HBF 公益財団法人 放送文化基金

文字サイズ:

HOME読む・楽しむ本当の姿を見たい!野生の力を試したい!  加藤 英明

読む・楽しむ 放送文化基金賞特集
放送文化基金賞の受賞者へのインタビュー、対談、寄稿文などを掲載します。

2018年10月3日
第44回放送文化基金賞

寄稿

テレビエンターテインメント番組 [出演者賞]

本当の姿を見たい!野生の力を試したい!

加藤 英明

 今年のテレビエンターテインメント番組で最優秀賞に輝いた「クレイジージャーニー」(TBSテレビ)は、“ジャーニー”と呼ばれる出演者が、独自の視点やこだわりを持って世界&日本を巡るバラエティ番組。今回、カメルーンの密林に旅した爬虫類ハンターこと、加藤英明さんに「出演者賞」が贈られた。爬虫類をこよなく愛する加藤さんに寄稿していただいた。

クレイジージャーニー(TBSテレビ)爬虫類ハンター
加藤 英明 さん (かとう ひであき)
1979年生、静岡県出身。
静岡大学大学院教育学研究科修士課程修了後、岐阜大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学)。静岡大学教育学部講師。カメやトカゲの保全生態学的研究を行いながら、学校や地域社会において環境教育活動を行っている。さらに、未知なる生物を求め、世界中のジャングル、砂漠、荒野を駆けめぐる。

好きなことに夢中!

 第44回放送文化基金賞出演者賞に選ばれたことに、大変驚いた。いつもと変わらず、大好きな爬虫類を世界に求めて旅をしていただけに、複雑な心境だ。ただ、多くの人に爬虫類の魅力を伝えられるきっかけとなり、彼らへの理解が深まれば幸いである。ワニやトカゲ、ヘビ、カメなどの爬虫類は、擬態や攻撃、防御に優れ、敵を欺き獲物を仕留める。自然の中において恐れられる存在であるが、私には不思議な形態や生態が愛おしく見える。彼らは、この地球上に3億年以上前に出現し、生物の大量絶滅を乗り越えて繁栄した。現在する彼らの本当の姿を見たい、そして進化の歴史を垣間見たい。そんな思いから、がむしゃらに大好きな爬虫類を世界中に追った。好きなことをやっていて、このような賞に繋がるとは、想像もしていなかった。

不思議でためになるバラエティ番組

 私が出演した番組は、TBSテレビ「クレイジージャーニー」。独自の視点やこだわりを持って世界や日本を巡るクレイジージャーニーたちがその特異な体験を語る、伝聞型紀行バラエティである。最初に同行を依頼された時には、“普段の私を放送しても面白くはないのでは?”と感じていた。爬虫類の姿を求めて世界を旅することは、私にとっては好きなことであるが、他から見た時にどのように見えるのか考えたことがなかった。もちろん、テレビで紹介されることについては正直恥ずかしい気持ちがあった。ただ、野生のコモドオオトカゲの姿を追った様子が放送されると、「爬虫類に興味を持った!」という視聴者からの声が届き嬉しく感じた。爬虫類の本当の姿は、実際に生息地に足を踏み込んで野生の暮らしを見ることで、初めてわかる。この時、“テレビを通して爬虫類の魅力が伝わることもあるのだ”と初めて感じた。その後、他の国への旅にもカメラが同行することが度々あり、昨年の夏にはアフリカのカメルーンでの爬虫類ハントの様子が放送された。この放送回が番組部門テレビエンターテインメント番組において最優秀賞を受賞したことに驚くとともに、嫌われがちな爬虫類が脚光を浴びたようで、とても嬉しく感じた。

魅惑の爬虫類の世界

 最優秀賞を受賞した放送回で紹介されたのは、密林に潜む不思議な生態のワニ。図鑑では必ずと言ってよいほど目にする生き物だが、絶滅が危惧されるだけに情報がとても少ない。私は野生の姿を見たことがなく、その暮らしや現状を知りたくて現地に向かった。狙うはニシアフリカコビトワニ。世界最小のクロコダイルである。さらに、この機会に見つけておきたかった両生類で、世界最大の巨大なカエル、ゴライアスガエルの姿を追った。どちらも大型の生き物であり、野生の姿を見るだけではなく、私の力がどれだけ通じるか試したかった。弱肉強食の世界で生きる野生のものは、飼育されているものとは異なり、警戒心が強くて動きが素早く、体型も異なる。ゴライアスガエルを狙う場所は、流れが速い川の滝。流れに乗って逃げられないように、川を遡りながら姿を探す。巨大な体が石の色に擬態していて探索は困難を極めたが、姿を現した瞬間を見逃さず捕獲に成功した。さらに、別の川ではニシアフリカコビトワニを発見した。ワニは捕獲に危険が伴うため、鋭い歯が並ぶ口をテープで巻いて固定するという作業が必要となる。そして、同行ディレクターの手助けもあり、ワニを怪我させることなく安全に捕獲することに成功した。爬虫類を探す時は、常に彼らの気持ちになることが大切。私がワニであったら、どこに潜み、どのように逃げるだろうか。そうして爬虫類を探すことで、見えてくる世界がある。

今後も世界を巡る

 私の本職は、静岡大学教育学部の教員であり、将来教員を目指す学生に講義と研究指導を行っている。多くの学生に伝えたいのは、爬虫類の魅力。そして、爬虫類を通してわかる環境問題や生物の進化だ。爬虫類を始め生物は種ごとに分布域が異なり、さらに島など生息する環境によりわずかに形態が変わる。これらの情報は、彼らの進化をひも解く鍵となる。爬虫類がどのように地球上の様々な環境に適応して放散したのか、自分の目で見て確かめたい。爬虫類が歩んだ3億年の歴史にロマンを感じずにはいられない。しかしながら、現在、リクガメやワニを始め、数多くの爬虫類が絶滅の危機に追いやられている。原因は、食用や愛玩用を目的とした乱獲、生息地の破壊の他、嫌悪感による殺傷が多い。長い間、爬虫類はその見た目の不思議さから嫌われがちであったが、特殊な色や形、性格は、地球上のあらゆる環境に適応した進化の賜物である。
 爬虫類は、世界に1万種が存在する。今後も不思議で魅力的な爬虫類を追い求め、世界を駆け巡り続ける。爬虫類ハンターとして爬虫類の知られざる世界を紹介する中で、多くの人に爬虫類の魅力を感じて頂ければ嬉しい。