放送文化基金賞

第51回

寄稿

基金賞特集

やなせたかし、ラジオに生きた足跡

第51回放送文化基金賞 ラジオ部門 奨励賞

文化放送 A&Gデジタル部 豊澤佑衣

アーカイブスで発見された台本と番組ナビゲーターのやす子さん

倉庫で眠っていた資料が、時を越えてラジオで再び息づいた……。
第51回放送文化基金賞ラジオ部門・奨励賞を受賞した『文化放送開局記念 昭和100年スペシャル「ドンとモーグリとライオンと ~やなせたかし 名作前夜」』。この番組は、若手中心の「文化放送アーカイブスプロジェクト」から誕生しました。制作の中心を担った豊澤佑衣さんが、アーカイブスでの発見の喜びと番組完成までの歩みを綴ります。

文化放送アーカイブス発足

埼玉県川口市の住宅街に、文化放送のAM送信所があります。その敷地内にかつて倉庫があり、本社(当時は四谷)に収まりきらなくなった資料が保管されていました。いつしかその倉庫も整理することになり、大量にあった資料はリスト化されることなく段ボールに詰められ、また別の倉庫へと運ばれました。ただ、その時の詳細を覚えている社員はほとんどいません。

2024年春、編成部でアーカイブ管理を担当することとなった私はその中身が気になり、調査を開始しました。両手で抱えるのがやっとの大きさの段ボール106箱に収まっていたのは、1952~88年にかけてのラジオドラマ台本・QR通信(社内通信)・実施番組表など計909点。少しかび臭くなっていたり、紙が劣化しているものもありましたが、一つ一つ丁寧に広げながら資料を確認すると、「手塚治虫がラジオキャスターを務める番組」や「科学忍者隊・ガッチャマンのラジオアニメ」など、とても興味深いトピックが次々と見つかりました。これらの貴重な資料をそのままにするのではなく、現代のリスナーにも楽しんでいただきたいと思い発足したのが「文化放送アーカイブス」プロジェクトです。週一回、WEBコラムの形式で気になる資料を紹介する連載をスタートしました。当時を深く知るベテラン社員ではなく、あえて20~30代の若手メンバーが担当することで、フレッシュな視点で綴っています。

その中でも私がひときわ目を引いたのが、「やなせたかし」書き下ろしのラジオドラマ台本でした。

段ボールの山
『めい犬ドン お正月特番』台本
やなせたかしと文化放送

やなせたかし先生と文化放送は深い縁で結ばれています。実は、1959年からの数年間、やなせ先生はさまざまな仕事と並行してラジオドラマの脚本を制作し、文化放送でも複数のラジオドラマを書き下ろしていました。1981~99年までは文化放送番組審議会委員・委員長を歴任していて、特に四谷時代はやなせ先生の事務所がご近所だったこともあり、頻繫に出入りされていました。

私(当時入社3年目・24歳)は、紛れもない「アンパンマン世代」です。幼少期からアンパンマンが大好きで、アニメはもちろん、各地で開催されるショーにも足を運んでいました。その作者であるやなせ先生の資料を就職先で見つけるとは夢にも思っておらず、「やなせたかし=アンパンマン」のイメージばかりだったため、ラジオの世界に遺した作品があることに感動を覚えました。

今回の調査で見つかったやなせ先生関連の資料の一つに、「めい犬ドン やさしいライオンの巻」というラジオドラマがあります。「やさしいライオン」は後にやなせ先生の代表作となる作品です。「やさしいライオン」は元々、文化放送の依頼で30分版のラジオドラマが書き下ろされ、そこからアニメに映画に絵本にと派生していったことは判明していましたが、今回さらに前に制作された5分版のラジオドラマ台本が見つかったのです。この他に、ドラマに関連したオリジナルのイラストや収録風景の写真も発見されました。これらはやなせ作品を管理する「やなせスタジオ」の方も把握していなかったもので、やなせたかしがラジオに生きた足跡そのものでした。

やなせたかし先生
当時の収録風景
番組放送決定! でも、もっと!

