放送文化基金賞
【第51回放送文化基金賞】放送文化部門 講評
放送文化部門 山根基世 委員長
今年の応募では、伝えるべきことをねばり強く継続取材したドキュメンタリー制作者や、放送を社会課題の実際的解決につなごうとする試みが目立った。結果以下4件が選ばれた。
●手塚孝典(信越放送)
全国で最も多くの開拓民を送り出した長野で、25年にわたり満州移民の取材を続けている。開拓民たちの苛酷な運命、送り出した側の深い呵責。事実を知る数少ない当事者の証言を集め満蒙開拓の根源に迫る。更に、元開拓民が原発事故で行き場を失う姿を通し、今なお続く棄民政策をも浮かび上がらせる。
●吉崎 健(NHK福岡放送局)
長年九州で、地域に根ざした優れたドキュメンタリー番組を数多く制作。NHK職員として一時は東京勤務も経て、視野を広げながら更に九州地域の課題を掘り下げてきた。特に水俣病に関する長期の真摯な取材は、患者との深い信頼関係を築き、ジャーナリストとしての核になっている。
●長崎放送
1968年、長崎放送では、被爆者の証言を記録し放送するラジオ番組を開始。これまでに1000人以上の証言を放送し、テレビ版にも広げている。番組を立ち上げた、当時記者だった伊藤明彦氏はこの仕事を『歴史への責任』と語った。その精神に則り報道し続けた被爆証言が、日本被団協のノーベル平和賞受賞の背景にあったと再認識させられた。
●NHK「性暴力」プロジェクト
放送と視聴者をつなぐサイト「性暴力を考える」が立ち上がったのは2019年。発言しにくかった性被害当事者、38000人以上の声が一気に集まり、実態を伝える貴重なデータとなった。この声をもとに制作されたクローズアップ現代などの番組は大きな反響を呼び、社会を動かす力になった。デジタル時代のテレビの、ひとつの在り方を示しているのではないか。