助成
“自分の物語”として戦争を見つめる【中央大学3年 藤井梨緒】
2024年度助成 イベント事業(後期)
戦後80年を迎えた今、若者はどのように戦争の記憶を受けとめ、次の世代へと伝えていくのか。
2025年8月17日(日)に鹿児島市で開催された「戦後80年企画ワークショップ 若者とメディアは戦争をどう伝えるか」(主催:KKB鹿児島放送)に参加した大学生・藤井梨緒さんに、ワークショップを通して考えたことを寄稿していただきました。
“他人事”を“自分事”に変えるための仕掛け
戦後80年、私たち若者世代はどのように戦争の記憶を受けとめ、次の世代へと引き継いでいくべきなのか。戦争を知らない世代として、これから果たしていく役割について考えた。
今回の戦後80年企画ワークショップ「若者とメディアは戦争をどう伝えるか」で、印象的だった言葉がある。一つは、「劇団いぶき」で脚本・演出を担当された朝隈克博さんの「演じないでくれ、感じ取ってその人のように寄り添って生きてくれ」だ。朝隈さんは演技指導において、現代の価値観を当てはめるのではなく、役者が当時の人々の感情や立場に寄り添って演じることを大切にされていた。
私自身も知らず知らずのうちに現代の価値観を、当時の特攻隊員の思いに重ねてしまっていたのではないかと気づかされ、ハッとした。また中央大学の学生役を劇の舞台に登場させることで、観客が「現代の若者として」戦争を捉える視点が提示されていた。現在ゼミで取り組んでいる「特攻と中央大学プロジェクト」も、後輩が先輩を訪ねる仕掛けを通じて「他人事」を「自分事」に変えていく工夫がある。戦争を自分が生活している社会に引き寄せて、考えられる仕掛けの大切さを改めて感じた。

“伝える側”としての責任と工夫
もう一つは、NHKエンタープライズ シニア・プロデューサー大島隆之さんの「戦争を伝えていく上で、僕ら制作者が、亡くなられた方の命を、主義主張を伝えるための手段として使ってしまっていないか、自戒することが大事である」という言葉だ。戦争を伝える難しさは身にしみて感じている。制作者として戦争を伝えていく際には、自分自身の主義主張や解釈を発信する手段として、亡くなられた方の命や記憶を扱ってしまっていないか、常に自戒する姿勢を忘れずに臨みたい。
また、大島さんが制作に携わったNHKスペシャル「一億特攻への道 隊員4000人 生と死の記録」のCG映像は、特攻戦死者が日本全国の隅々から送り出されていたことを示す工夫が凝らされていた。自分の町や地域からも特攻戦死者が出ていると気づかせる仕掛けにより、戦争を「遠い歴史」ではなく「身近な現実」として感じられるようになっていた。身の回りの社会と結び付けて「自分事」として考えさせる工夫に、強く心を動かされた。
先輩の記憶を継ぐ
私は大学のゼミで、特攻戦死した中央大学の先輩の記憶を継承するドキュメンタリー制作・ルポルタージュ執筆に取り組んでいる。23歳で特攻戦死した大塚晟夫さん(中大)について調査する中で、出撃当日に記された彼の言葉、「さて俺はニッコリ笑って出撃する」に関心を持った。同じ大学生だった大塚さんは、どんな思いで戦地に旅立っていったのだろうか。戦没学徒に関する資料を収集・展示している「わだつみのこえ記念館」(東京都文京区)を取材するとともに、記念館の理事長・渡辺總子さんに話を聞いた。
今回のワークショップを経て思い出した渡辺さんの言葉がある。「自分の立場で、あの時代だったら自分はどうだろうという風に読んでほしい。自分と同じ年代の先輩たちはどう思って生きていたのか、という視点からだったら読めますよね」。特攻戦死した大塚さんの日記を読み進めていくなかで、彼の言葉は、家族に心配をかけたくないという優しさとともに、自分の夢が戦争によって砕かれた現実をシニカルに見つめる思いが込められているのではないかと感じた。取材を経て、彼は戦禍に巻き込まれていなければ、今の私と変わらない、家族を愛し、将来に夢を抱く大学生だったのだと改めて実感した。
シンポジウムを通じて学んだのは、戦争を「自分事」として捉えるためには、演劇や映像といった表現の中に、同世代や自分の地域とつながる「糸」を巧みに仕掛けることが大切であるということだ。そして、受け取る側としては、その仕掛けに気づき、想像力を働かせることで、初めて「遠い戦争」が「自分の物語」に近づいていく。制作者であると同時に若者の一人として、その両方の立場を往復しながら、記憶の継承に関わっていくことが、戦後80年の今、私に求められている役割だと感じた。
プロフィール

藤井梨緒(ふじい りお)
中央大学総合政策学部国際政策文化学科3年生
FLPメディア・ジャーナリズムプログラム松野良一ゼミ所属。ゼミでは制作プロデューサーとして、現在「特攻と中央大学プロジェクト」に携わる。『「わだつみのこえ記念館」訪問記―三人の中央大学学徒―』(中央評論編集部、2025年)を執筆。2024年12月1日、わだつみのこえ記念館主催「12・1不戦の集い 映画と講演『戦争の記憶をつなぐ』」で講師を務めた。