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読む・楽しむ 放送文化基金賞特集
放送文化基金賞の受賞者へのインタビュー、対談、寄稿文などを掲載します。

2023年10月2日
第49回放送文化基金賞

寄稿

放送技術

制作系番組制作フローを効率化する
DXツール『Alligator』の開発

日本テレビ放送網 小池 中

小池中さん(贈呈式にて)

 Alligator開発グループ(日本テレビ放送網、NEC、NTT東日本、オクルウェブ)は、バラエティ番組等の制作フローを一元化するシステムを開発し、働き方改革に大きく貢献したことが高く評価された。代表の小池中さんに、このシステムの開発、運用について寄稿していただいた。

1はじめに

 バラエティ番組の制作では、完成素材として放送・配信されるまでに多くの工程が存在しています。例えば、ロケやスタジオで収録されたオリジナル素材を編集作業に適したファイルフォーマットに変換(デジタイズ)したり、アーカイブ素材(過去に使用された映像)を借りたりします。これらは編集準備作業と呼ばれており、今回、この作業をクラウド上で高速に処理することができるAlligatorを開発しました。
 本稿では、Alligatorによって実現する番組制作フローを紹介します。

2Alligatorとは

 Alligatorとは、番組制作で生じる大量の映像・静止画ファイルといった素材をクラウド上に構築した素材管理システム(CMS)で一括管理し、完成素材の前の段階となる「収録」・「デジタイズ」・「編集」といった編集用素材を効率的に管理できるDXツールです。

図1:ネットワーク概要図

 高速光専用回線やインターネットを利用して素材をCMSへアップロードし、クラウド基盤がデジタイズなどの高負荷な処理を並列で行うことで映像編集に必要なオフライン/オンライン用映像ファイルを短時間で変換し、ダウンロードすることができます。

3開発の背景

 映像編集には2つの工程があり、主にディレクターが担当する、映像の構成(ストーリー)を決めて、様々な素材をつなぎ合わせる作業を『オフライン編集』、主にエディターが担当する、テロップやBGMの加工、画質や音量を調整したりする最終仕上げ作業を『オンライン編集』と呼んでいます。各々の編集では、異なる画質の映像ファイルが使われることから、予め別々の外付けストレージへ素材をコピーしておく必要がありました。また、オンライン編集ではアシスタントディレクター(AD)が編集所に外付けストレージを届けるまで映像の中身を確認することができなかったため、日々締め切り時間に追われながら編集する“追い込み”が常態化しており、こうした作業環境の改善を目的とした開発が始まりました。

図2:オフライン編集中のディレクター

図3:オンライン編集中のエディター

4本ツールの特長

従来、専門業者への外注や、AD自身がPC端末で行っていた作業がクラウド活用により自動化されています。以下に特長を示します。
・汎用WEBブラウザを使用した高速な素材アップロード/ダウンロード操作
・最大300ファイルを同時に変換可能な自動デジタイズ機能
・社内アーカイブシステムから貸し出されるアーカイブ素材(低解像度)の自動連携
・ワンタイムコードによるセキュリティが考慮されたアップロード/プレビュー機能

図4:Alligatorを使用した番組制作フローの概要図

5導入効果

 従来の番組制作では、人(AD)とモノ(放送用メディア)の移動に多くの時間を費やしてきたことと、番組ごとに編集準備作業の進め方が異なっていたため、番組制作フローの全容を把握することが難しい状況でした。Alligator導入によって高速光専用回線やインターネットが接続できる環境であれば、どこからでも素材アップロード/ダウンロードや素材管理画面からプレビューができるようになり、編集準備作業で必要なADの働き方が可視化されることで作業効率が大幅に向上しました。
 また、オンライン編集を担当する編集所のエディターは、ADから届けられる外付けストレージの到着を待つことなく、素材アップロードされた段階でオンライン編集用映像ファイルを専用ストレージサーバへダウンロードできるようになり、素材の中身が編集に入る直前まで分からないという心理的負担の解消に貢献しています。

図5:素材管理画面

6運用実績

 Alligatorは2022年7月から本格的な運用を開始しました。現在、ゴールデン・プライム帯を中心とした15番組に導入され、2023年度内に20番組程度へ拡大する見込みです。また、クラウド上にシステムを構築しているため処理能力の拡大・縮小が容易で、単発やスペシャルといったイレギュラーな番組での使用にも柔軟に対応しています。
 ユーザーへのサポート体制も充実しており、新たな番組制作フローへの円滑な移行と日々の技術的な質問などに24時間365日で対応する拠点を整備しています。

7まとめ

 バラエティ番組では、最大20式程度のカメラを同時収録し、編集時に必要な画角で撮影された映像を適宜選択するなど、撮影・編集手法が高度化しています。そうしたクリエイティブな番組制作を円滑に進めるためには、様々な作業でかかる時間や手間の効率化を並行して実現していかなければなりません。Alligatorはユーザーのニーズに合わせて機能拡充を図っていくことが期待されており、今後も編集準備作業に関わる効率化の実現へ向けた検討を進めて参ります。

プロフィール

小池 中 さん (こいけ あたる)
日本テレビ放送網 技術統括局 コンテンツ技術運用部
2007年、法政大学法学部法律学科卒業。同年、関西テレビ入社。人事・報道・技術などの部署を経験。2019年、日本テレビ入社。報道・情報・スポーツ向け素材伝送システムの開発に従事した後、番組制作のDX化検討を担当。