資料発見後、熱も冷めやらぬうちに企画書を仕上げ、発見された資料を活用した特別番組を放送することがすぐに決定しました。放送日は、文化放送開局記念日である3月31日。放送まで1年近く時間があることから、番組の制作と並行してほかにも展開ができないかと考え、発見されたイラストをプリントしたグッズの制作や、やなせ先生が遺した作品を紹介するパネル展示会を、文化放送のリスナー感謝祭「浜祭」にて行いました。

制作したグッズ
「浜祭」での展示

現在一部台本の実物とパネルは、やなせ先生の故郷である高知県香美市「やなせたかし記念館」にて展示されています。

ドンと、モーグリと、ライオンと。

番組タイトルは、ラジオドラマのタイトル「めい犬ドン」「潜水艦モーグリ号の冒険」「やさしいライオンの巻」に由来しています。ただ、これらの作品をどのように構成して紹介するか、すぐには決まりませんでした。「結論を決めずに、まずは動いてみるのも一つの手」という先輩のアドアイスをきっかけに、不安ながらも、まずはやなせ先生の当時を知るみなさんにお話を伺うことにしました。

やなせ先生と同時期に文化放送番組審議委員を務めたコーディネーターの加藤タキさん、当時の作品にご出演されていた俳優の久里千春さん、やなせたかし記念振興財団事務局長の仙波美由記さん、やなせ先生の最後の編集者である平松利津子さんからお話を伺う中で、やなせ先生の人となりや、いつの時代も変わらず大切にしていたことが鮮明に浮かび上がるとともに、番組の軸も自ずと固まっていきました。やなせ先生は「善き人でありなさい」とよく仰っていたそうですが、取材したみなさんはまさに「善き人」であり、善き人の周りには善き人が集まるのだと感じました。

番組ナビゲーターは、大のアンパンマン好きとしても知られるお笑い芸人のやす子さんにお願いしました。やす子さんは私と同世代。やはり当初は「やなせたかし=アンパンマン」の印象が強かったようで、今回の発見を驚きそのままに、明るく優しく真っすぐ伝えていただきました。ナビゲーターを担当するのは初めてとのことでしたが、やす子さんの声は番組に欠かせない存在でした。やなせ先生の著書からの引用部分は、声優の小野大輔さんに朗読いただいています。収録中目を瞑って聴いていると、まるでやなせ先生が目の前にいるかのような臨場感があり、この声を早くみなさんにお届けしたいとワクワクが止まりませんでした。

世代を超え、やなせたかしに引き寄せられて集まったみなさんと一緒に番組を制作できたことは、この上ない幸せでした。「いつの時代も変わらない正義」とは何か、不安定な時代だからこそ番組を通じてたくさんの方に考えていただけたら嬉しく思います。

やなせ先生! この音は、先生にも届いていますか? いつかラジオの裏話をこっそり教えてくださいね。

やす子さん 収録風景

▶Podcast
『ドンとモーグリとライオンと ~やなせたかし 名作前夜』をお聴きいただけます!
https://podcastqr.joqr.co.jp/programs/yanase

▶文化放送アーカイブス
 文化放送の社員が貴重なアーカイブ資料を紹介!
https://www.joqr.co.jp/qr/program/archives/

プロフィール

豊澤 佑衣(とよざわ ゆい)
文化放送 A&Gデジタル部
2022年入社。編成部に配属後、広報・番組編成・アーカイブライツ管理業務など幅広く担当。2024年~A&Gデジタル部に異動し、番組プロデューサーを務めるほか、イベントやファンコミュニティ事業運営などに携わる。現在「三人称・鉄塔 ひとりのよる」「AKB48伊藤百花と花田藍衣のひと“花”咲かせたいっ!」などを担当。

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