かけて企画を鍛える特訓クラス「Master Class」を新設した。開設の背景には、Tokyo Docs 2015開催時、発足からTokyo Docsの成長を見続けた海外ゲストたちから「企画強化をしないと国際マーケットで通用しない」という愛のムチを受けたことによる。今回の特訓クラスには3名の日本人制作者が受講した。Tokyo Docs 2016で提案した彼らの企画はヨーロッパ、アメリカの放送局から高評価をもらい、国際共同製作に向けて有力な後押しが得られた。
第三の使命は、2014年よりドキュメンタリー上映会というかたちで、大学や劇場と連携しながら実現している。前年に引き続き、2016年も上智大学のキャンパスで開催した。テーマは「ドキュメンタリー 地域から世界へ」。同年1月に劇場公開してからロングランを記録したヒット作「ヤクザと憲法」(製作:東海テレビ)を上映した。会場に集まった160名超の観客が作品を観て一斉に笑い、トークセッションで監督に直接疑問をぶつけるライブ感は、上映会ならではの醍醐味である。開催回数を重ねる度、Tokyo Docs本イベントでも一般来場者が増え、ドキュメンタリーの裾野の広がりを感じている。
そして今、Tokyo Docs 2016を終えて、筆者の手には海外ゲストたち31名から回収したアンケートがある。運営全般、企画テーマは評価された一方で、企画クオリティに関しては「国際マーケットとしては依然未熟な企画が見受けられ、視点(Point of View)が明確でない」との指摘もあった。発足から6年、Tokyo Docsから何本もの国際共同製作が生まれ、海外からの参加希望の問い合わせも増えた。ひとつ上の潜在能力に期待してくれるゲストの存在は大きく、次回の運営にも力が入る。
6年前、筆者と共に新人研修を受けた製作会社仲間たちは今、ディレクターとして活躍している。会って話をすると、彼らが番組に込めた只ならぬ情熱に触れる。その度に、この情熱が国内に留まっていては惜しい思いと、力不足な筆者という現実の狭間でウズウズする。未だ半人前な筆者だが、これからもTokyo Docsと共に、眠りから覚めた日本の、制作者の声を世界に響かせる日を目指して挑み続けたい。
Tokyo Docs公式ホームページ:https://tokyodocs.jp
三谷 実可 さん(みたに みか)
2011年上智大学文学部新聞学科卒。一般社団法人全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)&Tokyo Docs事務局員6年目。大学で学んだ「飛耳長目」をモットーに、これからも、テレビを支えている制作者の活躍を、日本に、世界に轟かせたい!
・人文社会・文化 助成
平成25〜平成27年度 Tokyo Docs 実行委員会 委員長 天城 靭彦(NPO法人 東京TVフォーラム 理事長)