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小雪が伝える発酵の魅力―富山「バタバタ茶」
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【第9回】『小雪と発酵おばあちゃん 富山・泡を楽しむバタバタ茶』(NHK Eテレ・9月18日22時30分~)

俳優の小雪が日本各地の発酵食作りの達人「発酵おばあちゃん」を訪ね、その土地の伝統的な発酵食のレシピや作り方を教わる番組だ。2022年からEテレで特別番組として放送され、2023年からは月1回のレギュラー番組になった。
この番組を見るまで、小雪に関してあまり興味はなかったというか、綺麗な俳優さんだなという程度だったが、この番組で、「発酵おばあちゃん」たちとのフレンドリーなやりとり、飾らない姿を見てファンになった。
正直に言えば、当初は小雪のタメ口に、教えていただく人に対して失礼なのでは、とも思ったが、人生の大先輩たちはそんな小さなことなど気にしない。むしろ、それが、遠慮のないほんとうのおばあちゃんと孫のようにも見えて、彼女の魅力なのだと納得した。
そして、今では、その小雪と同じくらい発酵食の魅力、奥深さにハマっている。
9月18日放送で紹介されたのは、富山県朝日町蛭谷(びるだん)だけで作られている「バタバタ茶」。その製法は、真夏の7月下旬から8月上旬に刈り取った茶葉を蒸し、揉んだ後、約40日間かけて麹菌によって発酵させる。こうして作られた茶葉は、一般的なお茶とは異なり、自然界の菌の力で乳酸発酵させる点が特徴だ。
室から取り出した発酵茶葉をほぐす作業を手伝いながら、「酵素風呂と同じ匂いがする」「ダイブしたい」などと独創的な言葉で表現する小雪、 お茶目な人柄が伝わってくる。
独特なのは「振り茶」と呼ばれる飲み方。煮出したバタバタ茶を「五郎八茶碗(ごろはちぢゃわん)」と呼ばれる専用の茶碗に注ぎ、2本の茶筅(ちゃせん)を合わせた「夫婦(めおと)茶筅」という道具を使って、カプチーノのように泡立てて飲む。泡立てる動作が「バタバタ茶」の名の由来になったそう。泡立てることで熱々のお茶が適温になり、まろやかな口あたりになる効果もあるという。
山菜の煮物や漬物をお茶うけにバタバタ茶を飲みながらの「お茶会」はこの地域の人たちにとってのお楽しみ。「発酵おばあちゃん」たちに混ざり、鍋に入ったバタバタ茶を柄杓で掬って、みなさんのお代わりを注ぐ小雪もすっかりその場に馴染んでいる。なんとも贅沢な時間。お茶会の効果なのか、伝統的なバタバタ茶の発酵効果なのか、おばあちゃんたちは生き生きとしていて、お肌もツルツル!?
発酵食というと、ぬか漬けや味噌、キムチくらいしか思い浮かばなかったが、日本にはこんなにも多くの発酵食があるのかと毎回驚かされる。来月はどこに行くのか、待ち遠しい。腸活ブームも手伝って番組の人気も上々。月1の“身体と心に効く”お楽しみ、長く続いてほしい番組だ。
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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。
“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。