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読む・楽しむ 放送文化基金賞特集
放送文化基金賞の受賞者へのインタビュー、対談、寄稿文などを掲載します。

2020年10月8日
第46回放送文化基金賞

寄稿

個人・グループ部門 [放送技術]

総合コンテンツ管理システムとオンラインキューシートで実現した送出ワークフロー改革について

フジテレビジョン 井村 紀彦

井村 紀彦さん(贈呈式にて)

 総合コンテンツ管理システム検討プロジェクト(フジテレビジョン)は、クラウドの積極的な導入やキューシートをオンライン化することで、番組コンテンツの効率的な送出を実現し、個人・グループ部門[放送技術]を受賞した。代表の井村紀彦さんに、このシステムの開発、活用についてご寄稿いただいた。

1.はじめに

 地上波放送のみだった時代は、ひとつのサービスに向けた設備を作り、運用していればよかったのですが、BS放送、CS放送、動画配信、番組販売などコンテンツの送出先が増えると、それぞれのサービスに向けたシステムを構築し、個別のワークフローになっていました。その結果、複数サービス間のコンテンツを共有するのが難しく、また増え続けるサービスに応じて個別の設備構築が続くことになります。また、コンテンツを再利用する際にも、倉庫から出庫してダビングなどをする必要があり、非効率となっていました。

2.送出ワークフロー改革の全体像

 番組素材を一元的に管理する総合コンテンツ管理システムと、多くの番組素材を扱いながらも安全に放送する為のオンラインキューシートの二つのシステムを開発・導入しています。複数サービスの間で番組使いまわしが容易となり無駄なダビング作業がなくなりました。また、一度放送されると自動でクラウド保存され、再放送が編成されると、自動でクラウドからダウンロードされて、自動で放送準備が整います。一度運用したコンテンツですので、技術チェックや字幕チェックは必要ありません。そして、放送情報(キューシート)の電子化による安全確実な放送を実現することで、地上波放送のみだった頃から続く放送スタイルから脱却した新しい送出ワークフローに変革しました。

3.総合コンテンツ管理システム

 総合コンテンツ管理システムは、社内設備とクラウド設備を組み合わせて構築しています。社内設備のメインとなるセンターストレージは番組素材2週間分の容量を持ち、送出マスターに対して当日翌日の2日分を転送しています。クラウド上に構築した機能としては、番組素材の保存機能、動画配信に向けた動画変換機能、低解像度プレビュー機能となります。番組素材の保存方法については、設計の段階において、オンプレミス*1なライブラリ機器とクラウドストレージで比較検討しましたが、クラウドストレージで運用を開始して経過を観察することとしました。運用開始から1年半が経過しましたが、障害も起きず、費用に関しても試算を超えず推移していますので、クラウドストレージでの運用を継続する予定です*2
 本システムは、従来の弊社送出マスター番組バンクシステムと比べて半分以下に機材とスペースを削減できています。クラウド上の設備は物理的場所も利用上限もありませんし、メンテナンスも容易です。機器の保守サポート期限切れを心配する必要がなくなりました。
 実際に放送準備を行うオペレーションルームは、テープカートマシンやVTRが並んでいた放送3波分の3室からオペレートを集約したインジェストセンター1室に更新しました。この部屋で全ての番組素材の取り込みと技術チェックが行えています。

4.オンラインキューシート

 オンラインキューシートシステムは、放送情報(キューシート)の電子化と営放システム*3とのリアルタイム連携を実現しています。従来は、紙のキューシートが納品され、営放端末に入力するという作業をしていましたが、番組制作担当者(主にタイムキーパーさん)が、ウェブブラウザを使って入力する仕組みとしました。
 システムはクラウド上に構築しています。インターネットを利用しどこからでもアクセス可能で、タイムキーパーさんの働き方改革にも寄与しています。そして、営放システムと連携していますので、最新の情報が確認でき、入力されたキューシートは、送出マスターや、総合コンテンツ管理システムの情報として運用されています。もちろん、インターネットを使用していますので、最新のセキュリティシステムを採用しています。
 オンラインキューシート導入によりタイムキーパーさんは、手書きによるミスやFAX送信する手間がなくなり、インターネット越しにどこでもキューシート入力と送信ができるようになりました。放送準備部門ではキューシートデータの取り込みのみとなり、ダブルチェックなどにかかっていた作業時間を7割減にできました。何より、省力化を実現しつつ、放送の安全性が向上しました。

5.おわりに

 放送事故やシステムダウンの許されない放送局の送出システムにおいて、SLA*4が100%ではないクラウドサービスを使うことはこれまで避けられてきましたが、弊社で⻑年培ってきたクラウドを使う上での“勘所”を⽣かし、現時点最適と思われる配分でクラウドと社内設備のハイブリッドシステム構成としました。奇しくも2019 年8 ⽉23 ⽇にAWS 東京リージョンの⼤規模障害に⾒舞われましたが本システムは影響を受けず、なぜ⼤丈夫だったのか?あらためてシステム構成を⾒直すことで、クラウドを使いこなす知⾒をまたひとつ貯めることができました。
 総合コンテンツ管理システムにより、コンテンツを一括管理して、マルチな送出を容易とし、オンラインキューシートにより、一層の安全確実な送出を実現しました。これら二つのシステムで、地上波のみだった頃から続く放送スタイルから脱却した、新しい送出ワークフローに変革しました。コンテンツに対する考え方含めて、いずれもこれからの放送局で求められる要素ではないでしょうか。

謝辞
 構築するにあたりご尽力をいただきました、㈱フジミック、Dalet Digital Media Systems、㈱IMAGICA Lab.殿に対して、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

1*: 自社に設備を持つ運用形態のこと
2*: 2020年9月執筆現在
3*: 営業放送システムの略。民放の主たる業務システム。
4*: Service Level Agreementの略。サービス品質保証。

プロフィール

井村 紀彦 さん (いむらのりひこ)
フジテレビジョン 技術局 放送部
2000年、早稲田大学大学院 理工学研究科 電子・情報通信学専攻 卒業。同年、フジテレビジョンに入社。映像技術部に配属ののち、2002年に放送部に異動。放送やアーカイブに関わるファイルベースシステムの構築に携わる他、ARIBや民放連のファイルベース関連のワーキンググループ委員を務める。