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変わらぬ歌声で世界をつなぐ―高橋洋子と『エヴァ』主題歌30年
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【第10回】『エヴァンゲリオン30周年特別番組「残酷な天使のテーゼ」時代も国境も超えて』(テレビ東京 9月28日(日)深夜1時50分~)

1995年10月4日の放送開始から30年。番組はいまや世界中の人々に愛される人気アニメとなった『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ東京)の主題歌「残酷な天使のテーゼ」にフォーカスし、作詞家の及川眠子や編曲家の大森俊之、歌手の高橋洋子ら当時制作に携わった人たちへのインタビューを通し、その誕生秘話や楽曲の魅力を多角的に掘り下げていくものだった。
1995年といえば、1月には戦後初の大都市直下型地震、阪神・淡路大震災が発生し、多くの犠牲者と甚大な被害を出した。はたまた3月には地下鉄サリン事件も。そんな混沌とした年に1つのアニメ作品が誕生する。それが『エヴァンゲリオン』だ。
あの斬新なオープニングを見た時の衝撃は忘れられない。「楽曲」と「映像」が見事にシンクロしていて、高揚感が半端ないのだ。それまではアニメソングといえば、タイトルだったり、ヒーローの名前だったりが入っていて、いかにもなアニメソングだったが、「残酷な天使のテーゼ」は、そういうものとは一線を画し、革新的な楽曲構成や哲学的な歌詞など、音楽性やメッセージ性がより重視されるようになった。それゆえ、単なるアニメソングの枠を超え、アニメファンのみならず、広く一般に浸透。30年経った今も、カラオケで歌い継がれる名曲となったのだった。
パリで開催された Japan Expo Paris 2025 の『エヴァンゲリオン』30 周年スペシャルステージの様子が映っていたが、高橋の歌に合わせて、客席で一緒に口ずさむ外国人たちに胸が熱くなる。観客の中には、シンジやアスカ、綾波のコスプレをしている人が大勢いてその熱狂ぶりが伝わってきた。
印象的だったのは、高橋が30年前の自分の歌声を毎日欠かさず聞いて、声の高さ、大きさ、質感に至るまで、そのすべてを30年前の自分にチューニングすることを使命としているというところ。「みんなの歌なので、私の所有物ではなく、『エヴァンゲリオン』という作品があって、それのオープニングを歌わせて貰って、みなさん、その時の、1995年のその曲、その歌い方、その声を記憶して、その当時の私の歌を聴いてくださっているので、なるべくそこに寄せて歌えるように、できることを毎日やっています。」
そういう高橋のたゆまぬ努力があって、30年もの間、世界中に愛される曲となり得たのだろう。アーティストによっては、元の楽曲をアレンジしたり、歌い方を変えてみたりで、「コレジャナイ感」MAXでがっかりすることがあるが、高橋のこの謙虚さを見習ってほしい。深夜にわずか30分ほどの番組だったが、いいものを見た。
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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。
“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。