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音楽に込められた平和への願い 『MUSIC GIFT 2025 ~あなたに贈ろう 希望の歌~』(NHK総合・8月9日放送)
▶▶▶ 『日日是てれび日和』──気になる番組を読み解く週一コラム 【第3回】 桧山珠美

2025年は戦後80年、そして放送100年のメモリーイヤーにあたり、関連番組が多く作られている。『MUSIC GIFT 2025』もそのひとつで、「音楽を通じて希望を届けよう」というコンセプトのもと、今夏、新たに作られた大型音楽番組だ。
司会は二宮和也、二階堂ふみ、中山果奈アナウンサーの3人。
出演歌手は、AI、いきものがかり、純烈、新浜レオン、元ちとせ、氷川きよし、Mrs. GREEN APPLE、宮沢和史、ゆずをはじめ総勢20数組。年末の『紅白歌合戦』でもおなじみの顔ぶれが揃った。
番組は2部構成。第1部が19時30分~20時55分、ニュースを挟んで第2部が22時から22時50分の計2時間15分は、『紅白』のおよそ半分の放送時間だ。が、その内容、満足度でいえば、『紅白』に匹敵、あるいはそれ以上かもしれない。
その理由は歌に特化していた点だ。「上を向いて歩こう」に始まり、いきものがかり「ありがとう」、AI「アルデバラン」と朝ドラの主題歌、そして、MISIAと子どもたちによる「はんぶんこ」と続く。
MISIAは第2部では世界遺産・高野山金剛峯寺から「希望のうた」を熱唱。その舞台も相まって、聖なる場所に響き渡る魂の歌声に心を強く揺さぶられた。さらに、福山雅治も、5000人の合唱隊とともに「クスノキ-500年の風に吹かれて」を熱唱。この歌は、原子爆弾投下による爆風や熱線に耐え、今も生き続けている“被爆クスノキ”を題材として作られたもので、平和への祈りが込められているとか。
MISIAも福山も長崎出身。8月9日のながさき平和の日(長崎原爆忌)に、長崎にルーツをもつ2人のアーティストが、故郷や聖なる場所から平和への願いを届けるパフォーマンスは、長崎の人々にはもちろんのこと、私たちすべての心に深く響く特別な体験となった。また、元ちとせの「死んだ女の子」、氷川きよしの「一本の鉛筆」など、「反戦歌」といわれるメッセージ性の強い楽曲をじっくりと聴かせてくれたのも特筆すべきことだ。
ほかにも、朝ドラヒロイン・のぶ役の今田美桜、夫・嵩を演じる北村匠海も登場した『あんぱん』ファミリーによるスペシャルステージでは、『あんぱん』の中で歌われる楽曲や、アンパンマン(戸田恵子)、ばいきんまん(中尾隆聖)、チーズ、ジャムおじさん、カバおくん(いずれも山寺宏一)による「アンパンマンマーチ」に感動。朝ドラのPR臭を感じなくもないが、そこは大目にみるとする。
肝心のRADWIMPSが歌う主題歌「賜物」が無かったのは残念だが、それは本家『紅白』で、ということだろう。
昨今、毎年のように『紅白歌合戦』の在りようについてあれこれ言われている。曰く、出場者が多過ぎ、知らない歌ばかり、何を歌っているかわからない、グループばっかり、余興が邪魔、そもそも男女を『紅白』に分けるセンスって! などなど。
今回の『MUSIC GIFT』に、ある種、『紅白』の理想のかたちを見たような気がした。私たち視聴者は、心に響く歌を心を込めた歌声で味わいたいだけ。それは歌番組の原点に帰ることなのかもしれない。
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プロフィール

桧山珠美(ひやま たまみ)
HBF MAGAZINEでは、気になるテレビ番組を独自の視点で読み解く連載『日日是てれび日和』を執筆中。
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーライターに。
新聞、週刊誌、WEBなどにテレビコラムを執筆。
日刊ゲンダイ「桧山珠美 あれもこれも言わせて」、読売新聞夕刊「エンタ月評」など。
“HBF CROSS”は、メディアに関わる人も、支える人も、楽しむ人も訪れる場所。放送や配信の現場、制作者のまなざし、未来のメディア文化へのヒントまで──コラム、インタビュー、レポートを通じて、さまざまな視点からメディアの「今」と「これから」に向き合います。