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時空を超えて蘇る『サザエ万博へ行く』
▶▶▶ 『日日是てれび日和』──気になる番組を読み解く週一コラム 桧山珠美
【第5回】『サザエさん』(フジテレビ・8月24日放送)
『サザエさん』がスタートしたのは1969年(昭和44年)10月5日のこと。55年続く長寿番組は、世界で最も長く放映されているテレビアニメとして、ギネス世界記録を保持するまさに国民的アニメだ。
『サザエさん』が凄いのは、長寿だけではない。日本の家族や文化、風習が丁寧に描かれているのだ。家族揃って食事するお茶の間、空き地で野球する子どもたち、貰いものをお裾分けするお隣さん……などなど。4月はお花見、6月の庭には紫陽花が咲き、8月は蝉の声、そして12月はクリスマス……。いまではあまり見かけなくなった家族の風景や四季折々の行事など、日本の古き良き時代がそこにある。
日本のアニメは今、世界的にも人気があるらしいが、数あるアニメの中でも、失われつつある日本の良き風習や日本人の暮らしぶりを描き続けているのは『サザエさん』くらいのものではないか、と。まさに貴重な「映像遺産」。以前から常々、そんなことを思っていたが、この日の放送を見て、その思いを強くした。
この日の『サザエさん』は、「祝!万博開催スペシャル」と題して、1970年6月14日に放送した「サザエ万博へ行く」の再放送と、現在開催中の「大阪万博」を舞台にした新作の「サザエ再び万博へ行く」の2本立てだった。
日本館名誉館長の藤原紀香と夫の片岡愛之助が登場する2本目「サザエ再び万博へ行く」についてはおいとくとして、眼福は1本目の55年前の再放送「サザエ万博へ行く」だった。サザエさんとフネさんの口紅の描き方が今とは違うのも興味深かったが、なんといっても、タラちゃんのわんぱくぶりと、それをちゃんと叱りつけるサザエ&マスオのパパママぶりだ。
あるパビリオンでみんなの分の座席を取ろうと、素早くパンフレットを座席の上に乗せて、何人分も確保しようとするタラちゃんが、サザエ&マスオに「いけませんよ」と叱られて「ワ~ンワ~ン」と大泣きする。その後、タラちゃんはその時、座席を横取りしようとして迷惑をかけた外国人夫婦に謝ろうと、捜しに行って迷子になってしまう、というストーリーだったが、そういえば、昔はこんなふうに街中で子どもを叱りつけている人を見かけたものだが、最近はあまり見ない。自分の子どもでも叱ってギャン泣きでもされた日には、幼児虐待の誹りを受けかねないからか、単に無関心だからかは分からないが……。最近のタラちゃんは基本いい子で、サザエ&マスオが叱りつけるというような場面も無くなったような……。
などと、いろんなことを考えさせられる『サザエさん』は実に味わい深いアニメだ。
そういえば、昔は日曜日だけでなく、火曜日にも『サザエさん』の放送があった。その時のエンディングテーマ『あかるいサザエさん』という歌が好きだったことを思い出した。55年前の『サザエさん』の映像が現存しているなら、ぜひ見てみたい。たまにはこんなふうにタイムスリップして昔の作品も再放送して欲しい。そこには思わぬ発見があるに違いない。
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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。
“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。