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読む・楽しむ 放送文化基金賞特集
放送文化基金賞の受賞者へのインタビュー、対談、寄稿文などを掲載します。

2020年10月8日
第46回放送文化基金賞

寄稿

個人・グループ部門 [放送文化]

災害取材映像という「子孫への贈りもの」
~ 阪神淡路大震災アーカイブプロジェクト ~

朝日放送テレビ 木戸 崇之

木戸 崇之さん(贈呈式にて)

 阪神・淡路大震災から四半世紀がたち、被災経験や教訓の風化が急速に進んでいる。未来の防災・減災に活かしてもらおうと、朝日放送テレビが制作した映像アーカイブは、震災を後世に語り継ぐ上で、貴重な資料となっている。放送局が制作した阪神・淡路大震災の映像アーカイブはこれまでになく、その成果が評価され、個人・グループ部門〔放送文化〕を受賞した。制作した際の苦労話や、今後の取り組みについて、朝日放送の木戸崇之さんに寄稿していただいた。

四半世紀を経ての公開

映像はGoogle Map上から閲覧できる

被災者の声と表情が「災害のリアル」を伝える

 朝日放送グループホールディングスは、2020年1月、発生から25年を迎えた阪神・淡路大震災の取材映像アーカイブ(2000クリップ・約38時間分)をWEBサイトで公開した。取材記録にある撮影場所を改めて精査し、緯度・経度をつけてGoogleMAP上に配した。地図上のピンをクリックすると、その場所で取材した映像を見ることができる。
 公開直後からSNSで大きな反響があった。「改めて当時の映像をみると、知らなかったこと、忘れていたこともあった」とつぶやかれるなど、震災を知る世代にも記憶を呼び起こす効果があったようだ。肖像権者からオプトアウト(映像の非公開化)を求めるお申し出は、2020年9月1日現在で一件も寄せられていない。自治体などからは、映像を防災啓発活動に使いたいというご要望もあり、無償非営利のイベントでWEBサイトから上映することについては、原則無条件で許諾している。
 このたび、「放送文化基金賞」の誉れを得たことは、アーカイブの継続・充実に大きな力となる。評価いただいた審査員のみなさまには、この場を借りて感謝申し上げる。

預かった「贈りもの」をいつ渡すか

 地震が起こった1995年、筆者は、入社予定日より1ヶ月以上早く呼び出され、報道フロアで取材テープのキャプション入力を手伝った。膨大な震災映像は放送人としての原点である。しかしそれらはいつしか、視聴者の心情に配慮してあまり使われなくなった。若い記者やディレクターには、「使わない方がいい素材」「使えない素材」という意識が芽生えはじめているようにも感じられた。
 わが国では災害が起こると、先人らは悲しい経験を石碑に刻み、教訓を書物に書いて後世に伝えようとした。しかしその多くは時とともに忘れ去られ、子孫が同じような被害に遭うという歴史を繰り返している。テレビも、起こった時は大きく報じるが、ほとんどの取材映像は二度と放送されない。被災者が過酷な状況下で取材を許し、カメラに向かって語った思いが、石碑や書物に記録を残すことと同じだとすれば、これを放送局の倉庫に押し込んでおいていいはずがない。一時的にお預かりした後世への“贈りもの”を渡すべき時はいつなのか。首都直下地震などのリスクが伝えられるたび、焦りを感じていた。

肖像権をどうクリアするか

 ここ数年、社内外で何度か震災アーカイブの公開を提案したが、ゴーサインは出なかった。最大の課題は「肖像権を誰がどうクリアするか」。肖像権は法律として明文化されたものではなく、撮影や公開の目的、必要性等と、撮影された人の人格的利益の侵害の度合いを比較衡量して、“受忍限度”を超えるかどうかでその違法性が判断される。映っている方が公開を許諾してくれれば問題はないが、避難所にいた何百人もの被災者を今から探し出して許諾を取ることは現実的ではない。
 肖像権者に公開を「受忍」してもらうには何が必要か。時の経過で心の傷がある程度癒えていることは言うまでもないが、より重要なのは、今この映像を公開することの「社会的意義」であると考えた。映像に多くの教訓が含まれていることを証明し、公開に踏み切る私たちの考え方や姿勢が明確なら、多くの肖像権者は公開を「受忍」し「了承」してくださるに違いない。社内で幾度も議論を行い、丁寧に手順を踏んで、私たち自身が公開の意義を確認しようと考えた。

積み上げた「公開の意義」

「公開非公開を、恣意的に決めないで欲しい」という震災経験のない世代からの意見は新鮮だった

 一つ目は、震災後に生まれた学生に取材映像を見せ、感想を語り合ってもらうワークショップである。「これが本当に、25年前の神戸で起こったことなのか…」「動画には臨場感がある。写真と違って音があるのが強い」「肖像権があるのはわかるが、顔が見える方が思いを感じやすい」などの感想があがり、取材映像で災害のリアルが効果的に伝わることが確認できた。ある学生からは「避難所が『ぴりぴりしている空間』だという現実は、怒っている人の声があるからわかる。インタビューの内容で恣意的に公開・非公開を分けないでほしい」という意見も出た。編集やナレーションは、映像を「今の価値観」に縛り付ける。映像の見方を狭めないよう、できるだけ取材映像に手を加えずに公開する方針が決まった。
 もう一つは、有識者による研究会の開催である。社内関連部署の担当者を同席させ、神戸の災害ミュージアムが保有する震災動画の公開判断や、先行する東日本大震災関連アーカイブの状況など、参考事例を共有した。有識者からは、「アーカイブの維持と活用には公開機関の“覚悟”が必要」「災害報道批判の再生産にならないよう気をつけるべき」などの指摘もあり、私たちが持つべき姿勢がより明確になった。
 いかに「公開の意義」が立派でも、映り込んだ被災者の心情を抜きに公開するのは乱暴である。神戸や淡路島に映像を持って赴き、肖像権者を探して意向確認する作業も行った。30名弱の方の身元がわかり、ご本人やご家族・ご遺族に趣旨を説明したところ、公開を拒む方はおられなかった。むしろ、「あの日インタビューに答えた私の姿や映像は『お預けしたもの』だから、有効に使っていただきたい」と背中を押してくださる方もいて、公開に向け勇気を得た。

震災を知らない世代は、驚きを隠さなかった

災害アーカイブの力を防災に

 自治体の担当者からは、「より頻度の高い水害の取材映像も公開してもらえないか」との声が寄せられている。災害は地震だけではないし、地域特性もある。災害アーカイブから「防災の気づき」が得られるような映像の公開方法を検討し、テレビ局の報道だからこそできる持続的な社会貢献を、今後も実現していきたい。


朝日放送テレビ 阪神淡路大震災25年 激震の記録1995 取材映像アーカイブ
ホームページ
https://www.asahi.co.jp/hanshin_awaji-1995/

プロフィール

木戸 崇之 さん (きど・たかゆき)
朝日放送テレビ報道局(株)エービーシー・リブラ出向
1995年入社。2014年 人と防災未来センターに研修派遣。同年より関西大学大学院社会安全研究科で災害情報の伝達について研究。その成果「災害情報のエリア限定強制表示」の国内初導入は、2019年「電波の日」近畿総合通信局長表彰を受ける。現在、朝の情報番組でニュースデスクを務める。